第6話 特訓の成果
重月との闘い。今まで殴ってきた嫌なやつに力を見せる。
「今なんて言った?」
重月は笑っているが顔と声が怖い。
「聞こえなかったのか? お前をぶっ倒して黙らせてやる」
うんざりしながら言った。その瞬間、重月の怒りが爆発し、鬼のような形相になって殴りかかる。今までと違ってかわせるので、かわして受付から離れた。
「やっちゃえー!! 重月!!」
凪と女性達は応援する。
「殺していいよ、重月。うちの力で揉み消してやる」
秀羽もキレたようで過激なことを言った。
「お前は弱くて味方がいない!! おれにはたくさん味方がいて強い!! それがおれとお前の差だ!!」
イキっており、応援している取り巻きに応えるように攻める。古貞は拳をかわしながら秀羽達を見た。
「あんな味方はいらねえな」
バカにし笑った。
「こっち見た!! キモい!!」
凪と女性達は騒いだが、秀羽は冷や汗を流して黙っていた。
(本当にあいつは古貞なのか!? 動きの癖はそうだが、スピードが太っていた時とぜんぜん違う! しかも本気じゃない!)
頭がいい彼はこの基地の団員の動きなどをすべて覚えており、昔と違うことに気づき、不安になっている。
「おとなしくサンドバッグになれ!!」
まったく当たらないので重月はいらだち、周りはざわつく。
「重月!! いつまで遊んでんの!? 早くやっちゃってよ!!」
周りの影響で凪達の応援も弱まっていた。
(うるさい!! 最初は遊んでいたが、今は本気だ!! なのに、なんで当たらないんだ!!)
応援が耳障りになり、余計にいらだち焦っている。
「この程度の相手か。おれはこんなやつに殴られていたのか」
実力の差を感じ、重月を見下し挑発するようなことを言った。頭の血管が切れるような音がし、顔が真っ赤になった。
「ぶっ殺す!!」
怒って刀を抜き、斬りかかる。
「あいつ死んだわ!! これで終わりだ!!」
凪達ははしゃぐ。周りも古貞の最期と思い、目を覆う者達がいた。
「よける必要はねえな」
余裕の古貞は指二本で刀を挟んで止めた。
「なっ!?」
重月達と野次馬は驚いた。
「この!!」
いくら力をいれても刀は動かない。
「重月、終わりだ。今度はおれが殴る番だ」
二本の指をひねり、刀を折った。折れた瞬間、彼はマヌケな顔で驚き、怒りは消え、恐怖に変わった。
「このおれが!! 古貞ごときに!!」
拳に力をいれ、うろたえる重月を殴る。腹部にめりこみ、白目をむいて気絶し仰向けに倒れた。重月が倒れたところを見て周りは驚き、固まっていた。
体格差など関係なく刀なしで勝利した。
「刀が持てない体になったのは、おめえの方だな」
冷たく見下ろし受付へ向かう。凪は近づき、刀で重月をつっつく。死んではいないが反応しない。
「キモ虫に負けるなんてダッサ!!」
凪と女達は幻滅しているが、秀羽は冷や汗を流して戦慄していた。
「おれが勝ったから文句なし。稲子、刀をくれ」
「岡ちゃんが勝つのは分かってたよ。面白いものを見せてくれたから一番いい刀を持ってくるね」
楽しそうに笑い、刀を取りにいった。闘いが終わると野次馬はいなくなり、見ていなかった者達に話し重月の敗北は基地中に広がった。
◇
伊仙奇の畑。三体の巨大害虫が暴れていた。毒々しい派手な色の芋虫が進むと耕した土がメチャクチャになり、黄緑の芋虫は野菜や近くにある木を食べ、ボスのような毛虫はいすわるように休んでいる。
周りにはやられた団員達の死体が転がっていた。
「害虫どもめ!!」
刀をもらった古貞は急行し、今到着した。
「重月が動けないから秀羽達はこねえが特訓の成果を試すか」
他の団員達は遅れており、エースはこないので、ひとりで戦う。今まで害虫にやられていた少年は負ける気がせず刀を抜いた。
派手な色の芋虫がこちらに気づき、向かってくる。
「弾力スライムに比べたら!!」
太っていた時のようにはねとばされることなく斬って葬った。
