夜会ちゅう
今夜は、王家主催の夜会らしい。私はもちろんセインの私室でお留守番をしているところだ。ベルが用意してくれたクッションの上に座り、「そういえば……」と、新しい年を迎える前に、盛大な夜会が開催されていたことを思い出す。
社交界にデビューしてから何度か出席をしたことはあるが、学園に入って数回出ていた夜会も、アンダルトからの誘いがなく、出向くことは少なくなっていた。
それでも、出席しなければならないものは、従兄にエスコートされ出ていたが、数えるくらいのものである。
……アンダルト様と出かけていた頃が懐かしいわ。公爵家から贈られた新しいドレスと宝飾品を身に着けて。大人たちの中に混ざり、たくさんの方たちと楽しくお話をさせていただいたわね。
遠い昔の思い出を懐かしむ。アンダルトといつも一緒にいたから、大人たちにはからかわれたりもしたが、きちんとした成人として挨拶をすれば、淑女として対等に扱ってくれ、とても楽しいひとときを過ごしたことは今も忘れない。父世代の方と社会情勢などの討論をすれば、とても白熱したし、母世代の方となら、流行についてたくさん教えてもらった。
キラキラした世界は、私をより一層淑女として知識も経験も公爵夫人になるために磨いてくれる、そんな特別な世界だった。
楽しい時間を突如として遮るものがあるとすれば、アンダルトの言動ではあったが、他の貴族との間に入って行かなければならない……、それすらも私にとっていい経験をしていたとさえ思っていたのだ。
……懐かしいわ。あんなにキラキラと輝く時間は、もう、私にはないのね。
王家主催の夜会であれば、王太子であるセインが夜会へ向かうのは当たり前だ。侍女頭であるベルも会場の中でセインの側に控えているので、今夜はいない。久しぶりに部屋で一人になった。
……誰もいないと、とても心細いわ。私も行きたかったな。例え、誰ともおしゃべりできなかったとしても。
夜会への憧れが募る。静かな部屋で、聞こえてくるダンスのための音楽に、寂しさを感じないわけがない。着飾りたいわけではない。あの場でたくさんの貴族と交流をもつことが私の生きがいであったのだ。
顔だしをして、会場が落ち着いたら帰ってくると言ってくれたセインではあったが、それでも、数時間はかかるだろう。王太子への挨拶を受けるだけでも、最低2時間はかかる。ベルもその間は、下がることが出来ないので、一人……一匹での留守番も仕方がない。
用意してくれてあるクッキーを手に、ぼんやりとしていた。
……何もすることがないわ。
カリカリと前歯でクッキーを砕いていると、急に部屋の扉が開いた。
「殿下が、夜会に行っている間だけ……殿下と同じ空気を吸えるわ!」
「それって、なんだか、変態よ!」
「そんなこと言って、あなたも、深呼吸しようとしているじゃない!」
「だって……憧れなんだから、仕方がないでしょ! 私のような下級貴族なんて、殿下が相手にするわけないし……」
「それよね。今日も隣国の王女様が来ていて、ずっとセイン殿下にべったりだって話じゃない? 王太子妃になりたいんじゃないかって噂、本当かもしれないわね?」
「確かに、殿下は見た目も中身も全て完璧だけど」
「ふふっ、確かに。いいわよね……いつか、殿下の隣に立てる方が羨ましいわ!」
「みんなの憧れよね!」
セインの部屋に入ってきたのは、いつかの三人のメイド。ベルがいないのをいいことに、許可もとらず、勝手に入ってきたようだ。
私は、食べかけのクッキーを机に放り出し、メイドたちに見つからないように素早く物影に隠れた。
……えっと、これは? お城では、こんなことが、まかり通っているの?
主人でもない、セインの部屋へ勝手に入って、あちこち見て回ったり触ったり……ベッドに寝転んだり。好き勝手しているメイドたちを物陰からこそこそと見ていた。
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