招かれた客人Ⅱ
……私、やっぱり、どこか変だ! 胸が、急にドキドキとしたり、ネズミになってからおかしなことばかり起こる。早く、おさまって……。
セインの元へ来た日から、セインの顔や仕草で急に胸が高鳴ることがある。病気ではないのだと信じたいのだが、よくわからない。セインの笑顔を見ると嬉しくなるし、沈んだ表情を見れば苦しくなる。ここ数日、暇さえあれば、いつもセインのことを考えてしまっていた。
セインが何をした、セインがどんなことで笑った、セインがどんなことで悩んでいる。ずっとこの調子である。
「セイン殿下、アンダルト様がおいでです。お通ししてもよろしいでしょうか?」
ベルとは別の侍女がノックして取り継ぎをした。その人物は、セインの返事を待たずに部屋に滑り込んで勝手に挨拶を始めた。声を聞けば、その失礼な態度を取った人物が誰だかわかる。私のよく知る人だ。
「セイン様、急な呼び出し。お話とは、一体なんでしょうか? これから、友人と出かける約束があるのです。手短にお願いできますか?」
アンダルトの挨拶後の開口一言目から、セインへの失礼な態度にとても驚いた。気の置けない幼少期からの親友のためか、アンダルトの言い方が、王子の呼びかけに対しひどい物言いである。王子に対して、その言葉遣いは、王子が王太子になったとき、その後、王になったとき、アンダルト自身が必ず困ることになるだろう。アンダルトは、私が知る限り、セインに対して、もっと敬意を払っていたはずなのにと、離れていた一ヶ月の間にずいぶん変わってしまったことを思うと辛くなってきた。
「わかった。では、座ってくれ。早速、本題に入ろう」
勧められた椅子にかけ、アンダルトがこちらをじっと見つめてきた。私が見つめられているわけではないが、人間であったときですら、目を合わせることが少なくなってきていたので、なんだか久しぶりな気がした。
「それで、何でしょうか? セイン様が思っているより、ずっと忙しいのです」
「そうか。聞きたいことがあって呼び出したんだ。アンダルトの婚約者であるリーリヤ嬢のことだが……」
「なんだ、リーリヤのことですか? いなくなってから、もう一ヶ月が経ちます。現場に残されていた衣類などからは特に何もでず、手紙など手掛かりになるようなものもなく、急にいなくなった。俺は、侯爵家が嫌になり、出奔したと思っています」
「なにゆえに、そう思うんだ? アンダルト、君との関係に悩んでいたということはないのかい?」
「そんなことはないでしょう。公爵夫人となれる栄光をリーリヤ自身が無下にするとも思えない。侯爵からすれば、上位貴族へ嫁がせられる絶好の駒でしょう?」
「アンダルト、そんなことを考えているのか?」
「普通のことでしょう? 侯爵といえど、その上位に娘を嫁がせ、おこぼれでいい思いをするのは、当たり前ではないですか? リーリヤにとって、それがどれほどの親孝行、いや、爺孝行なのかわかっているはずですよ! それが、今更」
アンダルトが言い放ったことに言葉をなくした。
……私のことをそんなふうに思っていたのか。私だけでなく、両親のことさえも。
虚しい心を耐えていれば、私だけではなく、セインも同じような思いなのか、悔しそうに唇を噛み締めている。
「リーリヤ嬢は侯爵令嬢。紛れもない事実だが、事件に巻き込まれた、誘拐されたということはないのか? 着衣だけならまだしも、下着も全て中庭にあったと聞いている」
「誰か、他に手引きできる男がいたんじゃないですか? 誘拐のように身代金の話も侯爵家には届いてないですし」
「……アンダルトは、リーリヤ嬢を探さないのか?」
セインのしぼりだすような声に、ポケットの内側のシャツをギュっと掴んだ。セインはそれでもこちらを見ることなく、アンダルトに対し、怒りを我慢しているような強張った顔をしていた。
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