月夜のダンス
アンダルトが来た日以降、元気のないセインがとても気になっていた。アンダルトが私を探さないと宣言し、私の両親への申し入れにより、私との婚約解消後、さっさとエリーゼとの婚約を発表したため、代わりに私を探してくれている。
先日は、公爵自ら、セインを訪ねてきていたようだったが、私は、その話し合いには参加することができなかった。ベルが少しだけ聞いた話によると、押収された私の荷物の中に、私の失踪に繋がる何かが発見され、それを手がかりに公爵と父が動いていると聞いた。セインもそれに協力する形で、お互いの情報交換をしながら、私を捜索してくれているようだ。
息子であるアンダルトが探さない私を義父となるはずだった公爵は、未だ、祖父たちの約束のために諦めずに探してくれているそうだ。
小さくため息をつくセイン。痛々しいほど、私のことを考えてくれていることが伝わってくる。
……セイン殿下の目の前に私はいます! それを伝えられたら、どんなにいいのだろう?
この1ヶ月の間、ずっと考えていた。新聞で、字を拾って名前を伝えても、新聞の上をチョロチョロと走り回っているだけにしか見えず、「可愛いね」と微笑まれるだけで、セインもベルも、私が『侯爵令嬢のリーリヤ』だと受け取ってくれない。
……どうしたら、セイン殿下は、私がリーリヤだって気が付いてくれるのかしら?
セインに気付いて欲しくて、必死だった。アンダルトのことを見限ってからは特に。
私が見つからないことに、とても心を痛めてくれていたのは、ずっと側にいれば、苦しいほど感じていたから。
アンダルトとの友人関係もよくないと、ベルが零していたことも気になっていた。
……私の今の気持ちも、ちゃんと私の口からセイン殿下に伝えたい。
この2ヶ月、大切にされ、私は十分なほどの愛情をセインから受けた。アンダルトから向けられたことのない愛情をこの小さなネズミの私に。
ペットへの愛だとしても、優しく『リア』と呼ばれる日々は、私にとって代えがたいものだ。
「ちゅ、ちゅうちゅうちゅ?(セイン殿下、今日もお疲れのようですね?)」
「ん? もう眠いのかな? そろそろいい時間だね?」
チラリと時計を確認している。
日頃の勉強も食事も湯あみも終えた後、毎晩、私の捜索について、検討してくれていた。捜索と言っても、それほど多くの兵を動かせるわけではない。数人を自腹で雇って、探してくれているのだ。
……もう、探さないで欲しい。
地図にシルシをつけているその手に、近寄って、そっと両手を置く。見上げると、寂しそうな、なんとも言えない微笑みに心臓がギュっとなる。
「……少し、外の風に当たってくるよ!」
バルコニーへ向かうセイン。本格的に冬が始まり、風はとても冷たい。窓の外を見ると、今日は満月のようで、とても明るい。月明かりに憂いを帯びたセインが、泣いているのではないか……と、錯覚してしまうほど、儚げに見える。少しだけ開いたドアの隙間から囁くように聞こえるセインの声。
「……リーリヤ嬢は、こんな寒空の中、どこにいるのだろう? 体調を崩してなければいいけど……」
……セイン殿下の側で、何不自由なく温かく過ごさせていただいています。
何も出来ず、ただ、見守るしか出来ない私自身が情けなく、胸が押しつぶされそうになる。呪いを解く方法があるのなら……と、ずっと考えてはいた。答えは見つからず、セインに心配をかける日々。辛いと同時に、このままセインの側にいたいと甘い考えがあることもわかっていた。
私もバルコニーへと駆け、手すりを登っていく。手すりにもたれかかり、満月を見つめるセインの隣にちょこんと座った。
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