第12話 裏切りの実験ネズミ
古貞と因縁がある二人との戦闘回。
◇
その頃、古貞と鮎美は基地に到着した。
「だれもいないくらい静かだ。基地が魔王の城に見えちまう」
基地は不気味なほど静かで荒れており、邪悪な感じになっていた。
「これからどうするの、古貞君?」
勢いできた鮎美は乗っ取られた基地を見て一気に冷静になり不安になった。
「聖華を見つけよう。赤糸!!」
聖華を見つけようと中指から白い糸を出した。糸は伸びていき、空間を貫いた。
「別空間にいるのか!?」
電太のラボに出た糸は彼女を捜すように動いて伸びる。そして円形の手術台に拘束されている聖華の小指に巻きつき、赤くなっていく。
「見つけた!!」
赤い糸は少年を強く引っぱり、古貞は抵抗しなかった。そのまま引っぱられて別空間へ入っていく。彼の体がすべて入ると穴はすぐに閉じてしまい、鮎美が入る暇がなかった。
「古貞君だけいっちゃった。私はどうしよう」
別空間へいく方法がないので鮎美は困ってしまった。
「とにかく基地の中へ入ろう」
ひとりで心細い彼女は基地へ向かおうとした。その時、彼女の背後に管子が出現した。
「いい体をしたメス。私の実験動物にしてあげる」
鮎美のたくましく、しなやかな体を見て管子は口から毒々しい色の煙を出しながら悪い笑みを浮かべた。
突然、敵が出現し鮎美は驚いて振り向く。しかし、なんの抵抗もできず管子が吐いた煙を吸って顔色が悪くなった。
うつ伏せに倒れ、彼女は気絶し少し苦しんでいる。
◇
鮎美が敵にやられてしまった時、古貞は電太のラボに出た。同時に赤い糸は消えてなくなった。
「ここに聖華がいるのか。なんだか薬品臭くて、変な生物兵器が出てきそうな場所だな」
鼻がおかしくなりそうな薬品の臭いで顔を歪めて周りを見る。荒れ果てた広い研究室で物が少なく動きやすい場所だった。
「鮎美をつれてくる暇がなかった。歩きまわって聖華を見つけるしかねえな」
古貞が移動しようとした時、英士と勇奈が現れた。
「英士、勇奈」
蝋燭女王の情報で敵と分かっており刀に手を伸ばす。少年に敵意を向け、悪人面になっており裏切ったのは本当だった。
「この時がきてうれしいよ」
「ほんと! ようやくこいつを殺せる!」
二人は醜い笑みを浮かべた。古貞に負けたことを根に持っており執念深いが、古貞は嫌なやつら程度にしか思っていない。
「高山奇団を裏切って悪党の味方をするなんて上流階級のくせに恥ずかしくねえのか?」
説得する気などなく二人を殺すために話をする。
「恥ずかしくないね。強い者に従って栄えるのは上流階級として当然のこと。家が栄えるなら善悪は関係ない」
「そう! 私達をバカにしたやつらなんて裏切っても殺してもいいのよ!」
自分達が悪いことをしたとは思っておらず堂々としており、まともじゃなかった。嫌なやつらが最低なやつらになったので同情の余地はない。
「分かった。お前らを殺す」
基地奪還のために裏切った団員を殺しても問題ないので刀を抜いた。
「ほざくな、庶民!! 僕達は前より強くなったんだ!!」
「殺すのは私達の方よ!!」
古貞の言葉で二人の顔は怒りで歪み、殺気を放って剣を抜いた。英士は体を光らせ、勇奈は彼の背中に隠れて剣を構えた。
「風ノコ!!」
刀に風をまとって回し斬りかかる。バリアをはっており英士に傷はつかず剣でも防御をしている。
そして勇奈は英士の体から出たエネルギーを剣に集めて振った。かわしたが少しかすったので離れた。
「たしかに前より強い! 英士のバリアとエネルギーの量! 勇奈のエネルギーを集める量もあがってる! どうなってんだ!?」
前より強いことが分かり警戒する。
「電太さんのおかげだ!! 入院していた僕達に転生劇薬をくれた!! そのおかげで強くなり早く退院できた!!」
二人が強くなったのは電太の仕業だった。
「転生劇薬? なんだそれ?」
「冥土のみやげに教えてやる!! 転生劇薬は電太さんが作ったもので飲むと体の内側が生まれ変わったように強くなるサプリメントだ」
英士は自分が作ったように自慢して教えた。
「そのサプリメントによって僕達の体の構造が変わり、エネルギーの流れる量などが変わって強くなった!!」
見た目を変える人生劇薬と違い、転生劇薬は見た目ではなく体の内側を変え、エネルギーを増やして流れやすくするもので二人の能力は強化され、使いやすくなっていた。
「サプリメントで強くなったくらいでいい気になるな!!」
すごいサプリメントを作った電太の技術には驚いたが、飲んだ二人がたいしたことないので負ける気がしない。
「ほざけ!! このバリアを破れないくせに!!」
エネルギーの量が増えたことで前よりバリアは丈夫になり、勇奈に与えるエネルギーも十分ある。
