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想継堂「九十九」  作者: 水 龍
一点目 逆星のペンダント
3/13

ペンダント

 九十九(つくも)さんはお茶と一緒に、コンビニの袋からお饅頭を出してこちらに差し出した。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえ。……それで? ウチにはどのようなご用件で?」


 九十九さん口調を少し正すと、私に用件伺いを立てた。

 私は差し出されたお茶を一口飲んで一息つく。


「実は、見てほしい物があるんです」


 私は通学鞄の中からひとつのペンダントを取り出すと、テーブルの上に置いた。

 サイズは手のひらに収まるほどで、金と銀がS字に区切られて繋がっている。その表面には逆さになった星の模様が描かれ、それぞれの頂点には緑、赤、黄、白、黒色の小さな丸い石があしらわれている。

 そのペンダントを見た九十九さんは「ほう」と声を漏らし、すっと目を細めた。その反応はまるで「面白い物を見た」と言っているようだった。


「ふむ。少し手に取ってみても?」

「あ、どうぞ」


 九十九さんは白い薄手の手袋をはめるとペンダントを手に取り、しげしげと調べ始めた。模様をなぞり、石を撫で、光に照らしながらさまざまな角度から表面を眺め回した。


「円の中に星。五色の石と――さらには金と銀か。……これはどこで見つけたの?」

「えっと、実はですね――」


 そう問われ私は、少し緊張しながら話し始める。


 私がペンダントを見つけたのは二週間前、お婆ちゃんの家の蔵を家族で掃除していたときだった。

 蔵は古くからあるものらく、その歴史を思わせるような年季の入った物が多くあった。きれいな模様の入ったお皿や、古いお金、農具、カセットテープなどの少し近い時代の物まであった。……まあ色々だ。

 売れるものは売りに出し、そうじゃないものはゴミに出す感じで処分していった。私が棚を整理していると、小さな木箱を落としてしまった。そのときに箱の中から転がり出たのが、このペンダントだ。今は紐がついてるが、私が見つけたときはヘッドの部分しかなかった。

 星の頭が下を向いているのがなんだかオシャレに感じて、どうせ捨てるならと思い私はこれをコッソリポケットに忍ばせ持ち帰ったのだ。


 ――それが、たぶんダメだったんだと思う。


 次の日、さっそくペンダントを首にかけて学校に行った。もちろん首にかけていたのは通学中だけで、学校内に入ってからはポケットに入れていた。ただ先生がいないときに取り出し友達に見せびらかして自慢していた。

 お昼休みの時間のときもそうやって友達に見せていたが、私がしつこく思ったのか、友達がペンダントを取ろうとした。もちろん友達は本気じゃないただのじゃれ合いだっただろうし、私もそのように受け取って強く抵抗しようとはしなかった。だがそのとき――


「教室の花瓶が突然倒れて割れた?」

「はい。しかも、誰も近くにいなかったのに勢いよく」


 私が話している間も九十九さんはペンダントの観察を止めていなかった。適度に相槌を打ってくれていたので話はしっかり聴いていることはわかった。


「それだけだったのならまだ偶然と言えたんですけど、その後も少し奇妙な現象が続いたんです」


 ある日は教室の後ろのドアの窓に黒く丸い靄のような影がいたり、ある日は体育の授業で野球をしていたクラスのボールが私の教室の窓を割ったりした。それから最近になって食堂に近い階段で滑り落ちてケガをする人が増えたという話も聞いた。

 学校以外では妹が突然体調を崩したり、お父さんが仕事場で怪我をしたり。

 ……最も衝撃的だったのは、通学中に目の前で交通事故が起こったことだ。順調に走っていた車が、突然制御できなくなったようにふらついて数台の車を巻き込んだのだ。


「あの事故を見てから、なんとなくこのペンダントが原因なんじゃないかと思って……」

「なるほどねぇ。……ちなみに捨てようとしなかったのはなんで?」

「捨てようはしたんです! でも……いつのまにか戻ってきているんです」

「戻ってきている? ペンダントがひとりで勝手に?」


 九十九さんの言葉に私はうなずく。

 燃えるゴミの日に出したり、グラウンドの地面に埋めたり、川に捨てたり、電車に置き去りにしたこともある。しかしどの方法も、次の日の朝には私の手元に戻ってきているのだ。

 これは自分ではどうしようもないなと悟った私は、真剣にお祓いを考えていたところにこの店を見つけたのだ。

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