1.転落
私は小杉 京子。女子高校生である。
今は放課後。
私は高校を出るため、靴を履き替えて校門に向かう。
背後で物音がする。
振り返ると。
女の子が。
血を流して。
絶命していた。
「小此木さん!?」
私は屋上を見た。
フェンスがひしゃげており、そこから落下したものと思われる。
私はスマホで一一〇番通報をした。
警察が到着し、事故の原因を調べ始める。
事故では私の出る幕はない、そう思われたが。
念の為屋上に上がり、遺体の女の子が落下したフェンスを確認する。
「……?」
私はフェンスの留め具が意図的に外されたような痕跡を見つけた。
「京子くん」
刑事の吉崎 慶太が声をかけてきた。
「僕もそこが気になってるんだ」
「何者かが故意に外し、その結果被害者が転落して亡くなった、というところでしょうかね」
「犯人は無差別に被害者を殺したのかな」
被害者は小此木 恵子。吹奏楽部三年生の部長だ。
「吉崎さん、被害者の周辺は?」
「人に恨まれるようなことはなかったそうだよ。ただ……」
「ただ?」
「中学校の時、被害者はいじめをしていたというんだ」
「今は?」
「特に派手な話は聞いてないな」
中学時代のいじめ。
「そのいじめで誰か自殺してる?」
「同級生の牧田 香奈子っていう女子が学校の屋上から飛び降りて亡くなってるよ」
「牧田さんに兄弟か姉妹は?」
「確か、美智子って子がこの学校に通ってるな。香奈子のお姉さんだ」
「ん? 生徒ですか?」
「双子の姉だそうだ」
「会って話、聞きますか」
「そうだね」
私と吉崎は美智子の元を訪ねた。
「あら、誰かと思えば、名探偵さんじゃない。私に何か用を?」
「小此木先輩はご存知ですよね?」
「ええ、中学が一緒だから。けど、高校入って三年間クラスメイトにはならなかったわ」
「その小此木先輩が三十分ほど前に屋上から転落して亡くなったのだけれど……」
「え?」
戸惑う美智子。
「小此木さんが? まさか、自殺じゃ?」
「いいえ、他殺の疑いがあります」
「他殺? 誰に?」
「牧田先輩、あなたには中学の時にいじめを受けて自殺した妹さんがいらっしゃいましたねえ?」
「香奈子のこと?」
「ええ。動機としても十分考えられるんですよ」
「え? ちょっと何を言ってるのか……」
「私は、あなたが小此木 恵子殺害の犯人だと言ってるんですよ」
「……寝言は寝て言いなさい。私はなんも関係ないわ」
教室の隅で声を発する男子生徒。
「牧田さんなら放課後からずっとここで勉強してたよ」
「そうね。金子くんの言う通りだわ」
「今回の事件は、犯人が予めフェンスに細工をしていたので、離れたところにいても問題ありません」
「犯人はフェンスの留め具を外していたんだ」
「それが私だというの? いい加減にして。バカも休み休み言いなさい」
美智子はそう言って、カバンを手に教室を出ていく。
吉崎が美智子を尾行した。
「君、二年の小杉さんだよね?」
金子という男子生徒が訊ねる。
「知ってるんですね」
「君は本当に吉崎さんが犯人だと?」
「少なくともあなたは違うと思ってるみたいですね」
「いや、犯人ならそれでいいさ。あいつメンヘラで正直うざったく感じてたから」
「どう言うことですか?」
「彼女でもないのに彼女ヅラして俺にちょっかい出してくるんだ」
「なるほど」
「恵子が死んだっていうの、本当なのか?」
「ええ。生徒には伏せてありますけど」
「……最悪だ」
「何が?」
「お昼休み、告白したんだ」
わお。
「オッケーもらえたのに、神様も残酷なことするよな」
「それはそれは」
「よく見たら君も可愛いね。俺の彼女にならない?」
「好きな人が死んだと聞かされてショックじゃないんですか?」
「死んじゃったものはしょうがないでしょ」
「そう。でも、ごめんなさい。私、好きな人いるんで」
「そっか」
「美智子先輩ってどんな人物なんですか?」
「優しい人だよ。怒るとすげえ怖いけど。小学校の時、いじめられてた妹さんのことで、加害者をナタで襲ったらしい」
「ありがとう」
私は教室を出た。
吉崎からSMSが来ている。
メールには美智子を屋上へ追い詰めたと書いてある。
私は屋上に急いだ。
「吉崎さん!」
「おお、京子くん」
「来たら飛び降りるわよ」
と、フェンスの無い縁に背を向けて佇む美智子。
「牧田 美智子さん!」
「なによ? 私はこんなところで捕まるわけにはいかないの!」
「早まった真似はやめて下さい! あなたは、死んではいけません! 妹さんが、こんなこと、望みますか!?」
「……!?」
我に返る美智子。
その場に崩れて嗚咽する。
制服警官が美智子を連行した。
「ねえ、吉崎さん」
「なんだい?」
「今度の日曜、空いてる?」
「空いてるよ」
「デートしよ?」
「え?」
「私、吉崎さんのこと、好きなんです」
「気持ちは嬉しいけど、このタイミングで言うか?」
「どうなの?」
「まあ、いいけど」
「それじゃ、下校時間だからじゃあね」
私は高校を後にした。