号外
王宮の廊下も今日は騒がしい。ベルは、騒ぎの原因を知っているらしく落ち着いてはいるが、扉ひとつ向こうは、噂話でもちきりのようだった。
「王宮でも街でも騒ぎになっていますね!」
「……騒ぎ? 何かよくないことがあったのかしら?」
「違います! セイン様とリーリヤ様の婚約が、昨夜の夜会で発表されたのです。市井には、少し前に王宮から通知で発表されましたから、今朝は号外が出ているようですよ!」
「号外が?」
「リーリア様なら、読まれたいと思うだろうと思って、先程1部いただいてきました。お読みになられますか?」
「えぇ、読みたいわ!」
ベルが城外にてもらってきてくれた号外を読む。そこには、まぎれもなく『セイン王太子殿下ご婚約!』と大きな1面記事になって発表されていた。
「私、まだ、読んでいなくて……」
「そうだったの? ベルが、もらってきてくれたのに、先に読んでしまうなんて、申し訳ないわ! 一緒に読みましょう」
「いえ、リーリヤ様が読んだあとで、大丈夫です。この号外は、我が家にずっと置いておきたいものですから」
「では、いつもより、さらに丁寧に扱わないと!」
ふふっと笑い合い、私は号外へと視線を落としていく。
「何々……『セイン王太子殿下、ご婚約おめでとうございます。これまで、婚約については明言を避けてこられた殿下ではありますが、この度の突然の発表に驚いたものが多いと思います。街の様子からすれば、みなに愛される殿下の慶事に、喜びの声が多数上がっています。
ただ、今回、殿下はご婚約を発表されましたが、残念なことに、殿下の心を射止めたお相手のことは、語られることはありませんでした。
本誌独自に仕入れた話では、先日の夜会に招かれていた隣国の王女がお相手ではないかと話が持ち上がっています。お相手については、沈黙のままでありますが、殿下を始め陛下が夜会でおっしゃられた中に『学園の卒業式』という言葉が、度々語られたということで、もしかすると、もう間近に迫っている殿下の卒業式のパートナーとして、殿下に寄り添う姿を見られるのかもしれません。
残念なことに、私たち記者は、卒業式に出席はできませんので、直接確認することができませんが、殿下の選ばれた方です。どんな方だったとしても、この国の次期王妃としてふさわしい方をお選びになるに違いありません。
この度のご婚約、誠におめでとうございます』」
「リーリヤ様、読んでしまわれたのですね!」
最初は一人でもくもくと読んでいたのだが、だんだんと恥ずかしくなってきて、ベルに聞こえるように声に出して読んだ。
……大丈夫だと思ったのだけど、余計に恥ずかしいわ。
もじもじとしながら、もう一度、記事に目を通していく。
「……ごめんなさい、ベル。一人で読むには、なんだか気恥ずかしくて」
「いいですよ。私も、あとで婚約者と一緒に読もうと思っていましたから。確かに、セイン様も言っていたとおり、この時点では、リーリヤ様のお名前は、新聞には全く出ていないのですね。卒業式当日のお愉しみか……」
ベルは、嬉しそうに頬を緩ませているが、私は少しだけ怖いと思えた。
「……ベル?」
「どうかされましたか?」
「……本当に私が、セインの妃に相応しいのかしら?」
「リーリヤ様以外に相応しい方は、この国中を探しても、近隣国を探しても、どこにもいません。もっと、ご自身に自信を持ってください。セイン様に愛されているのは、他の誰でもない、リーリヤ様ただお一人なのですから。どんなことがあっても、セイン様がリーリヤ様をお守りしてくださいます」
「……重荷になったりしない、かしら?」
「リーリア様、それ以上言うと、怒りますよ! 私はセイン様の側で、ずっと仕えていました。リーリヤ様ほど、セイン様に相応しい伴侶はいないと、セイン様の元侍女頭であるこの私が保証いたします。それでは、不安ですか?」
探るように私を見つめてくるベル。その優しさに胸につかえているものが、少しだけ和らぐ。私の様子を見てベルが微笑んだので、私も微笑み返した。
「いいえ、ベルほど、信用できる人は他にはいないわ! いつも、励ましてくれてありがとう」
「私もリーリヤ様からは、いつも元気と優しさを分けていただいていますから。もうすぐ、ドレスも出来上がります。卒業式は楽しみですね!」
セインと同じくいたずらっ子のように、ニィっと笑うベルに私もつられて笑う。
卒業式は目前。与えられた課題も終わり、あとは、その日を待つばかりであった。
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