昨夜の出来事
先程の微笑ましい様子……実際は、生き生きしながらメイドたちの親が私のために新しく作る高額なドールハウスの話をしていたベルが、少し慎重な顔をしている。
「殿下にお伺いしたいのですけど、よろしいでしょうか?」
「なんだい? 改まって」
ベルが、何か聞きたいことがあるらしく、セインが反対側の席を勧める。「失礼します」と礼をしてソファに掛けたので、私は、ちょうど、二人の真ん中に陣取った。
「それで、どうかしたの? ベルが質問をしてくるのは、珍しいね」
「えぇ、気になっていたので、殿下が話せる限りで構いませんので、昨夜のことを少し教えていただけますか?」
「……昨夜って、アンダルトとのこと?」
「はい、そうです。幼い頃からのご友人でしたので、その、どうして、あのような形になってしまったのか、気になりまして」
「……ベルは、アンダルトのことをあまり好きではなかったからね。アンダルトがこの部屋を訪れることは、二度とないよ。安心して? で、いいのかな?」
クスッと笑うセインは、茶化すことで悲しい雰囲気を隠していた。ベルも今朝からのセインの様子に引っかかっていたのだろう。二人とも明るく振る舞うように努めてはいたが、気にはなっていたようだ。
「その……、アンダルト様との決別には、どういった経緯があるのでしょうか?」
「昨夜、アンダルトも言っていたように、公爵として爵位が継げないんだ。侯爵令嬢のリーリヤ嬢がいないと」
「リーリヤ様が? それは……」
「僕たちの年頃でリーリヤ嬢以外、上位貴族の娘で、公爵家に嫁げるほどの教養や礼儀作法ができるものがいない。あくまで、アンダルトが継ぐ予定であった爵位と釣り合いの取れる令嬢がいないんだ。
うんと年上か出戻りの婦人か未亡人、デビュタント前後の子はいてもね。年相のとれない女性との婚約は、アンダルトも望まないだろう? エリーゼ嬢を望んだくらいだ。
公爵位が継げないとわかっていても、エリーゼ嬢の実家の爵位のことはうやむやに出来ると思って、エリーゼ嬢を選んだ。
アンダルトは、『公爵が、男爵令嬢のエリーゼ嬢を爵位が低く教養も礼儀作法も出来ないから気に入らないという理由だけ』で、まさか、本当に継げないとは思っていないだろう。
リーリヤ嬢との婚約を解消してまで、エリーゼ嬢との婚約を進めてしまったのだから」
ベルも貴族令嬢であるがゆえに、釣り合う爵位のものと言われれば、わかったようだ。アンダルトは、そのあたりの認識がとても甘かった。男爵家は、代々受け継がれる爵位でない場合があるため、上位貴族と言われる家に比べ、知識も素養もないものが多い。男爵家だから、貴族。貴族だから、上位貴族と結婚ができるのだと思っている者も多い。
実際は、令息令嬢が次の爵位を継ぐことが多い上位貴族は、同列の爵位の家ものを選ぶ。下位貴族との縁組となれば、妾や愛人として扱われ、貴族夫人として扱われることはない。
「公爵夫人っていうのは、可愛らしければいいってものじゃない。貴族の中でも、王族に次ぐ爵位だ。とりわけ手本となるような貴族の在り方を示さないといけないけど、エリーゼ嬢では、公爵夫人になるよう教育されていないから、それらはできない。伯爵夫人にすら、なれやしない。
男爵家では、教えられないのさ。貴族が貴族に牙を剥くことを。厳しい世界であることを。それを小さいころから、リーリヤ嬢は捌く訓練をしている。もちろん、アンダルトも次期公爵として、今までいたのだから、訓練はしていただろうけど、リーリヤ嬢に頼りきって遊び歩いていたからね。リーリヤ嬢がいなくなってなるべくした、昨日の失態だった」
昨日の夜会でのことを思い出しているのか、二人がお互いの顔を見合わせ苦笑いをした。
……そういえば、アンダルト様は、どんな失態をしてしまったのだろう? 私がいないからと嘆いていたけど、私がいなくても、今までどおりなら、多少の失敗はあっても、嘆くほどの失敗はしないでしょうし、特に夜会で困ることはないと思うのだけど。
夜会での作法を考えながら、アンダルトの様子を想像してみることにした。
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