気付かされた真実
「初めて、ネズミのリアを見つけたとき、外の渡り廊下でメイドたちに追われていたね?」
「……はい。お腹を空かせて、ふらふらと迷い込んだのです。あのときは、助けていただいて、本当にありがとうございました。必死に逃げてはいましたが、危うく命が尽きるところでした」
「うん、見かけたとき、必死に逃げていたから、驚いたけど……そうしたかったからいいんだ」
「何度、お礼を言っても、御恩はいいあらわせません。あの、セイン殿下は、あのとき、何故、ネズミである私を助けてくださったのですか?」
少し間があり、あの日を思い出しているようだ。私も、ネズミになった翌日のことを思い出してみた。
「……たまたま、部屋に向かうために近道をしたんだ。普段はしないのだけど、その日は、どうしてだったのか。気がついたら、あの廊下を歩いていた。そこに小さなネズミが一生懸命に追っ手から逃れるために角を曲がって駆けて来た。……なんだろう。僕にもわからないけど、どうしても、リアを……助けないといけない気がしたんだよ」
「不思議だよね?」と続けた。普段はしないことをたまたまセインがしてくれたおかげで、私は助かったことを知れば、偶然と偶然が重なったように感じる。奇跡だと言ってもいいだろう。
……幸運だったのね。私は、逃げることに必死だったからわからないけど、セイン殿下は、そんなふうに感じてらしたのね。聞けてよかった。
「そのあと、リアを部屋で匿ったのも、そうしないとっていう感情がわいたからかな? 一目見たときから、なんだか、リーリア嬢のように見えて、放っておけなかったんだ」
「放っておけないからって、ネズミを匿うなんて、普通はしませんよ? 優しいセイン殿下だからこそだと、私は感じていたのですけど……」
「リーリヤ嬢が感じてことと、少し違うね?」
私とのずれに、優しく笑っている気配を感じる。本人に否定をされても、私は「優しいセイン殿下だから」ということを思わずにはいられなかった。
「部屋に帰って、ポケットから出してあげると、ネズミらしからぬお辞儀をしたり、言葉を理解したりしていたけど……まさか、本物のリーリヤ嬢だったとは、思いもしなかったよ?」
「私も拾われたのが、セイン殿下だと気づいたとき、こんな小さな生き物へも優しさを持っていらっしゃるのだと驚きました」
「……何故、城に? アンダルトのところへ行かなかったのかい?」
セインには見えないが、私は苦笑いをする。セインも質問はしたものの、私が考えていることは感じ取ったように、「あぁ……」と小さく呟いていた。
……そういえば、アンダルト様のところへ行こうとは、今まで、考えたことがなかったわ。両親の元へとは、何度も考えて諦めていたけど。
セインに問われて初めて気が付いた。あれほど、「アンダルト様」の側にずっといたのに、両親の元へ帰ることしか頭に無かった。
「私、ネズミになったとき、真っ先に両親とアンダルト様のことを思い浮かべました」
「……やっぱり。なら、どうして?」
「その後の記憶をたどっても、アンダルト様の側に帰りたいとは、全く考えもしませんでした。セイン殿下に言われるまで、気付きもしませんでしたわ」
アハハ……と乾いた笑いをするセインに、私も似たような苦笑いをしておく。
紛れもない事実を知り、私自身に驚いてしまった。
……アンダルト様のこと、もしかしたら、ここへ来るより前には、見限っていたのかもしれないわ。政略結婚なんて、愛のないものでうもの。家族としての情を育ててはきたけど、愛しい人として、見ていたのかは、今では、もうわからないわ。
アンダルトとのこれまでのことを考えれば考えるほど、私の心は冷えていたことを知ることになった。
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