おまじないの本と少女のような
婚約発表があった日以降、王妃からお茶会に頻繁に呼ばれるようになった。それもこれも、今まで身に着けていた礼儀作法だけでなく、王族としての振る舞い方を教授してくれるためである。
「リーリヤは、さすがね! 王族に嫁ぐための教育がされていなかったと言っても、誰も信じないでしょう」
「王妃様、もったいないお言葉です」
「まぁ、本当のことを言ったまでなのに……公爵家に嫁がなくて正解だったわ! 私の可愛いリーリヤ」
会う日を重ねるごとに親密になって行く王妃との関係。少し、砕けた言葉使いをしてくれるようになっていることに気が付いたときは、嬉しかった。
公爵夫人も私を大切にしてくれていたけど、王妃は輪をかけたように優しく私を包んでくれる……まるで、本物の母のようだ。
「結婚式の数日前から、屋敷に帰って両親の元にいられるでしょうけど、ここは王宮。一度入れば、なかなか帰ることは許されません」
「わかっています。そのことは、公爵家の教育を受けていたときから、先生に言われていましたので」
「そう……王女の教育係がリーリヤを淑女にとしたのだったわね。あんな事件があったあと、こんなに早く親元を離れなければならないなんて……本物には敵いませんが、私を母だと思って、頼ってちょうだいね。リーリヤのためなら、多少は融通を利かせますから」
「いえ、そのお言葉だけで……」
「もう少し、母娘らしい話ができるといいのだけど」
はぁ……と物憂げにため息をつく王妃に、あたふたとしてしまう。こちらの気も知らずか、何か思いついたようで、侍女を呼び寄せていた。
「リーリヤは、今、おまじないの本を探しているのだとか。この国のものではないのだけど……昔、私が持っていた本が、参考になるといいかと思って持ってきたの。よかったら、読んでみてくれる?」
「ありがとうございます! これは、王妃様のご出身の国の本でしょうか?」
「えぇ、そうよ! 私は、少し離れた北の国からこの国へ嫁いできたから。ここからは、内緒ですけど……」
少女のように頬を少し上気させ、小声で私に耳打ちする。恋する女性とは、こんなに可愛らしいのだろうか? 親子ほど年の離れた王妃が、学園でよく見る、恋する令嬢のようであった。
「私、嫁いできたあと、陛下に愛される自信がなかったの。リーリヤみたいに魅力的な女性ならまだしも、嫁いだ時は、まだまだ子どもでしたから。それで、当時はやっていたおまじないの本を持っていろんなものを試したのよ!」
恥ずかしそうにしている王妃はとても可愛らしい。本を開いて、「ほら、ここ」と、当時試してみたものを教えてくれる。
「効果はありましたね? 陛下のお心は、王妃様だけのものですから」
「おかげさまでね!」
クスっと笑う王妃。私と同い年の子を持つ母と言うより、年の近いお姉さんのように感じてしまうほど、幼く見える。
「リーリヤも試してみると……って、その必要はないわね。どう考えても、セインはあなたしか見ていないもの。私にもたまには、リーリヤとこうやってお茶をする時間はいただけるかしら? セイン」
振り返ると、困ったような表情をしているセインが、「迎えに来たよ」と立っていた。
「……母上、リーリヤを独占しすぎではありませんか?」
「いいではないですか? セインが学園に行っている間だけですもの。私も可愛い娘とこうしてゆっくりお茶を楽しみたいわ! ねぇ、リーリヤ?」
「えぇ、王妃様とのお茶会は、とても楽しくて、いつもあっという間に時間が過ぎていきます!」
「リーリヤ、あまり母上に調子づかせると、毎日と言いかねないよ?」
「……でも、本当に楽しいですし、ためになるお話も聞けますから」
はぁ……と大きなため息をつくセイン。
「今日は連れて帰りますからね? いいですか?」
「えぇ、もちろん。また、お話しましょうね!」
セインに手をひかれ、慌ただしく退席する私に、王妃は優しく手を振ってくれた。その手には、借りたばかりのおまじないの本をしっかり持ち、セインの部屋まで連れていかれたのである。
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