「今、破ってやるよ!! 断妻鬼!!」
刀に風をまとい、激しく回転させ大きな竜巻にして振った。
「こんな攻撃など!!」
自信満々で受けたが、バリアを削っていき、痛みを感じたのであせり始めた。バリアを破り、彼の体を少しずつ削ってダメージを与え、ふっとばした。
竜巻は消え、英士はかなりのダメージを受け、後ろにいる勇奈は無傷だった。
「お前らじゃ、いくら強くなってもたかが知れてる」
強くなっても古貞より弱く、あまり意味がなかった。転生劇薬は個人差があり、二人はあまり強くならなかった。
「おのれ!! 僕達を愚弄するか!!」
怒ってバリアをはろうとした時、勇奈が剣で英士の背中を貫いた。
「なにっ!?」
古貞と英士は驚き、勇奈を見た。
「勇奈!? なにをする!? 敵はあっちだ!!」
英士は動揺し古貞を指さした。しかし冷酷な表情を浮かべている彼女は剣を抜く気がない。
「バリアが役に立たないんじゃ、あんたに価値はない。あんたのエネルギーを全部もらうわ」
勇奈は古貞に勝つために英士を犠牲にしようとしている。
「このクソ女め!!」
ともに行動し信頼していた彼女に裏切られ、悔し涙を流して叫んだ。
「クソになるのは、あんたよ!!」
「ぐあああ!」
剣を抜くと英士は苦しみ傷を押さえて、うつ伏せに倒れた。
「私が古貞を殺すから安心して死ね!!」
彼女に罪悪感などなく少年に勝つことができるので狂喜している。
「ここまでひでえとは」
古貞に負けてこうなったというより最初からこんな女だった。少年はドン引きしていると勇奈は英士からエネルギーを出し、自分の体にまとう。英士の体はやせていき、勇奈の体は光っている。
エネルギーは黄金の鎧になっていき、彼女の体を包む。英士のエネルギーをすべて奪い、黄金の甲冑姿になった。
「いくぞ、古貞!!」
勇奈は斬りかかり、刀と剣がぶつかり合う。剣術では古貞の方が強く何度も刀をくらっているが、英士のバリア以上に頑丈な甲冑なのできいていない。
さらに剣にエネルギーをまとい、威力をあげて攻める。
「エネルギーを自由に使えるから英士以上の防御と強化した剣で闘うことができる!! もっと早くこうしていればよかった!!」
格段に強くなった自分を見て、はしゃぐ。
二対一でも古貞の方が有利で彼女の判断は間違いではなく、うまく転生劇薬で強化された力を使いこなしている。
「くらえ!!」
古貞が離れると剣にまとったエネルギーを放って攻撃する。くらってしまったが耐えられる威力だった。
「二人の力がひとつになったのは見事だが元々が弱いから話になんねえ」
強がりではなく本当に弱いので笑って挑発する。
「どこまで、この私を怒らせるの!!」
勇奈は激怒し剣を持っている腕部分の鎧をエネルギーにして剣に集めた。
「死ね、古貞!!」
「そんな攻撃じゃ、おれは殺せねえぞ!!」
彼女の怒りと本気の一撃に対抗して刀を振る。
「追風乗!!」
激突した瞬間、古貞は刀の峰から風を放って鋭く振り、剣と勇奈を斬った。
「なっ!?」
斬れた剣を見て驚き、甲冑がふたつに斬れて消滅した。彼女も斬れたが生きている。
「古貞ー!!」
残っているエネルギーを折れた剣に集めた。死が近づいているので動きが悪く、エネルギーも少なく最期の悪あがきだった。
勇奈が斬りかかろうとした時、腹部から拳が出てきた。古貞と勇奈は驚き、後ろを見ると、やせた英士が立っていた。
死んでいなかった彼はなんとか立ちあがり、渾身の一撃で勇奈の背中を貫いた。
「英士!! 死んでいなかったのか!?」
ゾンビのような英士に恐怖を感じ、腹部の痛みを忘れて青い顔になった。
「僕を殺しやがって!! 古貞以上に許せない!!」
少年への恨みや怒りは消えており、彼女の体に執念深くまとわりつく。
「離れろ!! このしぼりカス!!」
勇奈に英士をふりほどく力はもうなく、虚しい抵抗をしている。
「道連れだ!! 一緒に死ね!!」
死が近いので彼女を殺すことしか考えていない。
「嫌だー!!」
さっきまで闘っていた古貞に助けを求めるように手を伸ばす。もちろん少年は手を伸ばさなかった。英士は自分の命をエネルギーにして体を光らせる。
「勇奈ー!!」
「わあー!!」
英士と勇奈は同時に消滅した。
「最期まで醜いやつらだった。邪魔者がいなくなったから進める」
自爆して跡形もなく消滅したので少年は刀を鞘に入れた。嫌な邪魔者が消えた程度にしか思っていないので、さっさと移動する。
鮎美と離れてしまったが彼は進むしかない。
古貞が倒したというより自業自得で自滅。転生劇薬は飲む永遠のプロテイン。
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