恋をしている?
ベルが私の方を見ている。鋭い視線は、何か獲物でも見つけたハンターのようで、わからない程度に後ずさった。
「私、ここしばらく、ずっと考えていたんですけど……」
「なんだい? 改まって」
「……殿下に恋をしているんじゃないですかね? ずっと、殿下のことを心配してくれていますもの」
「……えっと、誰が?」
「リア様が」
「……リアが? そうなの? それだったら、嬉しいけど……うーん」
「ちゅう!(違います!)」
いきなりベルが『恋』だなんて言いだすから、驚いてしまった。セインもこちらを見て優しく微笑んでいる。焦って、さらに後ろに後ずさったら、自分の尻尾に躓いてポテンと尻餅をついてしまった。
……違わないこともないけど、この想いは、このまま胸にしまっておくことになると思います! だから、これ以上は暴かないで!
「リア? またしっぽが……」
「ちゅう、ちゅちゅちゅう……(セイン殿下、お気になさらないでください)」
「……リアの言っている言葉が、僕にもわかればいいのにね?」
「でも、その場合、殿下はリア様のお心には添えないんじゃ……」
「……そっか。そう、だよね。それほど遠くない未来に、政略結婚も待っているんだし、それに……」
……私のことを想ってくださっていることは知っていても、セイン殿下の知る私ではないことが、こんなに苦しくなる日が来るなんて、思いもしなかった。そんな寂しそうな表情、なさらないでください。
戻りたい……、できることなら、セイン殿下の側に少しの間だけでも並び立ちたい。
見上げたセインの表情は複雑だった。嬉しいと言ってくれた言葉通りの表情のあと、政略結婚のこと、私のことを考えているのか、曖昧に笑っている。
セインだって国のためだとわかっていても、心まではどうすることもできないようだった。
社交の場へでれば、きっと、上手に取り繕ってしまうのだろう。私の前でそうだったように、ただの友人の一人として、心配してくれていたように、心を隠してしまうのだろう。
「……殿下の政略結婚は、いつごろ決まるのですか?」
「……まだだよ。父から、与えられた猶予時間はもう少しだけしかないんだけど、今は、王太子として執務になれるまでは、婚約や結婚は考えられないって……逃げているんだ」
「そうですか。殿下もいずれはと、考えてはいらっしゃるんですよね?」
「それはね、もちろんだよ。王になるなら、次の世代は必要だしね……僕だけの感情では、どうすることもできないよ。アンダルトとの婚約解消が世間に発表されている今なら、リーリヤ嬢にもこの想いを伝えることはできるけど、その本人がいないから伝えることもできそうにないし。こればかりは、運命のいたずらだなって思うな」
自嘲したように笑うセイン。自身の幸せより、国の幸せ、誰かの幸せを願っているセインの幸せは、ないのだろうか。セインを見つめるために、見上げた。
「父上の様子からして、待ってもらっても、学園卒業までだと思うよ」
「あと、数ヶ月ですね。あっという間です」
二人と一匹が、ままならない現実に目を向け、大きなため息をついた。お互いの顔を見合わせ、もうひとつずつため息をついた。
……学園卒業までだと、あと、本当に猶予は少ししかないのね。もし、セイン殿下の婚約者になる方が、私のことをよく思わなかったら……、私は、また、家を…………違う、ここには、きっと、いられない。セイン殿下からもらう愛情を失うことになるのね。
そうなったら、残りのネズミの生の間、お父様とお母様がいる屋敷へ戻ることを考えないといけないわ。
……ここから、離れたくない。こんな我儘、考えたこともないけど、残り少ないかもしれないセイン殿下との生活を胸に刻みましょう。
未来に起こるだろう寂しさを隠す。今は、私のことより、セインのほうが大きなものを失ったばかりなのだ。もっと、セインの心に添えたら……そう考えずにはいられない。
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