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第5話 用済み

 団員 古貞の最期。

 ◇


 その日の夜。捕まった緋恋はゴブリン団の基地の庭にある処刑台にX字に拘束されていた。とても頑丈な拘束具と処刑台で彼女の怪力では壊せず能力も使えないので古貞との戦闘で受けたダメージが残っている。

 幼仲に報告したゴブリン団は基地内で陽気に騒いでいた。当主ほどではないが領民達から略奪したものがあり、贅沢なバカ騒ぎができる。

 そして幼仲も緋恋を捕えたことを喜び、贅沢な宴をしていた。


 当主の命令で明朝処刑が決まった。牢屋ではなく、ここに拘束されているのは子分達をおびきよせるため。きたらこの場でまとめて処刑する。

 見張りも宴に参加しており、見張りがいない処刑台に古貞は近づき、死んだように目を閉じている美しき獣を見た。


「古貞。ゴブリン野郎じゃなくてよかったよ」


 少年がきたことに気づき、目を開けて笑った。


「私を倒した英雄がどうしてここにいるんだ?」

「見張りを押しつけられた。手柄はあんたを倒したおれじゃなくて捕えたゴブリンどもだそうだ」


 古貞の手柄はゴブリン団のものになってしまった。彼の味方は鮎美しかおらず覆すことはできない。


「あのバカ当主らしいな」


 緋恋はバカにして笑い、首を横に振った。


「まあ手柄なんてどうでもいい」


 少年は処刑台に座った。


「おめえを見て分かったが領民達のために盗賊の頭をやってんのか?」


 彼女からすべてを聞くことにした。聞けば後戻りはできないだろう。


「ああ。母の遺志を継いで紅一天下の頭になった」

「母だって?」


 緋恋は昔を思いだして話す。


「バカ当主の悪政は先代当主が亡くなってからだ。人々は重税で苦しみ、逆らう者は殺されていったので父が領主に直訴するために繭林へいった。これで救われると思った」


 領民達は最初穏便な方法をしていた。普通ならそれで解決だが、彼女達の悲劇が始まった。


「だが領主は父を殺し私達にその首を送り、直訴の罪で幼仲に私達を殺す指示を出した」


 父の死を思いだし怒りと悲しみで声と体が震えている。


「領主って。今の混東世冥か?」

「他にだれがいる? 領主が幼仲を支援していて、やりたい放題だ」


 領主がバックにいて悪政の手助けをしていたとは、だれも思わなかっただろう。緋恋の父は正しいようで間違ったことをしてしまった。


「バカ当主は五魔獣団で攻めてきて男は皆殺しにされ、私と母の女達だけ逃げることができた。そして母は生きていくために生き残った女達で紅一天下を組織し頭になった」


 五魔獣団が攻めていたことを思いだし恐怖を感じている。たくましくて強そうな見た目でも繊細なところがあった。


「幼仲を倒す気はなく贅沢な生活をしているやつらから金目の物や食糧を奪って困っている人達に分け与えて生活し、同じような女達が集まって、かなり大きくなっていった」


 紅一天下は幼仲の悪政に苦しむ人達を助けながら生活する義賊だった。


「そんな連中をバカ当主が許すはずがなく五魔獣団を何度も送ってきて女達を殺し、母を捕えた。今の私のように拘束されて処刑された」


 母の最期を思いだし、悔しさと悲しさで体を震わせて涙を浮かべた。


「涙が枯れるほど泣いて母の遺志を継いで頭になり領民達を救うために幼仲と戦うことを決意した」


 彼女は義賊の頭になり母親と同じように活動し、元凶である当主がいるかぎり平和はこないので倒すことも考えていた。

 両親を失い、盗賊団の頭になった緋恋の過去は凄惨で破天荒だった。そのため、こんな状態でも死を恐れずに堂々としている。


(おれは倒す相手を間違えていたようだ)


