第20話 部屋なし敵なし
基地に帰ってきた古貞に問題発生。
◇
高山奇第三基地。帰ってきた古貞と鮎美は指揮官への報告を終えて廊下を歩いていた。
「期待はしていなかったが解決したのに、なにもなしか」
指揮官はがんばって働いた二人に褒美も労いの言葉もなかった。出世や褒美のためにがんばっていないので、あまり気にしていない。
「疲れたから私、帰るわ」
盾森で十分仕事をしたので鮎美はこのまま帰ろうとしている。
「そうだな。じゃあな」
鮎美は帰り、古貞は自分の部屋へ向かう。
「帰ってきたぜ」
自分の部屋に着き、懐かしさを感じた。
「早く部屋で休もう」
十分仕事をしたので部屋に入ろうと自動ドアに近づくが開かなかった。
「おかしいな。いつもなら開くのに。故障か?」
古貞は手で自動ドアを開けようとする。
「やめろ。そこはもうお前の部屋じゃない」
嫌な声が聞こえたので振り向くと英士と勇奈がいた。憎しみがこもった目をしており笑っていた。
「お前ら、もう退院したのか?」
二人を見て嫌な表情より驚きの表情を浮かべた。入院していたとは思えないほどの力強さがあった。
「昨日、退院したんだよ」
「私達はエリートだからね。治るのも早いのよ」
勇奈は退院したことを自慢する。古貞は短期間で治るのはおかしいと思っているが、今は部屋のことが気になっていた。
「それよりどういう意味だ? ここがおれの部屋じゃないって」
基地に帰ってきたばかりの少年はなにも知らないので堂々と聞く。
「いいだろう。教えてやる」
英士は偉そうに説明する。
「お前が盾森にいる時、近くの基地から人材がきたんだよ」
「人材だと?」
盾森で仕事中だったので人材がきたことなど知らなかった。
「変質者の襲撃でかなりの団員を失ったから細川指揮官が近くの基地に応援を頼んだんだよ。第二と第四基地の団員達がここで働いてる」
話を聞いて少年は納得しつつある。
「なるほど。でそれと部屋になんの関係があるんだ?」
「優秀な団員が多くきたので無能な連中を追いだして部屋を提供することになった」
急だったので人材を受け入れる準備が不完全だった。
「それって、おれがいないのをいいことに勝手に提供したってことじゃねえか!」
そこだけは納得できず古貞は怒った。盾森にいて相談も連絡もなかったのでどうすることもできなかった。
(あのオヤジ!)
報告の時、指揮官はなにも言わず知らん顔だった。おそらく相談と連絡が面倒で優秀な団員を優先したのだろう。
がんばって仕事をした者にこのような仕打ちをしたので少年は拳を握り、歯をくいしばった。
「あんたのその悔しがる表情が見られてうれしいわ。いい気味」
「もうその部屋には人がいて他の部屋には複数いるから、お前が入る余裕はないぞ」
英士と勇奈は悪い笑みを浮かべた。前より醜く悪人面だった。
「だったら私物をとって出ていくよ」
もう決まったことでなにを言っても無駄なので部屋を出ることにした。
「その必要はない。お前の私物なら庭にある」
「そうか」
古貞はドアから離れ、庭へ向かう。二人は悪い笑みを浮かべたまま少年と同じ方向を歩く。
◇
高山奇第三基地の庭。鮎美と特訓をした場所に私物があった。しかし燃やされて灰になっていた。嫌がらせで燃やしたのだろう。
「ここまでするか?」
私物は少なく安いので惜しくはないが、燃やされたことに怒りを感じていた。
「あっただろ、お前の私物?」
「ゴミみたいでよく燃えたわ」
英士と勇奈が笑いながらやってきた。
「おめえらがやったんだよな?」
怒りを抑えながら二人を睨む。
「そうだよ! やったからなんだ?」
「私物よりあんたを燃やしたかったわ!」
二人は自慢げに話した。悪いと思っておらず楽しんでやった感じだった。
「なんでこんなことをしたんだよ?」
理由は大体分かっているが聞くことにした。
「お前が僕達を倒したからだ! お前に負けたせいで友達は離れ、格下どもにバカにされ、変質者にやられ、人生が狂ってしまった!! なにもかも、お前のせいだ!! だから燃やしたんだよ!!」
英士は怒りで顔を歪ませて喚き散らす。ただの逆恨みで古貞は怒りを通りこして呆れてしまった。
「庶民の分際で私達を倒したあんたの存在が気に入らないのよ!! 私達貴族は庶民になにをしても許されるのよ!!」
勇奈は汚物を見るような目で睨み舌を出した。
特権でこり固まった二人はやられたことを恨んでおり、古貞になにをしてもいいと思っている。
「分かった。もういい。また倒してやる」
謝っても許す気はなく少年は刀に手を伸ばす。
「盾森の任務を遂行したからって調子に乗るなよ!! 僕達は前より強くなったんだ!!」
「そうよ!! 今度は私達があんたを倒すわ!!」
古貞の態度が癇に障り、二人は剣を抜いて構えた。
(たしかにこいつら、前より強くなってる。なんでだ?)
怒りの中で冷静な分析をしている。エネルギーと筋力の内面が強くなっていた。
(まあ、おれも前よりつええから問題ねえ)
盾森での経験と新しい武器で彼は格段に強くなっており、負ける気がしなかった。古貞が風鼬を抜いて構えると英士達は余裕の笑みを浮かべた。
「なんだ、その刀は? 前の刀より短くて弱そうだな!」
「ほんと! 安くて弱そうな刀! あんたにピッタリだわ!」
自分達の強さにおぼれていて妖刀に気づいていなかった。
「また入院させるわけにはいかねえから手加減してやる。感謝しな」
人材不足なので私物を燃やした罰を与え、医務室送りにするだけだった。
「その余裕の態度が気にいらない!! 死ねえ!!」
「あんたを殺したら鮎美も殺してやるわ!!」
ぶちぎれた二人は斬りかかる。怒りで冷静な判断ができていない状態で負ける気がしない。
古貞は音が聞こえないほどの速さで妖刀を振って二人を斬った。斬られた二人は無傷だが白目をむいた。
「峰打ちじゃねえけど峰打ちだ」
刀を鞘に入れると英士達は倒れた。彼の腕と風鼬の性能による神業で傷をつけず殺さずに斬って気絶させていた。
「このままでいいや」
気がすんだ古貞は二人を放置して移動する。私物を燃やした相手を助ける義理などない。だれかが見つけて運ぶだろう。
(すごい刀だ。振った感じがないほど軽くて斬ったことすら分からなかった)
妖刀の性能が分かり、二人に絡まれたのは無駄ではなかった。
「部屋を失っちまったから新しい所を見つけねえと。まったく休む暇がないぜ」
斬った相手のことを忘れ、少年は外へ出る。指揮官に言っても無駄で他の基地連中がいる部屋を奪う気にはなれなかったので探すことにした。
悪党達と同じように少年は部屋を失ってしまった。
嫌なやつらを妖刀で峰打ち。部屋を失ったが、元々強引に奪ったもの。
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