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第19話 厚顔無恥な指揮官

 こういう嫌な上司はいる。そしてしぶとい。

 ◇


 女体魚アクアリウムの仕事が終わった後。別々の仕事があり少女達と別れ、古貞はひとりで歩いていた。


「人が足りなくてよいじゃねえ」


 愚痴をこぼして歩き、不満の表情を浮かべている。基地を奪還したが今回のことで他の基地へ移る団員が続出し第三基地は人材不足になっており古貞達だけでなく他の団員も手分けをして仕事をしている。


「アネモウネはいねえが、蝋燭女王と社地子がいてよかった」


 悪人の手を借りたいほど人がいないので人材としては優秀なアネモウネがいないのは痛かった。鮎美を見つけて運んだ後、彼女は消えてしまった。

 その代わり蝋燭女王と社地子がよく働いている。基地を乗っ取った電太に協力したので罪を償う必要がある。

 雑草兵や豚人類がおり数を補うことができ、蝋燭女王の命令にだけ従うので彼女の主になった社地子が管理し、うまく動かしている。

 しかし電太がいなくなったので豚人類は今あるものだけで雑草兵は増えることができるも軽い仕事ぐらいしかできなかった。それでも使いつぶしてもいい労働力はうれしかった。


「おれ達がこんなに苦労することになったのは電太のせいだが細川指揮官のせいでもあるな」


 古貞は倒した電太と太々しく指揮官の座にいる細川指揮官の顔を思い浮かべて嫌な表情になった。

 今回の事件は基地を乗っ取った電太が悪いが、すぐに基地と団員達を捨てて逃げた指揮官にも責任がある。お飾りの指揮官とはいえ彼がしっかりしていれば基地を奪われ、英士と勇奈が裏切ることはなかったかもしれない。

 だが電太はまともな経歴で第二基地の医者だったので悪党と見抜くのは難しく、細川指揮官にばかり責任があるわけではなかった。

 さらに早く逃げて第二基地に応援を求めたことで被害が最小限になったので降格にならず指揮官のままでいた。

 非難囂々でも気にせずに指揮官をやっており、そこだけはすごかった。しかし細川指揮官の人望はさらに失墜し団員達は離れていき、人材不足になってしまった。

 今、基地にいるのは他の基地に移るコネや実力がない者ばかりだった。それでも基地の機能が止まらないように残っている団員達でなんとかしている。


「細川指揮官はなんもしねえし、というかなにができるんだか」


 無能なお飾り指揮官のことをバカにして笑った。第三基地の団員はほとんど細川指揮官がいてもいなくてもいいと思っている。


「なんだと、貴様ら!!」

「えっ!? この声は!?」


 聞き覚えがある怒声に驚いて止まった。第三基地近くの広場で古貞は自動販売機の陰に隠れて見ると細川指揮官と三人の団員が睨み合っていた。


「おれ達は第四基地へいくっていったんだよ!! このクソオヤジ!!」


 リーダー格の団員が代表して言った。三人の団員は第四基地へ移ることができる幸運な者達だった。細川指揮官を見下しており態度が悪い。三人おり、いつもと違う態度なので細川指揮官は偉そうな態度のようで焦っている。


「貴様らがどこへいこうと構わないが指揮官であり、年上のこの私にそんな態度をとるのは許さん!! 無礼者ども!!」


 引きとめることはせず三人を指さして態度が悪いことを責める。階級と年齢が上だということを出し、そんな指揮官に三人と古貞は呆れていた。


「無能な年齢だけ上のオヤジなんて指揮官じゃないだろ。それにおれ達はもうあんたの部下じゃない」


 三人が態度を改めないので細川指揮官の怒りは頂点に達した。


「おのれ、この若造ども!! この私をバカにするな!! 私は若い頃、激動の時代を生きた猛者だぞ!!」


 リーダー格の団員に殴りかかる。


「うるさい、クソオヤジ!!」


 戦闘タイプではない、その場の勢いなので団員に殴られ、醜い顔になってふっとんだ。ちなみに彼が若い頃は今と同じで逃げて媚びへつらって生きてきた。


「殴りかかってきた!! やっちまえ!!」


 怒った三人は細川指揮官に近づいて蹴りまくる。眼鏡が少し割れ、アザができ、骨にひびがはいり、気持ち悪くて情けない姿になっていく。


「やめろ!! この無能!! 底辺!! 社会のお荷物!!」


 痛めつけられても罵倒を続ける。


「全部お前だろ!!」

「指揮官だったから我慢してたけど、もう我慢する必要はないな!!」

「キモい口臭と体臭をまき散らして本当に迷惑だった!!」


 相手が年配で元指揮官でも容赦なく蹴りまくる。


(痛そうだけど、これはしょうがねえな)


