決別
「アンダルト。君との友人関係も今日までだ。もう、ここには来ないでくれ」
「……セイン様!」
「さぁ、もう、帰ってくれ!」
珍しくセインが強めに言葉を発することに、私もアンダルトも戸惑っていた。アンダルトの縋るような目は、セインの決定を受け入れられていないことを表していた。身動きできずに、その場で凍り付いてしまったようなアンダルト。
すると、セインは扉の方へ迷いなく歩いて行き、開け放つ。ベルも慌ててセインについて行き、閉まらないように戸口を抑えていた。
セインの行動を見たアンダルトは一瞬目を見開いて驚き、すぐさま貴族らしく表情を取り繕った。諦めたように席を立つと、「失礼しました」と小さく消え入りそうな挨拶をし、部屋を後にした。
扉を閉めたセインは、大きなため息をつき、そのまま扉を背に崩れるようにその場に座り込んでしまう。
「ちゅうっ!(セイン殿下!)」
「殿下っ!」
私は物陰から駆け寄る。ベルがセインを支えるようにすると、「大丈夫」と声にしてくれるけど、その声も表情もとても辛そうにしている。この先、アンダルトは、公爵に認めてもらえないエリーゼとの婚姻により、爵位を得ることはできないだろう。だから、セインの近くにはいられない。いくら友人だったとしても、アンダルトがこれから先、爵位がないことで窮地に立たされることも多くなる。
王となるセインを後ろ盾に、好き勝手されるわけにはいかないうえに、あることないことの噂が広まってしまうとお互いに困ることが多くなるからこその決別だったことは、表情を見ればわかった。
……他に方法はなかったのかしら。これが1番正しいのだとわかっていても、セイン殿下の優しい心が壊れてしまわないか、とても心配。
膝の上に乗り、セインを見上げていると、私の心まで何かに掴まれているかのようにギュっと痛くなる。
「少し早いですけど、今日はもう、リア様とゆっくりおやすみください。殿下も、少々お酒の量が多いように思いますから」
「……そうだね。ベルのいうとおり、休ませてもらうよ。ありがとう、ベル」
「いえ、私は何も。殿下、立てますか? ベッドまで向かいましょう」
「あぁ、すまないね。肩を貸してくれるかな?」
「もちろんです」
ベルはしゃがみこんで、セインの腰へと手を伸ばす。セインは、移動するために、膝にいた私に左手を差し出してくれるので、そこに乗った。
「リアも、こんな僕の情けない姿……」
「ちゅう!(そんなこと!)」
泣いてしまうのではないかと思えるほど、セインの揺らぐ瞳。
ベルの肩を借り、よろよろとベッドへと向かうセインは、表情がどこか抜け落ち、苦しそうにさえ見えた。
ゴロンと転がるセインに押しつぶされないように、ベッドに着いたときには、反対側の端へと避難し、覗き込むように見つめる。
……セイン殿下。
「ゆっくりお休みください」
ベルは、不安そうにしている小さな子どもを安心させるような優しい笑顔をセインに向けている。幼いころから、お世話をしていたらしく、お姉さんのようであった。
机の上に並んでいたものをさっと片付け、静かに部屋を出ていった。
私は寝転がったセインの側へ駆け寄り、枕元で眠るのをそっと見守る。強張っていた表情をしていたが、ベルの優しさやお酒の力か、すぐにセインは夢の中へと向かった。
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