ベルの秘密
……ベルに通じるか、わからないけど。セイン殿下がベルのことをとても大切に想っていると伝えたいわ。
苦しい胸のうちは隠す。今は、ベルのために何かをしたかった。髪飾りをぽんぽんと叩き、ベルの方を見上げる。同じ仕草をもう1度。通じていないようなので、もう1度。さらに続けようとしたとき、ニッコリと笑うベル。その目からは、大粒の涙が零れた。慌てる私をよそに、「ありがとう」と呟く。
私の想いが通じたのか、綺麗に結わえてあった髪をおろした。ポケットから出したハンカチで目元を拭うと、綺麗な黒に近い紫の髪を手櫛でささっと纏めていく。最後にセインからもらった髪飾りをつけると、髪飾りの銀が髪に映えとてもよく似合っていた。
「リア様、似合いますか?」
「ちゅちゅう! (とってもすてき!)」
涙を拭い微笑むベル。つけた髪飾りを見せてくれたので、うんうんと縦に首を大きく振る。私の仕草を見て泣き笑いのベル。私の想いは、ベルにも伝わったのだろう。
「リア様のおかげですね。ずっと、この髪飾りをつけること……怖かったのです。殿下が大事にされているのは、他の方なのだと思うと、どうしても髪飾りをつけられなかったのです」
……ベル?
「リア様が来てからというもの、殿下と個人的に話す機会が前よりも増えました。あまり口にはされないので、他の侍従たちと変らず、同じなのだと思っていたのですが、大切にされているんだと、先日やっと気づけたのです。リーリヤ様以外にも、殿下のお心に寄り添っていいんだということを知りました」
……ベルも、セイン殿下のことをお慕いしているの?
「リア様に話してよかった。なんとなくですが、この髪飾りは、殿下からの信頼の証のようなもの。そんな気がします」
ベルの心の中でわだかまっていたことが、とけたようだ。いつもより、いい顔をしている気がするのは、私の見え方がそうさせているのだろうか? そうではないことは、微笑むベルの顔を見ていればわかった。
自信を取り戻した侍女は、セインのために、これからも身も心も尽くして仕えてくれるのだろう。
ただ、逆に、私の心はモヤっとした気持ちになった。
……セイン殿下にこれほど、寄り添っているベルが側にいるなんて、敵わないわ。……敵わないって、何?
私の心の中は、慌ただしい。ただ同時に、自身が、どうしてベルに対して複雑な想いをしているのかわからず、ただただ、モヤモヤしたものを抱えていた。
「あっ、そうだ。まだ、殿下以外には報告をしていないのですが、私、殿下の護衛騎士の方と来年の春に結婚をすることになりました。結婚後は家庭に入るとばかり考えていたのですが、夫となる方の許しがあり、結婚後もこちらでお世話になることになりましたから、リア様もどうぞ、よろしくお願いしますね!」
……!! 護衛騎士の方とご縁が? てっきり、ベルは……。
私はホッと胸を撫で下ろす。ベルの表情や頬を赤くしている様子を見ればわかる。その護衛騎士がとても好きなことは。ほんのり赤くなった頬を見て、可愛いとさえ思った。
「……そろそろ、殿下が街からお戻りの時間ですね。お部屋へ戻りましょうか?」
コクと頷くと、手を差し伸べてくれる。この場所を去るのは少し名残惜しく感じたが、セインにも早く会いたくなった。
「リア様、さっきのことは、くれぐれも殿下には内緒ですからね?」
髪飾りのことで念を押してくるので頷く。先程の場所へと私を隠してくれた。
久々の外の空気に気分も晴れ、ベルと共有する秘密がもてたことが嬉しい。人間とネズミ、異なる私たちであるが、ベルがセインと同様、人と変わらない扱いをしてくれたことが、私にはとても嬉しかった。
……人間に戻りたい。でも、セイン殿下やベルの側で一生を終えるのも、悪いことではなさそうね。ネズミの一生がどれほどのものかわからないけど、人に戻れないなら……。
吹き抜けていく風に私の願いを乗せ、言葉に出来ない想いを消化した。
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