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【連載版】 小さくなった侯爵令嬢リーリヤの秘め恋  作者: 悠月 星花
過ぎていく日々

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55/94

いつかは

 ……中庭とは聞いていたけど、どこにいくのかしら?


 ひょこっとマフラーの間から顔を出し周りを見ている。マフラーと同化しているうえ小さいので、私のことは誰一人として気付くものはいないようだ。

 すれ違う人みなが頭を下げていく。王太子の侍女頭であるベルに対しても、たくさんの侍従たちが羨望や妬みを持ちながら頭を下げていたが、王太子であるセインが歩けば、同じように見えていても、見える景色が違うように感じた。年若いメイドたちからは熱い視線を向けられているし、一人歩きしているセインに共をと申し出ている兵士もいた。

 そのどれもにやんわりと笑顔で流していくセインはさすがである。


「寒くないかい?」

「ちゅう(はい)」


 マフラーの間でぬくぬくとしながら、セインの視線で周りを見ているのは楽しい。ベルより背が高いので、よく周りも見えた。


「今日は、スモモの木を見に行こう。まだ、花も実もないけど……、リアと一緒に見たくなったんだ」

「ちゅう(楽しみです)」


 連れて行ってもらった中庭の先、大きく枝を伸ばしているスモモの木が目の前にあった。


 ……記憶の中の木も大きかった気がするけど、あの頃より、さらに大きくなっているわ。


 ポカンと思わず口を開けて見上げる。冬の高い空に何もない木の枝が茶色に大きく伸びていた。


「春になると、リアの毛色ような白い花が咲いてとても綺麗だよ。そのころになったら、また、一緒にここで見よう。その頃になったら……」

「ちゅう?(どうかしましたか?)」

「うぅん、なんでも。ずっと、リアと一緒に暮らせるといいなぁって思って。なるべく長く一緒にいられるといい。ネズミの寿命って、どれくらいなんだろう? 人間より確実に短いはずだけど……大切にするよ」


 ……寿命のことは、わからないです。人間ですし、普通のネズミとは違うのではないかと。でも、私も、セイン殿下となるべく長く一緒にいたいです。ご婚約もそろそろ決まるのでしょう。だから、それほど、長くは一緒にいられないのかもしれませんが。


 冷たい風が頬を冷やしているようで、マフラーからそっと両手を出してセインの頬にあてる。冷たい頬に触れ、ぶるっと体を震わせた。


「あったかいね?」

「ちゅう?(冷たいですよ?)」

「そろそろ帰ろうか。冷えてきたし。壊れたドールハウスもどうするか、考えないといけないしね……リアの部屋がなくなると、困るよね」


 一人と一匹が、うんうん唸りながら帰ってくると、ベルがニッコリ笑っている。その笑顔が少々怖いような気がしたのだが、セインは何となしに理由を聞いてしまった。


「ドールハウスですけど……皆様で弁償をしていただくことになりました。いつかは、リア様にも家族が増えるかもしれないので……カトラリーを増やしてもらいましたので、最初に購入したときより、多少上乗せになっています。結構な金額になってしまいました!」

「……ベル?」

「どうかなさいましたか? 殿下」

「家族が増えるって?」

「リア様にも、いつかはって、殿下は何を言わせるのですか!」


 ちらりと二人が見てくるが、私には全くそんな予定はない。元は、人間なのだから……。他のネズミと家族を作ることなんて、考えてもいないし、ネズミのほうも迷惑だろう。首を横に振り小首を傾げてとぼけておく。


 ……このまま、セイン殿下の側にいさせてもらえれば、私は何も望みません。それより、結構な金額って、どれくらいなのでしょう。そちらの方が、怖いですけど……。ベルもいい笑顔でしたし。


 ベルをそっと盗み見ると、私の視線に気づいたのか、満面の笑みが返ってきた。


 ……ご愁傷様です。メイドたちのご家族の方々。ベルを怒らせることだけは、してはいけないわね。


 私はブルブルっと体を震わせ、視線を逸らし、その笑顔の正体を見なかったことにした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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