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差出人のない手紙

 学園から屋敷へ帰ろうと準備をしていたとき、荷物の中からカサッと一通の手紙が床に落ちた。封筒には私への宛名だけが書かれ、差出人の名前はどこにもない。


 ……誰からかしら? お手紙をもらうような相手はいないのだけど?


 首を傾げながら、差出人不明の手紙の封をきる。開けてすぐ、差出人の名を最初に探した。名前らしいものは、文末に書かれている『 E 』の文字だけ。思い当たる人物の方をちらりと見て、苦笑いをする。

 内容を見れば、書かれていたのは簡素なもので、彼女からの呼び出しであった。


『本日の授業が終わり次第、中庭へ来てください。リーリア様にだけ、折り入ってご相談したいことがあります』


 日付と待ち合わせ場所が、一人の令嬢のために作られている特別な便せんに書かれている。

 ため息をつき、指定された場所へ行くかやめるか、今問いただすか……、どうするのがいいか悩んだ。


 ……ここだと、まだ、みながいるから、注目を浴びてしまうわね。相手は、アンダルト様と噂の彼女ですもの。


 視線の先では、私の婚約者である公爵令息のアンダルトが、私の机に手紙を忍ばせたであろう彼女に「一緒に帰ろう」と誘って断られているところだった。


「どう考えても、この手紙は、噂の男爵令嬢エリーゼからの手紙よね? はぁ……。私に何の用があるのかしら?」


 頬に手を当て、コテリと首を傾げる。好き放題に私の婚約者と噂になっているエリーゼに対し、私には全く用事がないため、相談と言われてもどうしたものかと悩む。


「どうしたんだい? リーリヤ嬢」

「セイン殿下!」


 手紙を見て、悩んでいると、この国の王子であるセインから話しかけらた。思わず読んでいた手紙を背に隠す。


「今、何を隠したの?」

「いえ、なんでもありません!」

「……そう。リーリヤ嬢がそういうならそれでいいけど。何か困ったことがあったら、いつでも何でも遠慮せずに言ってくれ。リーリヤ嬢の手助けになるかはわからないけど、微力ながらも力を貸すよ!」

「いつもお気遣いいただき、ありがとうございます。セイン殿下のお手を煩わせるほどのことではありませんので、お気持ちだけで大丈夫です」


 私はニコっと笑い、セインの申し出をやんわりと拒否した。残念そうに眉尻を下げているので、心の中では申し訳なさでいっぱいになる。


 ……何かあったとしても、私が頼るのはセイン殿下ではなく、婚約者であるアンダルト様。実際、頼りになるかはわからないけど、今回の件は、自身で解決するしかなさそうね。


 チラとアンダルトの方を見て、誰にも気付かれないよう小さくため息をついた。セインはそんな私の様子を目ざとく見ていたのだろう。


「何か悩んでいるの? その、アンダルトのことで」


 耳元へ小声で話しかけられたので驚いた。何か問題があるにはあるが、私とアンダルトとの問題であるから、セインを巻き込むわけにはいかない。取り繕って、微笑んだ。


「いえ、そういうわけでは……。私たちは、あと数ヶ月で夫婦になるのです。準備も順調ですし、特に悩みなどはありませんから大丈夫ですよ!」


 セインは疑いの眼差しを向けてくる。最近、学園で広まっているアンダルトとエリーゼが恋仲だという噂もセインの耳にまで届いているのだろう。アンダルトの方を見て難しい顔をし、ため息をついていた。

 そうこうしているうちに、悪びれることなくアンダルトはこちらへやってくる。


「リーリヤ、講義も終わったんだ。一緒に帰ろう!」


 ……エリーゼ嬢にすげなくあしらわれたからって、次は私を誘いにきたのね? 本当に……、アンダルト様は。


 言いたいこともあったが、今日はグッと飲み込んだうえで、笑顔を作りこみ、自然に見えるように微笑んだ。


「用事がありますので、今日はアンダルト様お一人でお帰りください」

「なっ、俺と用事のどっちが大事なのだ?」

「……用事、ですかね? 急な申し出でしたので、予定を言えず申し訳ありません。相手を待たせていますので、セイン殿下、アンダルト様、申し訳ございませんが、先に失礼いたします。また、明日」


 私は机に隠した手紙を入れ、何も持たず、席を立った。挨拶したことで、セインは渋々、アンダルトは私にすら相手にされなかったと怒りながら帰っていく。

 二人の違いに、心内を隠し、呼び出された中庭へと急いだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よかったよと思っていただけた読者様。

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