ベルへの贈りものともうひとつの贈り物
「もうすぐ、中庭にでますよ。中庭の小道を少し中へ入ったところに、私だけが使っている秘密の休憩所があるので、そちらに」
部屋を出てから、私にも行先がわかるように、王宮の様子をこそっと話してくれる。ベルが言ったとおり、少ししたら王宮の外へでた。木漏れ日がキラキラとしている小道を進む。途中、少しガサガサと小道を逸れていき、着いた場所は、息抜きにちょうどよさそうな開いた場所であった。
ベルが持ってきていた小さなカバンを置き、私をその上に下ろしてくれる。自身は、芝生の上に腰を下ろし、ぐぅーっと全身を伸ばすように伸びをしていた。
「天気のいい日で、殿下が外出や学園へ向かわれているときには、少しだけこうして息抜きにくるのです。侍女とはいえ、1日中部屋の中にいると、少し滅入ってしまうので……」
優しい風がベルのお仕着せの裾を揺らす。こんな穏やかな日差しを浴びたのは、私も久しぶりで、スッキリした気持ちになる。
「……少しだけ、愚痴を聞いてください」
珍しいベルの表情にコクコクと頷く。
「私、殿下の侍女になってから、結構な年月が経つのです。年齢が若いせいか、未だに年かさのメイドには、嘗められた態度を取られたりするのです。今は、もう慣れましたけど、昔は、ここで人知れず、よく泣いていました。そんなある日、私のことを心配してか、殿下から贈り物をしていただいたのです」
お仕着せのポケットに入っていたのか、ゴソゴソとして取り出したそれは、髪飾りであった。華美なものではなく、普段使いにでも使えるようなものだ。
ベルは大事そうに髪飾りを撫でていた。
「ちゅう? (セイン殿下から?)」
「そうです。これを殿下からいただきました。それも、街に出て、殿下がわざわざ私のために選んでくださったものらしいのです」
ズキと胸が痛む。短い手を胸にあて、不思議に思い小首を傾げた。幸い、ベルは髪飾りを見ており、私の様子には気付いていなかったようだ。
「落ち込んでいたときだったので、いただいたときは、本当に嬉しかった。毎日つけていたい、皆に自慢したいくらいに。でも、後から護衛について行ったものから聞かされた話がありました」
ふぅっと息を吐き、少し寂しそうに目を伏せるベル。
「その日、選んだ髪飾りは2つあったそうです。ひとつは私の。もうひとつは……誰に贈るつもりのものかわかりませんが、購入されたそうです」
「……ちゅう (……ベル)」
「今なら、誰に贈るものだったのか、ハッキリわかります。贈りたい相手は、リーリヤ様だったのだろうと。ついでのように買われたこの髪飾り、今では、殿下の前でつけたことがありません。一度、気に入らなかったかな? と聞かれたことがありましたが、そのときは、思わず誤魔化してしまいました」
カバンの上から飛び降り、ベルの膝の上に駆けあがった。髪飾りを置く手に、私の小さな両手をポンと置く。
……たとえ、もうひとつの贈り物の存在があったとしても、ついでは、そっちだったと思うわ。セイン殿下は、ベルのことを心から信頼しているもの。ベルの頑張りに、セイン殿下が報いたかったから、自身の目で見て、ベルに似合うものをわざわざ選んだうえ渡したのよ。
見せて欲しいとせがんだと思われたのか、ベルは髪飾りがよく見えるように私の視線に合わせてくれる。精緻な銀細工で出来た髪飾りは、きっとベルにとてもよく似合うだろう。
……ベルの思っていたとおりとはならなかったのかもしれないけど、この髪飾りを見ればわかるわ。セイン殿下が、ベルのことを想って、手にされたものだってことが。
王族であるセインは、わざわざ宝飾物を見に行って買わなくてもいい。それなのに、ベルに似合うものを考えながら選んだに違いないものをみせられ、とても複雑な気持ちになった。
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