第7話 御三家
古貞に男友達ができる回。
◇
次の日の朝。義賊生活一日目。緋恋が逃げ、古貞が裏切ったことを知って幼仲は激怒し豪地を基地へ送り、前祝いの準備をしていた。二人を虫ケラとしか思っていないので興味がなく余裕がある。
豪地は基地の自分の部屋におり頭を抱えていた。
「捕えた緋恋を逃がしてしまうとは、この役立たずども!! それに裏切り者まで殺せないなんて、なんのためにいるんだ!?」
目の前に立っているゴブリンマスクと黒カマキリを罵倒し、さらに頭が痛くなった。楽しくて騒いでいたのに面倒なことになったので機嫌が悪い。
ゴブリンマスクと黒カマキリは嫌な顔をして聞いていた。部下ではなく協調性がないので仲がよくない。
「お前達のせいでバカ当主に罵倒された!!」
豪地に忠誠心などなく当主がいないところでは悪口を言っており罵倒されたことを思いだし、その怒りを二人にぶつけている。
「しょうがないでしょ。全部この緑豚のせいよ」
黒カマキリはゴブリンマスクのせいにし、ジト目で睨んだ。
「なんだと!!」
ゴブリンマスクは怒り、拳を握った。同じ悪党でも仲が悪く最悪の空気だった。
「まあ、やつらのことはいい。三鳥王をつぶすのが最優先だ」
怒りをぶちまけたことで豪地は少し冷静になった。
「三鳥王の館はゴブリン団が包囲して攻めてる。やつらがいなくなれば楽になる。それに緋恋と古貞がくるかもしれない」
幼仲に逆らう三鳥王の館は近くにあり、ゴブリン団は攻め滅ぼそうとしている。下級貴族とは思えないほど強く粘っているが、包囲されているので限界が近い。
「お前達がいって三鳥王にとどめをさしてこい。おれは吉報を待ってる」
近くに街がなく包囲している味方に物資などを送る必要があり、増援としてゴブリンマスクと黒カマキリをいかせる。
「分かったわ」
「やってやるぜ」
納得した二人は自動ドアを開け、部屋から出て廊下を歩く。
「バカ当主どもは古貞を甘く見てるな」
「まあそう思うのが当然ね。でもあのバカ当主じゃ、いくら説明しても理解できないでしょうね」
豪地の部屋から離れた二人は幼仲の悪口を言った。豪地と同じで忠誠心がなく当主のことを利用している。
「それにしてもクラウンはどこにいるのかしら?」
「おれを見捨てたやつだが、あいつの情報は役に立つ。三鳥王の情報を聞こうと思ったのに」
二人はクラウンから情報を聞こうとしていたが、どこにいるのか分からなかった。彼は今回の失態を幼仲に報告し安全な第一基地にいた。味方の評価を下げ、肝心な情報を教えないで楽しんでいる。
ゴブリンマスクと黒カマキリは情報なしで三鳥王を攻めることになった。
◇
その頃、紅一天下のアジト。白い団員服姿の古貞と新しい剣を腰にさげている緋恋、子分達はダンジョンの奥を進んでいた。古貞と緋恋が先頭を歩き、必要最低限の荷物を分けて運んでいる子分達がついてきている。
「ここを通れば三鳥王の館の近くに出るのか?」
「ああ。これなら敵に見つからずに進むことができる」
古貞達は安全な道を通って三鳥王の館へ向かっている。
「ここを調べている時に偶然見つけたんだ。ゴブリン団が包囲していて近づけなかったが、あんたがいれば突破できる」
強行突破で三鳥王の館へいくしかなかった。そのため子分達は殺気立っており、全員無事に突破するのは無理と思っている。
「ここだ」
緋恋は警戒しながら出口に近づく。出口は板でふさがっており、すき間から外を見た。近くに敵はおらず遠くに敵がいて建物が見えたので板を外していき、緋恋が周りを見ながら出て、古貞と数人の子分達が出てきた。
石造りの出口は見つかりにくい野原にあり、敵に見つかることなく敵を見ることができる。
野原と畑ばかりの街がない辺ぴな地で高い防壁に囲まれている洋館が建っていた。
「あれが三鳥王のひとつ 羽矢雲家だ」
緋恋は館を指さした。館には青いカラスのマークがあり一瞬光った。ゴブリン達は館を包囲しており、入るすき間がない。
「ゴブリンどもがいっぱいだ。あそこに突っ込むのは自殺行為だな」
突破できそうなところを探すとゴブリン達が騒ぎだした。
「見つかったか!?」
古貞は驚き、子分達はダンジョンに戻ろうとした。
「違う。戦闘になっただけだ」
緋恋の言葉で古貞と子分達はゴブリン達を見た。空飛ぶ少年が現れ、ゲートが開いて青い団員服姿の団員達が出てきた。中に入ろうとするゴブリン達と攻める団員達の戦闘になった。
「これはチャンスじゃねえか?」
少年は包囲が崩れていることに気づいた。
「たしかに。今なら館に入れる」
緋恋は剣を抜き、子分達も武器を用意した。
「みんなが館に入れるよう私と古貞がゴブリンどもをけちらす!! 死ぬ気で走れ!!」
彼女が走ると子分達も走ってついていく。古貞も負けずに走る。団員達と戦闘中のゴブリン達は突然現れた紅一天下に気づいて驚いた。
「どけ、どけー!!」
頭は味方が進めるように邪魔なゴブリン達を斬って進む。敵は即死や骨が砕けて戦闘不能になっていき、子分達は必死に走る。古貞は刀を使わずに軽く殴って倒していき子分達を守っている。
「わっ!?」
順調に進んでいるが空から無数の光の矢が飛んできて地面に刺さったので緋恋達は止まった。
