唇に人差し指を押し当て
いつもの時間にセインが部屋を訪ねてきた。ベルが通すと、どうやらいいことがあったのか、表情をみれば上機嫌のようだ。
「ようこそおいでくださいました」
「……『おかえり』がいいな。リア」
「ふふっ、では……改めまして、おかえりなさいませ、セイン」
「ただいま」
私に近づき、頬にそっとキスをする。後ろの方でため息が聞こえたようだったが、きっとベルだろう。
最近、だんだんと距離を詰めてきているセインを見て、呆れている。
「殿下、だんだんと、リーリヤ様にたいして、大胆になってきていますね?」
「……そうかな? リアは嫌?」
こちらを見てくる瞳には逆らえそうにないので、「いいえ」と答える。ベルはムッとしたような、呆れたような表情をこちらに向けてきた。
「リーリヤ様、セイン様を甘やかしすぎです!」
「そうなのかな? リアが嫌ならやめるけど、そうじゃないならいいよね?」
「……いいですよ、頬になら」
「お許しも出たことだし、ベル、許してね?」
有無を言わせないセインの瞳に、返事をすると、ベルをからかっていたのか、クスクスと笑うセイン。私が知っているセインより、最近はよく笑うことが多くなったなと見上げる。
「どうかした?」
「いえ、セインが以前より笑うことが多くなったなって思いまして……」
「そう? 僕は今までも笑っているつもりだったけど、そうは見えなかった?」
「えぇ、こんなに安心したように心から笑われているのは、人間に戻って以来しか知りませんから」
「そっか。それなら、答えはひとつだよ。リアがこうして、側にいてくれるから」
「……私ですか?」
「あぁ、リアがいてくれるだけで幸せな気持ちになるからね」
学園で見ていたころの微笑みより、優しい微笑みに私もつられてしまう。ベルもロンも同じようで、優しい雰囲気が、部屋に広がっていく。
「あぁ、幸せと言えば、今日、母に会ったんだってね?」
「えぇ、お茶会にお招きいただいて」
「何か変なこと言ってなかったかい?」
探るようにしているので、少しだけ考えるふりをした。すると、ソワソワと慌てだすセインを見て、微笑む。
「何も。王妃様が私と一緒に王族を支えていく者同士、末永く仲良くしましょうと言ってくださいました」
「そう……よかった。実を言うと、母が1番この結婚を心待ちにしているんだ。リアをお茶会に呼ぶのは、もう少し落ち着いた後でと言っていたのに、困ったなって思っていたところだったんだ」
「そうなのですか? 王妃様はとても、優しく迎えてくださいましたよ?」
「それなら、よかったよ。それと、卒業式まであと1ヶ月になった。そろそろ、僕の婚約を新聞などに発表することになった。今日はその報告を」
「そうだったのですね。私……」
「今回、リアの名は載せないよ。卒業式の日までは、僕だけの囚われの姫君だから」
「……セイン」
「卒業式が楽しみだね。リアが選んだドレスもだけど、より綺麗になったリアを見たアンダルトは、驚くだろうね?」
「……アンダルト様ですか?」
「聞きたいかい? アンダルトの近況」
「……いえ、そういうわけでは」
私は数ヶ月前に見かけたアンダルトのことを思い出した。エリーゼに振り回されているようで疲れていたし、深酒してしまうほど情緒が不安定だった。気にはなっていたけど、セインが元気になってきたので、口には出さないようにしていたのだが、私の心内に気遣ってくれたのか、話そうとするセインの唇に人差し指を押し当て、首を横に振れば、わかってくれたようだった。
私にとって、アンダルトは全てだったけど、今は違う。セインの瞳に映る私。少し恥ずかしいなと思いながら、甘えるように、セインに抱きついた。
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