闖入者たち
見ていることしかできないからと、グッと小さな手を握る。
「セイン殿下は、毎晩、ここで眠っていらっしゃるのね! あぁ、なんていい香りがするのかしら?」
「殿下は、勉学が好きだって言っていたから、ここで眠っていらっしゃるかもしれないわよ?」
一人はベッドに、もう一人は机に、残りの一人は、私のいる方へ歩いてきてソファにどかっと腰掛けた。
「ここでお勉強なさっているかもしれないわよ? ほら、ここに食べかけのクッキーがあるもの!」
私用にとベルが置いて行ってくれたクッキーをメイドの一人が何も知らずにつまみ始めた。
……やりたい放題。ベルが他の侍女やメイドをこの部屋に入れたがらないのって、こういうことがあるからなのかしら?
自室を好きにされたら、気分のいいものではないことくらい、このメイドたちは考えないのかしら? 仮にも、貴族の令嬢たちなのだから。
メイドたちが自由にセインの部屋を歩き回って、「セイン殿下」と少々熱のこもった眼差しを向けているなか、一人のメイドの目についたものがあった。
「ねぇ! みんな、来て!」
「どうしたの?」
「えっ? 何これ……ドールハウス?」
三人が顔を見合わせ、「可愛い!」と声を揃え、私の私室をも荒らし始めた。ベッドや食器など、信じられないほど、手荒に扱っていく。セインやベルでさえ、丁寧に扱ってくれるそれらを無遠慮にされているにもかかわらず、見ていることしかでない。
……悔しい。二人が大事にしてくれているものを。そんな雑に。
「セイン殿下の趣味かしら?」
「それなら……、やばくない? 成人した男性が、ドールハウスだよ?」
「えぇ、でも……優しい殿下ですもの。変わった趣味のひとつやふたつあったとしても、何でも許せちゃうわ!」
きゃっきゃっと喜びながら、ベルがきちんと整えてくれているドールハウスを荒らしていく。ベッドやカトラリー、机など、次から次へと外へ出されていった。
……セイン殿下がくれたものなのに。……ひどい。なんてことをしてくれるの?
怒りがわいてきても、私があの三人に立ち向かうことは出来ない。三人をよく見れば、王宮へ来たときに追いかけられたメイドたちである。私が出ていったら、また、騒ぎになるだろう。それも、セインの部屋で。今よりもっと荒らされてしまうし、人も来て騒ぎになるだろう。王家主催の夜会中。それだけは、よくない気がして、三人がしていることをこそこそと見るしかできなかった。
設えられたものを、無理に引っ張ったりして、いつの間にか、ドールハウスの中が空っぽになる。
「そういえば、殿下お気に入りのお人形がないわね?」
「本当ね? お人形がないのなら、このドールハウスは、何のためのもなのかしら?」
「セイン殿下のなさることだから、私はちっとも気にならないけど!」
一人が胸を張っていうと、他の二人もクスクスと笑う。
……あぁ、カトラリーを踏んでしまうわ! ベッドも。危ない!
パリン……無残に踏みつぶされるカトラリー。ばらばらになってしまったそれらを見て、胸が痛くて仕方がない。
床に置かれたそれらは、メイドたちが、はしゃぎながらドールハウスを無茶苦茶にしている間に踏みつけてしまった。
割れたカトラリー、踏みつぶされ折れたベッド、お風呂やその他の調度品もあちらこちらと傷だらけになっている。
メイドたちのやりように何もできない私はただただ悔しい。今すぐにも出ていって、叱ってしまいたいのにネズミの私には何もできず、グッと我慢するしかない。
……ベル、早く帰ってきて。
神にでも祈るかのように、胸の前で指を絡ませ手を組み、嵐がすぎるのをじっと待つ。
セインやベルが大切にしてくれているものを闖入者たちによって、雑に扱われている現状を物陰から見ているしかない情けなさに嫌気が差した。
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