白い花の木
「リーリヤ嬢と出会ったのは、僕が5歳だったとき」
「ちゅう?(5歳?)」
「ん? 驚いているの? それとも年を言われてもわからないかな? まだ、僕もリーリヤ嬢もとても小さいときだよ。リアだと、こんな感じかな?」
「これぐらいかな?」と指で大きさを示してくれたのだが、今の半分くらいの大きさであった。ネズミは、すぐに大きくなるから……5歳だとしても、今と同じくらいのはずだ。セインのことだから、私にもわかりやすいようにしてくれているのだろう。
……5歳のときにセイン殿下とすでに出会っていたの? どこでだろう?
「ちゅー」と唸りながら目を閉じ、記憶を探っていく。思い当たる思い出がなく、さらに唸っていると、セインが話を先に進めてくれる。
「出会ったのは、この王宮の庭園。季節の花がたくさん咲いているところだった」
セインの言葉に私は過去を辿る。アンダルトと出会ったときまで遡ったが、王宮の庭園で誰かにあったという想いでが出てこず、続きを待つ。
「白髪に赤い目、ちょうどリアのような容姿の可愛らしい女の子が、若い木を見上げていた。僕も好きな木なんだけど……また、今度、リアも見に連れて行ってあげるよ」
……セイン殿下の好きな木。この国には王子が生まれたら、実のなる木を王宮に植えることになっているのよね。将来、セイン殿下を含め、国民みなが食べ物に困らないようにと願いを込めて。
確か、セイン殿下のものは、スモモという異国から取り寄せた木だったはずよ?
セイン殿下のスモモの木……、私、今までに見たことがあるのかしら?
ちゅーと唸って、右へ左へと頭を揺らしながら考える。記憶にあるようなないような曖昧な記憶で気持ち悪い。
「スモモの木は実がなる木なんだけど、春になると白くて可愛らしい花を咲かせるんだ。時期がくれば、これくらいの実がなってね。そのとき、リーリヤ嬢と実がなったら一緒に食べる約束をしたんだ。次に会ったときには、アンダルトの婚約者として挨拶されたときだったからとても驚いた。それだけでもショックだったけど、リーリヤ嬢は、僕のことをすっかり忘れていたんだ」
……あぁ、なんてことなの! セイン殿下を忘れるだなんて。失礼よ、幼い私。
恥ずかしさで、どうにかなってしまいそうだ。あってはならないことを言われ落ち込む。当時の私と会うことができるなら、叱ってやりたい。
「忘れられたものは、仕方がないよね。僕の方だけが、ずっと、覚えているのも変だと思って、胸にしまい込んだんだ。
……スモモの実はね、甘い香りに誘われて食べたら、とても酸っぱいんだよ? リーリヤ嬢にも食べてもらいたかったな。その表情もきっと可愛らしいんだろうね?」
クスクス笑うセイン。私が考えた木と同じものだったようで、もう一度、記憶を遡る。
……セイン殿下の木、本当に私は見たことがあったのだろうか? 全く覚えて……ん? 白い花? 一緒に実を食べる約束?
木が風に揺れ、ふわっと白い花びらが舞う情景が浮かんだ。甘いような香りが、急に鼻先に蘇った。そこに小さな男の子が優しそうに笑う。
……アンダルト様との想い出じゃ……ない! アンダルト様と出会う前の……これ、セイン殿下との思い出だ。
記憶を探っていたら、急激に鮮明になった光景。小さな木の下で、男の子と二人で、約束をしたことを思い出す。
……私、お父様に連れられて、王宮に来たことがあったのね。それに、セイン殿下とデビュタントの前に会っていたなんて。アンダルト様との想い出だとずっと思っていたのに。……私、ずっと勘違いしていたの?
あの日、アンダルト様に連れられて、セイン殿下へ挨拶したときの驚きようは、この約束が原因だったのね。
……それじゃあ?
驚いて目をパチクリさせてしまう。そんな前から、私のことを知っていただけでなく、想ってくれていただなんてと。
そんな不審な私に微笑み、「実がなったら、リアも一緒に食べよう」というセイン。
「気に入ってくれるといいんだけど……花だけじゃなくて、実も僕は好きだから」
すっかりセインとの思い出を忘れてしまっていたことを恥ずかしく思ったが、セインの申し出にコクリと頷いた。
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