新聞Ⅲ
もう一度、新聞の上を歩きまわり、記事に目を戻す。
……友人と名乗る男爵令嬢は、きっと、エリーゼ嬢のことね。私には男爵令嬢の知人はいても、友人はいないもの。私のことで、『友人』もしくは『親友』とでも言って、記者にも学園の友人たちにも、あることないことを言いふらしているのかしら……? アンダルト様にも、私が駆け落ちしたとか悪い女と吹き込んでいることでしょう。
……私、あなたに何をしたというの? 私は、ただ、アンダルト様との婚約を生まれる前から決められていただけにすぎない『政略結婚』ですのよ?
記事にあった、アンダルト様と街を散策したのは、私ではないわ。アンダルト様と出かけたことなんて、随分昔のことですもの。きっと、エリーゼ嬢と寄り添っていたのね。スカーフで髪を隠せば、特徴的な私の髪など隠れてしまうもの。私の振りをして、アンダルト様と街を散策していたのでしょう?
アンダルトと出かけたときのことを思い出す。
その日は、街で行われた祭りに二人で出かけた。少ないお小遣いを公爵にもらって、平民に混ざり初めて買い食いをし、いつもと慣れないことをし、どきどきしながら、無邪気に笑い合っていた。
思い出すと、ため息が漏れた。幼すぎた私たちの淡い初恋。
今の状況を考えれば、胸に広がるのは虚しさばかり。
元はと言えば、エリーゼがかけた呪いのせいで、ネズミになったのだから、神隠しでも失踪でもなければ、ましてや駆け落ちしたいほどの恋仲の平民もいない。
アンダルトとの婚約も幼いころから受入れていた。卒業後、公爵家に嫁ぐ準備だってすでに終わっている。持参金に始まり、ドレスや宝飾品、教育に至るまで。王侯たちの親族である公爵家に嫁ぐためには、幼いころから血の滲むほどの努力が必要なのだから、つけ焼き刃でどうこうできるものではない。
全ての準備を終えた今、アンダルトから私が逃げるわけはない。むしろ、私から逃げたいのは、アンダルトとエリーゼなのだ。
アンダルトのことを考えると、涙が出そうになった。記事に書かれているようなことを本当に信じてしまうような愚かな人だ。エリーゼから甘く囁かれたとなれば、きっと、婚約解消を公爵にも私の両親にも喜んで申し出ていることだろう。
……お父様やお母様には、辛い思いをさせてしまうわ。私のせいで、お二人が傷つかなければいいけど。
何も出来ない私の心がチクチクと痛んだ。
……心も全てネズミになってしまえたら、こんなに苦しくないのに。私が、何をしたのかしら? 決まった政略結婚にただ従っただけ。両親に心配をかけ、こんなに大事になり、たくさんの方に迷惑をかけて。私の本意ではないわ。
セイン殿下にも、お世話になってしまっているし。
辛くとも泣けないこの体が恨めしく、呆然としているしかなかった。
「リア様、おやつはいかがですか? もうすぐ、殿下もお戻りですから」
落ち込んでいるのを悟ってくれたのか、いつの間にか戻ってきていたベルは優しくお菓子を差し出してくれる。小さく切り分けられたクッキーに手を伸ばし、口に含んだ。甘さが荒んだ心を満たしてくれるようであった。
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