壊れてしまったもの
「……ちゅう?(……もう朝?)」
翌日、セインより早く目が覚めた私は、ぼんやりと昨夜の二人のやりとりを思い出していた。セインとアンダルトは、5歳から友人として共に成長をしていたことを私も知っていた。親友であると自他共に考えていただろう。
……セイン殿下は、アンダルト様との決別、とても辛いでしょうね。学園へ行けば、話すことくらいはあるでしょうけど、アンダルト様とは、もう……。
二人は付かず離れずの距離をとりながらも、親友としてお互いに心を許していた。私にも言えないことでも、アンダルトがセインには心の内を言っていたように、私よりずっと、二人の心の距離が近かったのだと、知っている。
物静かで優しいセインと快活で少々粗野なアンダルト。全然性格の違う二人ではあったし、親から与えられた友人関係ではあったが、お互いの部屋を行き来するくらいに仲がよかった。
「……んん。リア、もう起きていたの? 今日は、いつもより早いね?」
「ちゅう! ちゅちゅう!(はいっ! おはようございます!)」
「ん、おはよう……。どうかしたのかな?」
「ちゅう(なんでもありません)」
私が感傷的になっても仕方がないのだが、どちらの心にも、きっと埋められない穴ができただろうことを想わずにはいられなかった。
「今日は、学園も公務もお休みだから、朝食後、少し外に散歩に出ようか?」
ふぁあと伸びをしているセインを見上げ、コクンと頷くと、セインが起きた気配を感じたのか、ベルが部屋に入ってきて挨拶をする。セインもそれに応え、ベッドの縁へと移動する。準備された朝の支度を済ませていく。
ベルのほうは、昨日の留守の間に起こった出来事について、朝食の用意が終わったころ、話をすることにしたらしい。少々顔が険しくなっている。
「朝食を食べ終わったら、散歩に出かけようと思うんだけど……」
「かしこまりました。準備いたします。どちらに向かわれますか?」
「中庭かな。少し寒いかもしれないから、ぐるっと回ってきたら帰ってくるよ」
「では、コートの用意をしますね。……あと、大変申し上げにくいのですが、殿下に報告したいことがあります」
「何だい? よほどのことじゃなければ、今日は驚かないよ?」
「……よほどのことだと思います」
「じゃあ、ちょっと心づもりするから待って」
珍しく、茶化すようにベルに答え、セインは呼吸を整えた。その姿は、普通に見えていても、昨日までのセインとどこか違い、私の胸を締め付ける。
「もう、いいよ。何かな?」
「……その、リア様の私室が、メイドたちによって、故意に壊されました」
「何だって? リアの部屋が?」
「……私の監督不行き届きです」
「いや、仕方ないだろ……それより、リアはどこもなんともない?」
セインは驚きもあったようだが、心配した様子でこちらを見てくるので、コクと頷く。心配をしてくれるのが嬉しくて、少しだけ胸が温かくなる。
「リア様は、ご自身で判断されて、メイドたちが部屋に入ってきたときには物影へ隠れていらしたので、なんともなかったようです。私も部屋に入ったとき、メイドたちが、勝手に殿下の部屋に入っていたことにとても驚きました。
それで、本日、そのメイドたちの処遇と弁償について、親御さんを交えてこれから話し合おうと思います」
「……うーん、それは、任せても大丈夫?」
「はい、それは……。処遇については、どういたしましょう?」
「処遇ね……弁償は、どうだろうね。結構な金額になるし、メイドの給金では……」
「そこは、親元になんとかしていただこうかと、昨日、夜会帰りに呼びつけておきました」
「……さすがだね?」
……その親御さんは、一晩生きた心地はしなかったでしょうね。セイン殿下の筆頭侍女から、呼び出しなんて。内容が伝えられていなかったら、野心家や暢気な親なら、殿下のお手付きなんて夢見ているのかもしれないけど……私物を壊したとなれば、顔面蒼白どろこじゃないわ。
苦笑いするセイン。やる気満々のベル。その両方をチラチラと見上げ、朝食を摂る。私はちょこんと座ったまま二人のやり取りを聞いていた。
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