ベルとお散歩
居心地がよく、セインの部屋で生活を始め1ヶ月。
そろそろ、諸事情を考えて、屋敷へ戻ることも諦めかけていた。
……私、このまま、ここでネズミとして一生を終えるのかしら? そうだったとしても、セイン殿下の側で、何もできずとも、おいてもらえることは、とても幸せなのかもしれないわ。
どこに行っても、今の私はただのネズミ。セイン殿下の側を離れれば、生きてはいけない。どこかで野垂れ死ぬか、人間に猫にあるいはもっと違う何かに追われるしかないもの。
ため息をついて、今日もベルが用意してくれた新聞をぼんやりと読む。1ヶ月もすれば、私の記事はずいぶん小さくなってしまい、新聞から情報をえることが難しくなってきていた。いつの間にか、時の人となり、いずれ誰の記憶からも消されてしまうのだろうなと少し寂しさを感じながら、今後のことを考えていた。
……アンダルト様は、私がいなくなったことで、今後はどうするのかしら? それも、私の預かり知らぬことね。私との婚約は解消されて、エリーゼ嬢と。きっと、エリーゼ嬢にいいようにされているに違いないし……それとも、少しくらい私を心配して、探してくれているのかしら?
婚約者だし、幼馴染でもあるのだもの。少しくらい……私のことも。
考えてみても、最近のアンダルトを思えば、私を形だけでも探すとはとても思えず、甘い考えだと首を横に振る。そんな私の背中に部屋の掃除を終えたベルが話しかけてきた。
「リア様、もうすぐ殿下がお戻りになりますよ!」
今日は学園が休みである。ただ、この部屋には、主であるセインが朝からいなかった。私に気を遣い、静かに着替えて、朝早く出ていったことは知っている。そのときには、私も起きていたのだが、起き上がってしまうと、セインに気を遣わせることになると思い、寝たふりをしていたのだ。
「ちゅう? ちゅちゅちゅう(お帰りですか? 今日はどちらに行かれているのかしら?)」
「今日は、少しお忍びで外に出ているのですよ。今、リア様が読んでいらした記事のリーリヤ様を婚約者様とは別に、殿下はこっそり行方をお調べになっているのです。私が話したって内緒ですよ?」
「ちゅう? ちゅちゅう!(それで街へ? なんてこと!)」
「殿下が本当に好きなら……と、浅はかな私は思ってしまいますわ。きっと、リーリヤ様も殿下の優しさに触れれば、そのお心を傾けてくださると思いますの。私がリーリヤ様の婚約者が苦手というのもあるので、偏見や殿下への贔屓もありますが。リーリヤ様は……あの方が嫌で逃げてしまわれたのなら、殿下の側で、殿下をお支えしてくださったらどんなに嬉しいか。そうではないことを、殿下が誰よりもよくご存じなのですけど……」
ベルが珍しくため息をついて、記事をじっと見ている。私は城へ上がることがほとんどなかったので、今回のことがなければ、ベルと顔を合わせたことはなかった。学園でのセインと私のやり取りは、あまり知らぬようである。
……セイン殿下の優しさは、ずっと前から知っています。お心もここに来てから知りました。ベルは、本当に殿下のことを大切に想っているのですね。
ベルを見上げ、その複雑な目を見つめる。そんな私には気が付かず、再度、大きくため息をついた。
「リア様、よければ、少し外にでかけませんか? ここに来られてから、ずっとお部屋に籠っていらっしゃるようですし。夜中にそっと抜け出して外に出歩いているわけでもなさそうですから」
「ちゅちゅう?(何故それを?)」
疑問があるというふうに小首を傾げてみると、クスっと笑うベル。
「その仕草は、何故、夜のことも知っているかってことですか?」
コクコク頷くと、可愛らしいものを見る笑顔から、ニンマリとした少々やらしい笑顔に変わった。
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