第3話 酒池肉林
悪徳貴族 幼仲の生活。
◇
人質を救出した古貞達は第四基地の転送装置で第一基地に戻った。騎雷姉妹は牢屋へ送られ、古貞達は幼仲の部屋におり、ひざまずいていた。
「あの絵馬を倒すとは。よくやった、古貞!!」
椅子に座っている幼仲は喜び、少年を褒めた。
「ありがとうございます、幼仲様」
悪徳貴族に褒められてもうれしくなく形だけ頭を下げた。頭を下げれば喜ぶ単純な当主で上機嫌になっていた。
「だが今回、一番の手柄は基地を制圧し指揮官を捕えた豪地だ。だから褒美は豪地に与える」
幼仲は嫌な笑みを浮かべていて気持ち悪かった。
「ありがたき幸せ」
頭を下げた豪地は笑っており褒美を喜んでいる感じではなかった。これが幼仲のやり方で贔屓にしている豪地の手柄にして古貞に褒美を与えない。
少年は褒美など期待していないので文句はなかった。母を失った鮎美は憔悴しており、ひどい顔でゴブリン団に敵討ちや復讐をする気などなかった。それだけ恐怖などがしみついていた。
「褒美は僕とともに祝勝会。古貞と鮎美はゴブリン団の基地へいき、紅一天下を駆除しろ」
当主は二人に命令した。
「分かりました」
ここにいるより盗賊の相手をした方がいいと判断し立ちあがった。鮎美も立ちあがり二人は部屋を出た。
「紅一天下の駆除はやつらに任せて祝勝会だ!! さあ豪地!! グランパーティーだ!!」
二人がいなくなった途端、幼仲は立ちあがって騒いだ。
「はい!!」
豪地も立ちあがって喜んでいた。人質の娘達を乗せたトラックは第一基地に到着し娘達を牢獄のような後宮へ送る。
第一基地は趣味の悪い後宮があり下品に輝く黄金の基地で上空には黄金の豪邸があった。
◇
別空間にあるパーティー会場。煌びやかで広く、芸などの見せ物ができる巨大な舞台がある。胡麻見家の重臣や第一基地の幹部などがおり、露出が多い淫魔団の美女達が働いている。
主役は幼仲と豪地で豪華な椅子に座っていた。
「楽しい宴!! グランパーティーの始まりだ!!」
当主が黄金の杯を掲げると宴が始まった。淫魔団の美女達が豪華な肉料理と高級な美酒を持ってきて重臣達は楽しむ。
どこを見ても肉と酒ばかりで野菜や魚がなく、淫魔の美女踊り子達が舞台でいやらしく踊っている肉のパーティーだった。
「僕の好物だ!!」
淫魔団の美女達が巨大なテーブルに当主の好物を置くと幼仲は喜んだ。分厚いステーキを切って金串に刺したバーベキューと巨大なハンバーグ。
「うまい!!」
両手に持って肉の塊にかぶりつく。塩とコショウがきいていて、さまざまなソースがあり、つけて味を変えて食べることができる。
「酒がいくらでも飲める!!」
肉を食べるのをやめて黄金の杯で酒をガブ飲みする。
「肉と酒!!」
酒の次は巨大なハンバーグ。ナイフとフォークを持ち、ナイフで切り、フォークで刺して食べる。肉汁たっぷりで口の周りがよだれと肉汁で汚れた。
「肉と酒をもっともってこい!!」
幼仲はかなり酔っており、肉と酒がすごい勢いでなくなっていく。
「最高ですね、幼仲様!!」
淫魔の美女達が豪地の体にまとわりつき、乳房などを押しつけ、酒を注いで飲ませていた。豪地はしまりのない顔で彼女達の体を触って喜んでいる。
パーティー会場にいる者達はとても楽しんでいるが楽しんでいない者達もいた。
「このようなバカ騒ぎは控えないといかん」
白い団員服姿の厳格な老人が蔑んだ目で周りを睨んでいる。
「本当ですね、お父様」
老人の後ろにいる若い美女は嫌な顔をしていた。背中に届くほどの金髪のポニーテールでスカートタイプの白い団員服姿で腰に細い剣をさげ、黒いブーツを履いていた。
淫魔団の美女達のような露出が少ない堅物だが気丈で清廉な美貌があり、下品な目で見ている者達がいる。
「白鳴親子だ」
「あのきびしいジジイがいると料理と酒がまずくなる」
「娘は相変わらず美しい」
周りの人々は老人を煙たがっており、美女をいやらしい目で見ていた。二人は胡麻見家を支えている重臣親子で父の厳郎と娘の礼羽だ。
「領民達から搾取した税で贅沢をするグランパーティー。豪華な料理と酒。どれだけの領民を苦しめているか」
礼羽は料理と酒、人々を見て嘆いた。
「幼仲様が真っ当になるのを信じるしかない。そうなるまで私達が支え、幼仲様の邪魔をする者をつぶすのだ」
厳郎は幼仲の父に仕えていた忠臣で悪徳貴族の息子に甘く、真っ当になることを信じており見捨てていない。
