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【連載版】 小さくなった侯爵令嬢リーリヤの秘め恋  作者: 悠月 星花
王宮での生活

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王になるための

 ……私、本当にアンダルト様以外、今まで何も見えていなかったのね。


セインとベルの話を聞いて、自身が見えてなかったものに気づいて俯く。どれほどのものを今まで取りこぼしてきたのだろう。決まっていること以外の目標は、何も持ってこなかった。全て諦めていた。


「……ちゅう(……ごめんなさい)」


 私の声が届いたようで、二人がこちらを見て微笑んだ。どんなふうに受け取ったのかはわからない。でも、その優しい二人の顔をみれば、いたたまれくなる。


「心配してくれたのかな? リアもありがとう」


 元凶である私にまで、お礼を言ってくれるセインには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。それを伝えることも優しさを返すこともできない。


「そういえば、どうしてリアは、リーリヤ嬢の記事を読んでいたんだろうね?」

「……もしかして、本物のリーリヤ様だってことは、ありえませんよね?」


 不思議なネズミである私を二人が見て、「……まさか」と空笑いを始める。


 ……セイン殿下、ベル。そのまさかです。私、リーリヤです。


 言葉にできず、伝えることが出来ないため、二人をただ見つめるだけであった。


 セインは、ベルと私の話題で一頻り笑うと、勉強をするために机へと向かう。お茶を用意したベルは邪魔にならないように別室に控える。ここに来た日から、私はセインの真摯に王太子という職務に恥じない努力をしている姿に感心させられていた。

 公爵だって、その爵位に似合う努力は必要なはずなのに、長らく側にいたがアンダルトのそういう努力をしているところを私は見たことがなかった。


 ……セイン殿下は、元々とてもお勉強のできる方とは聞きおよんでいたけど、並々ならぬ努力があってこそだったのですね。

 アンダルト様とは大違いだわ。今まで、アンダルト様の足りないところを補うように側にいたけど……そうではなかったのね。次期公爵としてたつにも関わらず、アンダルト様に足りないところがあること、それに似合う努力がされていないことが、おかしかったんだわ。

 私は、補うだけではなく、アンダルト様にも同じだけの素養を一緒に身につけることが必要だったのね。


 セインに家庭教師がつくわけではないようで、ただ、ひたすら、本を読みこんだり、街で起こっている事件や困りごとなどの報告書から、解決方法を学んだり調べたりしている。セインの部屋の隣に侍女室とは別に部屋があり、さながらセイン専用の図書館と言ってもいいほどの本が所狭しとあることを知っている。ベルが掃除をするときについて行ったことがあり、どれもこれも読み込まれていることがわかった。


 ……私も公爵家の一員になるため、この国の歴史から最近の出来事まで、たくさんの本や報告書、論文など読んだけど、セイン殿下の比ではないわ。全然たりない。足元にも及ばないのね。


 私はセインの邪魔にならないように傍らに座り、勉強をしている隣でじっとしながら、一緒になって同じ本を読んでいた。

 何時間も集中して勉強しているセインには、感服させられる。

 

 ……今日の本は、とても難しいお話ね。到底、私には判断がつかないものが多い。これが、国王になるために必要なことだとするなら、国民のためにいい王様となることを目指していらっしゃるのね。私もたくさん勉強をしたけど……及ばない。アンダルト様も同じほど勉強をなさらないといけないはずなのに、そんな姿すら見たことない。

 セイン殿下は、本当の意味でみなに優しい王になる方なのね。


「ちゅう……(ん……)」


 セインが読んでいる本を私も読み進めていると、覗き込むように本へ乗ってしまう。体が小さいので、本の端まで読もうとすると、チョロチョロと動き回ってしまう私が目についたのだろう。


「ちゅう!(わぁ!)」


 ……また、やってしまった。お邪魔だけはしちゃいけないのに。


 そう思ってセインの方を申し訳なく上目遣いに見ると、優しく微笑んでいる。


「リアも勉強かな? いいよ。好きに読んで」

「ちゅうちゅちゅう(ありがとうございます)」

「ありがとうかな? ふふっ、可愛いね?」


 ペコリと頭を下げると、撫でてくれ、ほわほわした気持ちになった。私が、本の端を持ち、ぴらぴらとすると、捲っていいという合図だとわかってくれたようで、捲ってくれた。

 そこから、また、一人と一匹は、じっと同じ本を読み始める。

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