招かれた客人
ベルとの散歩から部屋に帰ってしばらくしたころ、セインも街から戻ってきた。思うような収穫はなかったのだろう、その暗い顔を見ればわかる。
……セイン殿下、探している私ならここに。
街を探しても私が見つかるはずもない。エリーゼに呪いをかけられた翌日に王宮へ忍び込み、セインにメイドたちから助けられた以降、ここにいるのだから。1ヶ月前から、寝食を共にし、ずっとセインを側で見守ってきた。言葉に出来たら、どんなにいいだろうか。言葉にできないもどかしさに、胸が痛む。今の私が俯いているセインに寄り添ってもいいものか、躊躇ってしまった。
「リア様、どうかされましたか? しっぽが元気ないですよ?」
沈んでいるセインに聞こえるよう、ベルが私の様子を話すと、俯いていたセインがこちらを向いた。ハッとしたような表情。みるみるうちに、私の心配へと様変わりする。
「……どこか具合でも悪いのかい? えっと、今日は……」
「えっ? 具合が悪かったのですか? それとも、その、私の一存で、外に連れ出したことが体調不良に?」
慌てるベルに違うと首を振ると、セインの驚いた声が聞こえてきた。
「えっ? 外に?」
「はい。リア様はずっと部屋に閉じこもりきりだったので、少し気分転換にと誘ったのです」
「あぁ、それで。疲れたかい?」
私は首を横に振り、元気だよ! と、その場で一回転した。それを見てホッとしたのか、二人とも胸を撫でおろしたようだ。
「よかった。リアに何事もなくて……リーリヤ嬢の方は、何も手がかりすら掴めなかったから……」
「そうだったんですか。殿下、リーリヤ様の婚約者様もお探しでしょうから、気落ちせず、朗報を待ちましょう!」
今のアンダルトの様子を知っているのか、「そうだね」と弱々しく言葉にするセイン。自身のことでも心配をかけ、アンダルトのことでも迷惑をかけているのではないかと思うと、申し訳なさ過ぎて押し黙った。
「婚約者と言えば、今日、予定があったはずだね?」
「えぇ、聞きおよんでいます。お時間までには、まだ少しありますから、今から準備いたしますね」
「頼むよ。……どんな心境なのか、計り知れないけど、もてなしてくれ。あぁ、それと……その髪飾り、また、使ってくれているんだね。ベルに、よく似合うよ」
髪飾りに気付いてもらえ嬉しそうにしているベルが「かしこまりました」と部屋を出て行き、一人と一匹になる。机にちょこんと座り、さっきまでのことを考えていた。
……人に戻れるのが、1番いいのよね。セイン殿下のお心をこんなにまで苦しめて。ネズミのままでもいいだなんて……とてもじゃないけど、言えないわ。
どうしたら? と考えていると、「リア」とセインに呼びかけられる。俯いていたので、見上げると、さっきの辛そうな表情ではなく、優しい微笑みに変わっていた。
「今日は、僕の小さいころからの友人が訪ねて来るから、リアのことも紹介しよう」
「ちゅ……ちゅちゅう? (それって……アンダルト様のことですか?)」
首を傾げてみれば、「もうすぐ来るよ」と胸ポケットに入れられる。ポケットの中で、大人しくする。
……アンダルト様のことですもの、きっと、今の私のことをバカにするか殺そうとするに違いないわ。セイン殿下の優しさを理解できているとは、エリーゼに誑かされているアンダルト様からは、到底想像できないもの。
セインのことが心配になり、見上げると目が合う。
「しばらく隠れていて! ねっ?」
優しく人懐っこい笑顔にキュンとし、胸を押さえた。
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