「貴様らは何者だ!?」
矢を放ったのは空中に浮いている少年。背中に届くほどの長い水色の髪で線が細く、きれいな顔をしている。青い団員服姿で黒いブーツ、両手の甲に黄金の弓を装着しており紅一天下を狙っている。
「私は紅一天下の杉木 緋恋だ!! 館に入れてくれ!!」
少女は敵ではないことを大声で伝え、少年は彼女の顔を凝視した。
「……たしかに手配画像と同じ顔だ」
本人と分かり、紅一天下を狙うのをやめ、ゴブリン達を狙う。両方の弓から無数の光の矢を放ち、突き刺さった敵は消滅していく。
「早く館へいけ!!」
援護する少年を見て緋恋は笑った。
「みんな、走れー!!」
邪魔な敵がいなくなり緋恋達は一気に走り、団員達も戦闘をやめて館へ向かう。ゴブリン達も館へ向かおうとするが少年が無数の光の矢を放って妨害する。
進めないゴブリン達は撃ち落とそうとマシンガンを撃つ。全員がゲートを通って中に入り、ゲートは閉じた。少年は空中に浮いているので飛んで中へ入り着地した。
「だれひとりかけていない。ありがとう、古貞」
緋恋は子分達が全員いることを喜び、彼女達を守った少年にお礼を言った。
「おれも紅一天下の一員。仲間を守るのは当然だろ」
古貞の行動で子分達の心境も少し変わっていた。
「紅一天下のみなさん。ようこそ、羽矢雲家へ」
先ほどの少年が歩いて近づき、緋恋達に声をかけた。
「私は羽矢雲 絵亜郎。この家の当主 羽矢雲自由の嫡男だ」
毅然としていて丁寧で品があり幼仲よりも貴族らしい。
「自己紹介はさっきしたが私は紅一天下の頭 杉木緋恋だ」
「おれは岡井 古貞だ」
絵亜郎は柔軟な頭をしており盗賊団ではない少年のことは聞かず受け入れた。
「ゴブリン団に包囲されているようだな」
「ああ。目障りなゴブリン達を倒そうと何度も攻めてるけど数は減らず増援がくるばかりだ。他の家も同じように包囲されている」
盗賊団の頭と下級貴族の嫡男が話をした。
「やつらは空が飛べないから防壁を突破することができないけど油断はできない」
絵亜郎は高い防壁を指さした。ゴブリン達は防壁を破壊する力などなく今のところは安全だった。
「領民達のために戦ってんのか?」
「それもあるけど母と妹の敵討ちでもある」
身分など関係ない感じで少年とも親しく話す。
「幼仲は私の妹を犯し、抵抗して傷をつけたという理由で殺した。そのことを糾弾した母も殺した」
悲しみを表に出さず平然とひどい過去を言った。領民達のためという高潔な理由だけでなく復讐もあった。
「幼仲のやつ。そんなことをしたのか」
古貞は呆れてしまった。
「部下の娘なら、なにをしてもいいという考えでついていけず同じような仲間達が集まり戦うことにした」
ここには羽矢雲家の団員だけでなく耳が長くとがっている貫頭衣姿の人達もいた。
「エ、エルフだ!! マンガとかで見たことはあるけど本物を見るのは初めてだ!!」
古貞達はエルフ達を見て驚いた。日桜皇国にもエルフはいるが外国のエルフと違い、枯れ葉のような茶髪で薄汚れており、妖精ではなく妖怪のような扱いだ。
和風エルフ達は古貞達に気づき、愛想笑いを浮かべてお辞儀をした。
「エルフ達はだれにも見つからない里に住んでいたが突然ゴブリン団が攻めてきて里を失い、多くの仲間が捕まったので私達を頼った。この黄金の弓はエルフの技術だ」
絵亜郎は黄金の弓を見せた。受け入れてくれた羽矢雲家の嫡男に向けるだけで光の矢を放ち、飛ぶことができる弓を与えた。
外国のエルフと違い、人間に友好的で腰が低い。
「逃げたダークエルフの犯罪者が幼仲に里のことを教えたらしい。みんな、そのダークエルフと幼仲を恨んでる」
エルフ達は羽矢雲家に協力的でやられた団員達の代わりをしようと武器を持っている。
「倒す相手は同じ。一緒に戦うために私達はここへきた」
「紅一天下が味方になってくれるのは心強い。なにもないが、ゆっくりしてくれ。また戦闘になるかもしれない」
普通なら盗賊団を歓迎するようなことはしないが絵亜郎は緋恋達の加入を喜んだ。負傷者が多い羽矢雲家に紅一天下が加わったのは大きい。
羽矢雲家と紅一天下、エルフがひとつとなり小さくて強い組織になった。
「大変です!!」
青い団員服姿の女性オペレーターが慌てて走ってきた。
「どうした?」
「炎赤家のオペレーターから緊急報告!! 炎赤家が陥落し、ご当主とご家族、団員達が全滅しました!!」
「なに!?」
女性オペレーターの報告を聞いて冷静な絵亜郎は動揺した。炎赤家は三鳥王のひとつ。そこのオペレーターが最期の力をふりしぼって報告してきた。
「炎赤家を滅ぼしたゴブリン団に覆面の男と黒い刀を持った変態がいるそうです!!」
「覆面の男と黒い刀を持った変態。あいつらか!!」
相手が分かり、古貞と緋恋はお互いの顔を見た。三鳥王のひとつ 炎赤家が滅んでしまったが動揺している場合ではない。
赤いヒクイドリのマークが壊れた館にはゴブリンマスクと黒カマキリがおり移動を始めていた。
絵亜郎は優等生タイプ。炎赤家だったら危なかった。
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