幼仲はそんな彼の心など知らずやりたい放題で疎ましく思っており、領民達も悪徳貴族を支持している白鳴家を嫌っている。
「それはいつなのですか? ご先代様が亡くなられてから、もう何年も経っています」
娘は父親が仕えているから従っているだけで今の当主をよく思っていない。
「私達は胡麻見家に尽くせばいいのだ。余計なことは考えるな」
胡麻見家のことを第一に考えており、忠誠心が低い娘を睨んだ。
「申し訳ありません、お父様」
礼羽は謝ったが心の底では納得していなかった。
「厳郎様」
パーティーを楽しんでいない二人に若い男性が声をかけた。短い黒髪で両目が前髪で隠れており黒い団員服姿。赤いマントをつけていて腰には禍々しい重厚な魔剣をさげ、黒いブーツを履いていた。
「凱矢殿」
男性を見て厳郎の表情はゆるみ明るくなった。
「傭兵団の黒木 凱矢だ」
「庶民の用心棒ごときが」
周りにいる上流階級の者達は男を見下していた。彼は五魔獣団とは違う人間の傭兵団の団長だ。庶民の用心棒から貴族になった実力者で幼仲のために働いているので厳郎は息子のように思っている。
厳郎と幼仲のお気に入りなので、よく思っていなくても彼を陥れる者はいない。
「礼羽。この後、趣味の悪いイベントがあるぜ」
「そう」
凱矢の話を聞いた彼女は暗い表情になった。
「さあメインイベントだ!!」
上機嫌の幼仲が叫ぶと踊り子達は踊りをやめていなくなり、二人の女淫魔がボロ布を着た絵馬をつれてきた。
「はなせ!!」
相手が女で淫魔の魔術で力がはいらず彼女の抵抗は弱かった。二人の女淫魔は美しいが人々の視線は絵馬に集中している。
「今から、この僕に逆らったあの女を火あぶりにする!!」
当主は舞台の上で絵馬の処刑を行う。それを聞いて人々は狂喜し期待しており正気ではなかった。
「よろしいのですか、お父様? 絵馬を処刑するなんて。彼女は娘達を守っただけです」
礼羽は絵馬の処刑に反対で処刑を見せ物にしているのが許せなかった。
「幼仲様がお決めになったことだ。幼仲様に逆らったあの娘は死んで当然だ」
厳郎は当主に逆らった絵馬を助ける気などなかった。
「くっ!」
なにもできない礼羽は彼女の最期を見ることしかできなかった。
(幼仲様は楽しみのために人を処刑するからな)
凱矢はあまり興味がなく料理をとっていた。当主は処刑を見せ物にしており絵馬のような裏切り者だけでなく、なんの関係もない女達も殺されていた。
舞台の床からX字の台が出てきて二人の女淫魔は嗜虐的な笑みを浮かべ、慣れた手つきで絵馬の両手と両足を固定した。
「くっ!!」
X字に拘束された彼女は男達の好色な視線が体に突き刺さり、顔を青くして悔しそうに目を閉じた。男嫌いの彼女にとって男を喜ばせるのは屈辱だろう。
「もったいないけど男嫌いで僕のものにならないのならしょうがない。せめて死んで僕を喜ばせろ。やれ!!」
幼仲が命令すると二人の女淫魔は手の平から炎を放った。そして、その炎で絵馬をあぶる。
「バカ当主め!! お前はもうおしまいだ!! 地獄へ落ちて苦しみ続けろ!!」
自分の最期なので言いたいことを喚く。死なないように焼いており、ボロ布が燃え皮膚にくっついた。
「黙れ!! お前のようなやつがいなくなれば沼束は安泰だ!!」
当主は怒り、燃えていく絵馬を見て興奮している。周りの人々も興奮しており、ぎらついた目で見ていた。
「バカ当主め!! お姉様!! さようなら!!」
最期の叫びとともに絵馬の体は燃えてなくなり、X字の台だけになった。
「この僕に逆らうからだ」
「本当にバカな女ですね」
幼仲は絵馬の死を肴に酒を飲み、豪地はゴマをする。狂喜している者がほとんどだが、中にはこげた臭いで気分が悪くなって吐いている者もいた。
「うっ!」
何度見ても慣れない礼羽は気分が悪くなり、よろけた。
「だいじょうぶか?」
凱矢は彼女を支えた。
「ええ。ありがとう」
礼羽は顔を少し赤くして凱矢から離れた。
「このままでは大変なことになる。早く紅一天下という盗賊どもを片づけて平和にしないと」
厳郎は幼仲が真っ当になって自分達が支えれば昔のような胡麻見家になると思っている。しかし、もう胡麻見家は取り返しがつかないところまでいっていた。
幼仲のモチーフはゴマシジミの幼虫。アリに甘い蜜をあげるが、アリの幼虫やサナギを食べる。
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