「そのまま肥料になれ!!」
倒せなかった敵を簡単に倒したのでうっぷんは晴れ、次の敵に挑む。黄緑の芋虫は野菜を食べるのをやめ、頭から長くて黄色い角を出した。
「卑猥なものを出しやがって!!」
刀を構えると芋虫は頭を振り、角を鞭のように伸ばして攻撃してきた。
「ひでえ臭いだぜ!!」
かわしているが、角から甘ったるい植物のような臭いがするので顔をしかめた。この攻撃もくらったことがあり知っていた。
「この攻撃をくらって臭いって言われたな!!」
嫌なことを思いだし、怒りをぶつけるように刀を振り、角を斬った。芋虫は痛がり、頭を振り乱す。古貞は一気に近づいて斬り殺した。
「あいつで最後だ!!」
最後の敵である毛虫を睨む。毛虫は動き、少年に向かっていく。鋭い針が全身にあり二体のように簡単には斬れないので、かわして離れる。
「毛虫とは闘ったことがねえな!!」
太っていた頃は強敵との闘いを避けていたので毛虫のデータが少なく、弱い毒がある針を警戒するしかなかった。
毛虫は止まり、無数の針を古貞に向けて狙いをつける。そして無数の針を放った。
「こんなことができるのか!?」
驚きつつ刀で弾いていく。
「これにやられたのか!?」
死体の中には針が刺さっているものがあり、体当たりでやられたものだと思っていたが間違いだった。針は無数にあり、いくらでも飛ばすことができるので防ぎきれず肩に刺さってしまった。
特訓のおかげであまり痛みがなく出血も少なく、かわしていく。
「毒でかゆいなあ!!」
弱い毒でかゆくなってきたので針を抜いて捨てた。毒で死ぬのではなく針が心臓などに刺さって死ぬので肩に刺さった古貞には余裕がある。
「そっちが遠距離攻撃ならこっちもだ!! なっから風!!」
彼は笑い、刀から冷たい風を放った。毛虫の体は少し凍りつき、針を飛ばさなくなり、動きが鈍くなった。
「体が凍るほどの冷たい風だ。そんな針みてえな毛じゃ寒さは凌げねえだろ」
警戒しながら、ゆっくり近づく。毛虫は抵抗できない状態で古貞は刀を突き刺して倒した。死んだ毛虫から刀を抜いて鞘に入れた。
今、到着した団員達は害虫達の死体と古貞を見て驚いている。
「この傷を治そう。治布!!」
浅い傷でも放置するのはよくないので五本の指から銀色の糸を出し、瞬時に長い銀色の布を作り、肩に巻く。回復効果があり、傷は治っていく。しかし毒は消えないので、かゆいのは我慢する。
(これはまずい!)
団員達の中に秀羽がおり、見つからないように古貞を見て冷や汗を流していた。
(ひとりで害虫を駆除できなかったやつが重月でも難しい毛虫を倒すなんて!)
彼の強さに恐怖を感じており、逃げるように基地へ戻る。秀羽だけでなくバカにしていた者達も動揺していた。
「昔のおれとは違うな」
布を取り、傷が消えた肩を見て自分の強さを確認した。
「すごいわ! 古貞君!」
団員服姿で白いブーツを履いたさゆりが現れ、害虫の死体を見て喜んでいた。
「さゆりさん! きたのですか?」
くることは分かっていたが、少年は少し驚いた。
「少し休んだらいくって言ったし、私には強くなったかどうか確かめる責任があるわ。特訓をして終わりじゃないよ。君の活躍を見てから朱鷺世へいくわ」
責任感が強く、見捨てないタイプで彼の活躍を楽しんでいる。
「そうですか」
強くしてくれた恩人で基地に味方がいないので心強かった。特訓が終わっても彼女との関係は少し続く。
「さあ、ここから君の快進撃が始まるわ」
重月を気絶させ、三体の害虫をひとりで倒したので十分快進撃になっている。戻った団員達が古貞の強さを基地中に広げ、バカにしていた連中は動揺しており、伊仙奇の銘仙蚕と呼ばれるようになった。
重月の次は凪。そして秀羽はよからぬことを考える。
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