婚約解消されたとき
「リアに聞かせてもいいものか、正直なところ、悩む話ではあるが……」
父は母の顔を見たあと頷きあい、私へと視線を戻した。私のことを大切にしてくれるその気持ちが胸を温かくする。
「リーリヤ自身のことだ。アンダルト様からの婚約解消について、しっかり聞いておくれ。ただ、今から話すことは、私の考えや話をしているなかで感じたこととだけ、前置きをしておこう。リアがアンダルト様を見限っているなら……私たちも、この婚約解消については、公爵家には何も言わないつもりだ」
父の口は重く、私のことを慮ってくれていることがわかる。
「侯爵は、リーリヤ嬢のことをとても大切にされていることがわかるな」
「……はい、セイン殿下。父も母も私にとって、自慢の両親ですから!」
私自身はニコリと笑うが、両親は娘に婚約解消の話をしないといけないことで、苦笑いするしかなかったようだ。
重すぎる口を父が開いた。
「元々、我が家より上位である公爵家には逆らえないということもあるが、アンダルト様が我が家に来たとき、一方的な婚約解消だったうえに、リアを探すつもりはないと言ってきたこと、傲慢な態度でうちの娘を侮辱するものだから、さすがにあのときは腹立たしかったものだ」
「……お父様。それで、どうなりましたか?」
「リアがいなくなってから1ヶ月したころ、元々、それほど熱心に捜索をしてくれていると感じていなかったのだが、捜索を打ち切りたいと申し出があったんだ。1ヶ月探してリアが出てこないのも、どこかへ平民の男と駆け落ちでもしたのだろうと言い始めた。
まず、その言葉に耳を疑ったよ。リアがどれほど、アンダルト様のために長年努力を重ねてきていたか、私たちは知っていたからね。泣き言一つ、アンダルト様にも公爵家にも言ったことはないだろうことも知っている。それを、そんな風に言われれば、腹も立つ。
あとから公爵に聞いた話、男爵令嬢があることないことをアンダルト様に言っていたらしい。そのせいでと謝られ、婚約解消を取り下げたいと公爵には言われたが、考えさせてほしいと、返事は保留になっている」
「……そうだったのですね。新聞で婚約のことは知っていました。お父様へ、アンダルト様がなさったこと、申し訳なく思っていました」
「リアが謝ることじゃないよ。それに、この婚約はなくなったことは、リアにとってもよかったことだろう。あれが、義息子になったのかと思うと、ゾッとする思いだ」
父もとても優しい人ではあったが、ここまで怒らせてしまうなんて、アンダルトは、どんな言葉で私を蔑んだのだろうか? 気にはなったが、これ以上蒸し返すのも、両親に申し訳ないので、聞かないことにした。
「そういえば、公爵家の捜索は未だ続いていると聞いたことがありますが、それは、本当ですか?」
「えぇ、続いていますよ。アンダルト様は、リアの捜索を金の無駄だと見限ってしまいましたが、公爵が続けてくれています。公爵としては、リアを息子の嫁にと諦めてはいないのでしょう。とても、気に入っていましたからね」
「公爵が気に入って。それは……アンダルトの弟を次期公爵にするために関係するのでしょうか?」
「そうでしょうね。少し、年は下になりますが、リアと年齢的にも釣り合いが取れる男の子がいますから。
ただ、私は、リアの婚姻について、公爵家と関わりを持たせるつもりはありません。叶うなら、リアが想う人と結婚させてやりたいと、あの日からずっと考えていますから」
「……侯爵。リーリヤ嬢が、次期公爵との政略結婚はない……そう、捉えていいのかい?」
「はい、おっしゃる通りです。セイン殿下。公爵家にだけは、何があっても嫁がせません!」
父の意思は固いようで、セインに言い切った。セインはそれに大きく頷き、少しだけ口角を上げて、なんだか嬉しそうにして、思わず口元を手で覆った。
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