 普通なら信じない。しかし電太のラボで世冥の顔を見た少年は彼女の話を信じていた。


「外の連中に話しても信じなかったのに、あんたは私の話を信じるのか?」

「ああ。信じるよ」


 自分を倒した少年の真剣な表情を見て緋恋は顔を少し赤くし、抱きしめたい気持ちになった。

 本当の悪党が分かり、彼女を助けないが強大な敵なので、なかなか行動に移れない。


「そこまで聞かれたら生かしておけないわね」

「処刑は明朝だが早くなっちまった」

「その声は!?」


 古貞は聞き覚えがある声に驚き、立ちあがった。夜の闇に二人おり、処刑台に近づいて姿を見せた。


「ゴブリンマスクと黒カマキリ!! 生きていたのか!?」


 少年が倒した悪党達だった。倒した敵が二人同時に出てきたので少し動揺している。


「覆面が無事だったからな」


 蝋燭女王の館で負けたゴブリンマスクは沼束まで逃げ、幼仲に匿ってもらい、前と同じ体をもらっていた。


「やられたふりをして逃げたのよ。でも、かなりのダメージを受けて大事なものがとれてしまったわ」


 黒カマキリは魔王コウモリと同じようにやられたふりをして沼束まで逃げ、幼仲に匿ってもらっていた。姿形は変わっていないが、しゃべり方と武器が違う。


「なにしにきた?」

「幼仲様のご命令で用済みのあんたを殺しにきたのよ。そいつがいろいろ話したし、あんたには恨みがある」

「なにかしらの罪で死んだことにするから、なんの問題もない。ついでにそこの娘も殺す」


 二人は緋恋を捕えて役目を終えた古貞を殺しにきた。彼女がいない盗賊団はザコなので自分達でつぶす気だった。


「バカ当主め!!」


 緋恋は怒り、二人の悪党を睨んだ。


(おれの運命は決まったな)


 バカ当主が決めたことは覆らないので古貞は刀を抜き、拘束具と処刑台を斬って緋恋を解放した。能力が使えるようになり再生能力でダメージが消えていく。


「逃げろ!! おれがやつらの相手をする!!」


 少年は彼女を逃がすために解放し、ひとりで戦う。しかし緋恋は逃げなかった。


「でかい覆面野郎は私に任せろ」


 彼女はゴブリンマスクに向かっていき、手四つになった。両腕が折れるような力をいれて押し合う。

 闘ってくれているのでゴブリンマスクの相手を緋恋に任せて黒カマキリに挑む。


「前の刀とは違うわね」


 刀が違うことに気づき敵は刀を抜いた。


「おめえこそ鎌じゃなくて刀とは」


 少年は黒カマキリの刀を見た。全体が黒くて刃も黒い刀だった。


「斬る武器なら使いこなせるのよ。ここにはドワーフ団がいて、とれてしまった私の体の一部を妖刀にしてもらったわ」


 悪い笑みを浮かべて刀を舐めた。


「だったら、その刀を股に挟め。変態カマキリ」


 彼の言葉でとれてしまった体の一部が大体分かり挑発する。


「こうなってから、あんたのことがむかついてしょうがないわ」


 黒カマキリは怒り、ひきつった笑みを浮かべた。しゃべり方と武器だけでなく性格も変化していた。


「いくぜ!!」

「かかってきなさい!!」


 妖刀同士の闘いが始まった。鎌とは違う動きで古貞と同じ速い攻撃だが刀が彼を動かしている。


「前より強いけど刀がお前を動かしていて楽をしてるな!」

「殺し屋は相手を殺すのが仕事で楽に強くなれる方がいいのよ! この妖刀 友喰威ともぐいは持つ者を剣の達人のように強くするのよ! しかも自分の体だから妖刀の拒絶反応がない!」


 強力な妖刀は弱い者には使いこなせず命を奪うものがある。しかし彼が持つ妖刀は自分の体の一部なので、うまく使いこなしている。

 互角の戦闘をしていると基地内のゴブリン達が騒ぎだした。


「これ以上、闘うのはまずいな!!」


 幼仲を裏切ったので、もう味方ではない。長くいるとゴブリン達がきてしまう。逃げようと敵から離れた時、ゴブリンマスクが飛んできて黒カマキリに激突した。


「逃げるぞ、古貞!!」


 緋恋がゴブリンマスクを投げとばして少年の逃亡を助けた。武器がなくても力でゴブリンマスクに勝利した。


「おお!! ありがとう!!」


 古貞と緋恋は同じ方向に逃げ、基地を出た。鮎美はまだ基地にいるが逃げるのが精いっぱいだった。

 すべてを知った少年には後悔などなく緋恋とともに闇に消えた。


「あんたのせいで逃げられたわ!! このデカブツ!!」

「なんだと、ヒョロカマキリ!!」


 二人は殺す気で争っており古貞達を追うことができなかった。緋恋が逃げたことを知ってゴブリン達は酔いが醒めて慌てている。


「古貞のやつ。やっぱり幼仲に逆らったか。これは面白くなるぞ」


 姿を消して見ていたクラウンがだれにも見つからないように姿を見せて笑った。


 ゴブリンマスクと黒カマキリ復活。

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