 自業自得なので古貞は助ける気がなく、ただ見ていた。三人はおとなしく乱暴をするタイプではない。その三人がああなるほど彼はひどい指揮官だった。


「退職金をもらうぞ」


 気がすんだので蹴るのをやめて懐からサイフをとった。


「しけたオヤジだから中身もしけてるな」


 金をとり、空になったサイフを指揮官の上に捨てた。


「まあいい。これでなにか買って食おう」

「いいね!」


 三人は細川指揮官を放置し、楽しそうに話しながら歩いた。団員達がいなくなったのを確認し古貞は自動販売機の陰から出た。


「だいじょうぶですか、細川指揮官?」


 助けずに見ていたことがばれるとうるさいので何食わぬ顔で近づく。


「古貞。早く助けろ」


 少年が偶然通りかかったと思っており、偉そうに助けを求める。

「はい」

 あまりにも惨めなので同情し倒れている指揮官を起こす。


「あいつら、絶対に許さん!! 第四基地の指揮官にやつらがやったことを報告してやる!!」


 それくらいの嫌がらせしかできなかった。それに他の基地の指揮官も彼の悪評を知っているので、あまり意味がない。


「どいつもこいつも!! 部下も家族も私をなんだと思っているんだ!?」


 怒りがおさまらない細川指揮官は喚く。


「家族?」


 指揮官の言葉で少年は止まった。


「だれのおかげで生活できると思っているんだ!! 私がバカな上層部や部下どもの相手をして必死に稼いでも妻は感謝せず私をサイフか貯金箱のように扱い、醜く太り、娘は父親ではなく汚いおっさんとしか思っていない!!」


 仕事だけでなく家庭のストレスがたまっており、ぶちまけた。聞きたくない話を聞くことになり古貞は嫌な表情を浮かべた。


「家に帰るのが嫌で基地で生活するようになっても連絡なし!! きれいな妻と可愛い娘はもういない!!」


 彼の家庭は冷えており基地で生活するのが、よっぽどマシだった。そんな話を聞いても少年はなにも言えなかった。


「今回のことはすべて家族のせいだ!! 家族のせいで私は仕事を失敗している!!」


 なにもかも家族のせいにするほど汚くなっていた。


「家族のせいだと?」


 古貞の表情は険しくなり、細川指揮官を助けるのをやめた。


「おい!? なにやってんだ!? 早く病院へ運べ!!」


 ひとりで移動するのが大変なので慌てたが、少年は冷淡な態度になっていた。


「なんだ、その態度は!?」


 体が凍りそうな恐怖を感じつつ少年を指さして怒った。


「父親は妻と子供のために働くもんでしょ。それなのに自分の失敗を家族のせいにするとは最低な父親ですね。そのように後悔するのなら父親にならないでください」


 ドスがきいた声で古貞は感情的になっていた。父親というものをよく思っていないので妻と娘の悪口を言う細川指揮官と妻と自分を捨てた父親が重なってしまった。


「しかも家庭のことを引きずって仕事をしていたとは。死んだ団員達が哀れです」


 怒りもなにもかも通りこしてしまった。


「それでは、おれは仕事があるので失礼します」


 言いたいことを言い、考えなどを変えることができない凝り固まった相手に、これ以上話しても無駄なので頭をさげて移動する。


「なっ!? おい!?」


 言いたい放題言って放置したので細川指揮官は三人への憎しみが消え、古貞への憎しみが湧き、眼鏡が完全に割れた。


「おのれ!! 古貞!! 絶対に許さん!! こき使ってつぶしてやる!!」


 怒りに任せて古貞を追放するようなことは考えなかった。彼もそこまでバカではない。

 細川指揮官は古貞を悪い意味で認めた。コネがない古貞は他の基地に移るのが難しく、険悪な仲になった指揮官の下で働くことになってしまった。

 彼が指揮官でいるかぎり出世はないが少年は興味がなく、いつも通り働くだけだった。


 嫌な指揮官に目をつけられた古貞。でも、ちゃんと見てもらえるようになった。

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