商談
「なるほどね、事の経緯はわかったよ」
満足したのか九十九さんはペンダントをテーブルの真ん中に置いた。鑑定が終わったのだろうか。
「それで、清水さんはこれをどうしたいの?」
「どうしたいか、ですか?」
「呪いを解いてほしいのか、それとも買い取ってほしいのか」
ああ、そういう意味の言葉か。それよりもこの人、私の荒唐無稽な話を信じてくれたのか。
「そう、ですね。気味が悪いから処分――もといお祓いしてほしいんです。だいたいコレ、買い取りとかできるんですか?」
「うーん、正直に言うと買い取りは面倒かな」
買い取りは難しい、か。そうれはそうか。
それならお祓いでしか処分できないことになる。そうなると気になるのは値段だ。
「ちなみにこのペンダントを無害化するってなると、そうだな……どんぶり勘定十万くらいかかるかな」
「はあ⁉ 高すぎませんか⁉」
「そう言われても、こっちも商売だし」
などと嘯くが、今の私のこの人の信用性はゼロだ。一万円というだけでも苦しいというのに、十万だなんてとても払えない。ぼったくりもぼったくり、ほぼ詐欺師でしょコイツ。
「実際コレかなりの代物だよ? 僕は三十年くらいこういった物に触れて来たけど、こんなに強い呪まじないが施された道具は片手で数えるくらいしか見たことがない」
どうだか。……やはりこういった話は信じるべきではなかった。そもそも、こんなオンボロ古物商に入ったこと自体が間違いだった。
私はなんだか腹が立って、置き直されたペンダントを鞄の中にしまい直した。回収する際、動作が少々乱暴になってしまったのはしかたのないことだろう。
「……ついでだから聞きますけど。お祓いではなく買い取りなら、いくらで買い取ってくれるんですか?」
このまま帰るのは決定していたが、どうせならと聞いてみた。
(どうせインチキ商売の適当な鑑定。どうせ、安い金額を提示してくるんでしょ?)
そんな私の予想はあっさりと裏切られた。
「二十五万」
「は?」
「僕ならこのペンダント、二十五万円で買い取るよ」
そういう彼の表情は真剣そのものだった。
二十五? 二十五万円?
…………ガチ?
――え、そんなに貰えるの。
――待って、信用しちゃいけない。渡してくるお金が偽札の可能性もある。
――でも二十五万。
――いやそもそも、手伝いの内容を聞かないことにはまだ不安がある。ここは慎重に、ね。
――前から欲しかった服とかも買えるし、遊園地とか遊びたい放題じゃん。
――いや、そもそも。このペンダントが本当に呪いの道具だという保証はない。は⁉ もしかしたらこれまでの騒動は、この男の仕業だった可能性も!
――そんなわけないじゃん。……二十五万円いらないの?
――いや目先の利益に溺れるな清水真理! 気をしっかり持つのよ!
――とりあえず、話だけでも聞いてみない? ほら、話だけだから。
……………。
「なんかいろいろ考えているみたいだけど、売るのが怖いっていうなら別に売ってくれなくていいんだよ?」
「いえちょっと待ってください。あと三十分。いえ六十分ください」
「めっちゃ考えるじゃん。そもそもこのペンダントさ、危ないけど別に有害な物ってわけじゃないんだよね」
そう言うと九十九さんはうさん臭さを払拭するような、カラカラとした軽快な笑い声をあげた。
「……え?」