セインとベルの報告会
ベルにおやつをもらい、もごもごと食べているとセインが学園から帰ってきた。
両手でクッキーを持って食べている様子を見て、セインがクスクスと笑っているので、ぷくっと頬を膨らませてみる。
愛おしそうに目を細められれば、逆に恥ずかしくなり、視線を落としてクッキーをひたすらガリガリと口に入れていく。たくさん口に入れすぎたようで、リスのようなほお袋を作っていることには、私自身気付いてなかった。
「リア、リスのようなほお袋がとても可愛らしいね?」
からかわれたのだが、セインの『可愛らしい』の言葉にドキドキとさせられ、膨れたほお袋をさらにクッキーで膨らませることになった。
ベルにまで可愛いと笑われ、恥ずかしくてたまらない。食いしん坊のように見えるその姿に慌てて口の中からお腹へとクッキーを押し込むようにゴクンと飲み込んでいった。
「残念っ! 今の姿、とっても可愛かったのに」
少し拗ねたようにセインがいうので、そうだったのかもしれないが、貴族令嬢としての小さな矜持が許さなかった。そもそも、頬いっぱいになるまで、クッキーを口に含むなんてと反省しているところだ。
「……リア様は、本当に賢いネズミですよね?」
「ん? そうだろう? ベルもわかってくれる? リアはとっても賢いんだ」
「はいっ! それは、日々、一緒に過ごす中で、感じていました。今日は、殿下もまだ知らないリア様がいることを私は幸運にも知ることができましたよ!」
セインに私のことで誇らしげに自慢をするベル。一緒に過ごす時間はベルの方が長いので、私が気が付かないうちに、私がした何かを見ていたらしい。一体、何のことを言っているのだろうと首を傾げながら、ベルの次の言葉に耳を傾ける。手近にあったクッキーへとこりずに手を伸ばした。
口にクッキーを運んだころ、セインの着替えが始まる。未婚の私が見てもいいものではないと、視線をずらし、新聞へと目を移した。
先程の記事が見え、また、落ち込んでしまいそうになるが、後ろからセインとベルが私のことを楽しそうに話して笑っているのを聞いていると気分も落ち着く。
「何があったんだい? 僕がいない間に。リアは今日、何をしていたんだい? ベルだけが知っているだなんて!」
詰め寄っているのか、ベルはおかしそうに笑っているようだ。王太子であるセインにこんなふうに話ができるのは、ベルが得た長年の信頼関係の賜物なのだろう。学園や夜会などで見せる表情や声音とは違う、少し幼い子どものようなセインは新鮮であった。
「ふふっ、殿下はリア様のこととなると必死ですね? 確かにリア様はとても可愛らしく聡明であらせますもの。殿下が、たくさんの愛情を注ぐのも無理はありませんわ!」
「……愛情を注ぐだなんて。リアが、リーリヤ嬢に似ているからなのか、どうしてもほっておけないんだ」
セインのその声音を聞くのが辛い。先ほどまで笑い合っていたのに、人間の私の話になると急に声音が暗くなってしまう。セインが私の失踪のことで、もどかしい思いをしていることは知っていた。
「殿下、侯爵家のリーリヤ様と言えば、公爵家のアンダルト様の婚約者の方ですよね? 幼いころから、決まっていたと、以前、殿下からお聞きしていました」
「そうだね、アンダルトの婚約者だよ、今も昔も。リーリヤ嬢が、アンダルトにそっと寄り添う姿は、僕も好きだった。羨ましくもあったけど」
「そうでしたか。リーリヤ様に、私はお会いしたことがありませんが、殿下の……想い人でしたよね、たしか」
クスっと笑うベル。
……ベルもセイン殿下の想い人、その……私だって知っていたんだ? さっきそれっぽいこと、言っていたような。新聞を読むことに一生懸命だったから、サラっと流してしまっていたわ。この記事を見て、どう思ったのかしら? やはり、私のことは、あまりいいように思っていないわよね?
私は振り返り、複雑な思いを抱えながら、二人の様子を盗み見る。サラっとセインの心内を言ってのけたベルに、セインも気にしていないように見えた。
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