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第5話 繭の少年

 ヒロインとの山小屋生活終了。彼にとって大きな一歩となる。

 ◇


 それから特訓の毎日。朝と夜をくり返し、四季を迎えたので、この空間で一年を過ごしたような感じだった。そして雪が溶け、寒い冬が終わり春になった。

 山小屋の近くに古貞がいる。しかし、やせていて別人のような姿になっていた。贅肉がなく柔らかい体つきだが、前に比べると引き締まっている。不潔な感じがなくなり、中性的な顔で見た目がよくなった。

 そんな彼に灰色のスライム達が襲いかかる。少年は刀を抜き、素早い動きでスライムを斬っていく。折れており、全体がボロボロの刀とは思えない攻撃で斬られた相手は消滅し、すべていなくなった。


「お見事」


 レオタード姿のさゆりは拍手をした。


「君は本当に強くなったね。あれだけのスライムを難なく倒せるようになって私はうれしいわ」


 強くなった少年を見て喜び、感極まって涙を浮かべる。


「いろいろな特訓を刀がボロボロになるまでやってきましたからね」


 ボロ刀を見て鞘に入れ、今までの特訓を振り返る。


「春は素振りと薪割り、スライムとの闘いと山登り」

「ボルダリングみたいで足腰が強くなって、あの頃からやせ始めたね」


 さゆりは特訓をがんばる古貞の姿を鮮明に覚えている。


「夏は川へいって滝にうたれ、川の水を斬る特訓をやりました」

「暑かったから涼しかったね。あの頃、今の古貞君の体型になったね」


 夏でも冷たかった水を思いだし少年は震えた。


「秋は煮えたぎる温泉に入って座禅とさゆりさんとのスパーリング」


 布団の上とは違う、この空間全体を使った実戦形式のスパーリングだった。


「温泉、気持ちよかったね。最初は負けてばかりだったけど私を超えていったわ」


 自分より強い相手と何十回も闘ったことで彼はさゆりに勝つほど強くなった。


「冬は雪の上で座禅」

「雪が降ってる時にやったら雪だるまになっちゃったね」


 その時のことが面白く彼女は笑った。


「それだけの特訓をやったので昔とは比べものにならないほど強くなり、体型も変わりました」


 古貞は自分の体を見て、拳を握る。今まで感じたことがない力があふれた。


「さゆりさんのおかげで特訓はそんなに辛くはなかったけど唐揚げがない野菜ばかりの食事は地獄でした」


 厳しい特訓ばかりだったが、彼女が優しく励まし、丁寧に教えてくれたのでこなすことができ苦ではなかった。


「その地獄を乗り越え、贅肉の枷から解放され、太りにくい体に生まれ変わった君は、もうバカにされないよ」


 指導をしてくれた彼女に言われると自信が湧いてくる。


「はい、本当にありがとうございます」


 さゆりに感謝し頭を下げた。


 ◇


 その日の夜。最後の特訓と夕食を終え、古貞とさゆりは一緒に風呂に入り、湯につかっていた。太っていた頃と違い、浴槽に余裕があり、あまり密着していない。


「古貞君とお風呂に入れるのは、これで最後か。寂しくなるわ」


 少年に抱きつき、密着する。


「おれも少し寂しいですが、おれにばかり構うのはよくないですよ。さゆりさんを必要とする人はたくさんいます」


 古貞は少し照れていたが、一緒に入ることが多かったので耐性ができ、さゆりの扱い方がうまくなっており、精神面も成長していた。


「そうだね。君という立派な後継者を育てることができて私はうれしいわ」


 慈愛に満ちた表情を浮かべ、自分が育てた少年に頬ずりをする。


「なぜ、さゆりさんはこんなにもよくしてくれるのですか?」


 彼女の性格なら、だれにでも同じように接しているだろう。今しか聞くチャンスがないと思い、聞いてみる。


「理由はないかな。理由がなきゃ、こういうことをしちゃいけないの?」

「そんなことは」


 首を傾げて微笑むさゆりを見て動揺する。


「まあそうだね。私が善人だからかな? 困ってる人を放っておくことができないのよ」

「なるほど」


 古貞は納得した。


(まあ君の場合それだけじゃないけど)


 赤ん坊を抱く少女の頃の自分を思いだし、少年を見て笑い、両目を閉じて寄りかかる。二人は最後の入浴を満喫した。


 ◇


 その後、パジャマ姿の古貞と浴衣姿のさゆりは布団の上で正座をしていた。


「これが最後のスパーリングよ」

「はい」


 二人は真剣な表情で礼をし、立ちあがった。やせても背は伸びていないので少年の方が低く、やせたことで体格差がある。


(今日も勝つぜ!!)


 体格差など関係なく古貞は勝つ気満々であり構えた。少年の姿を見て喜び、さゆりも構え、スパーリングは始まった。

 お互い布団から出ないように最小限の細かい動きで攻撃をかわし、ローキックやパンチで攻めている。

 らちがあかないので、さゆりはジャンプをしようと足に力をいれるが、古貞は抱きついて跳べないようにし、そのまま押し倒し、彼女の背中を布団につけた。覆いかぶさるようにのしかかり、動きも封じている。


「私の負けだわ」


 ルール上だけでなく彼女の動きを読み、対応したので完全な敗北だった。


「最後のスパーリングは負けて花をもたせようと思ったけど本気でやらないとダメなほど君は強くなったね」


 負けた悔しさはなく少年の強さを喜ぶ。スパーリングでさゆりに勝つことが多く、最後も本気の彼女に勝利し、気持ちのいい思い出になった。


「はい。すべてさゆりさんのおかげです。ありがとうございます」


 彼女から離れて正座をした。


「明日の朝になったら元の世界に帰してあげる。もう寝た方がいいわ」


 さゆりは立ちあがって布団からどいた。


「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」


 古貞は横になり目を閉じる。今日は一緒に寝ずに部屋を出た。


 ◇


 古貞の部屋。


「ふっ!! うっ!! ぎゅううう!!」


 さゆりは顔を赤くし白目をむきながら苦しんでいた。お腹に穴があいており、古貞が出ようとしている。


「もう少しで出るう!!」


 力むと少年の体がどんどん出てくる。全部出ると穴は消え、さゆりは真っ赤な顔で大量の汗を流しており、倒れるように座布団に座った。


「お、おかわり、古貞君」


 苦しそうな表情を笑顔に変えた。


「ただいま戻りました、さゆりさん」


 太っていた少年は別人のようにやせ、強くなって戻ってきた。


「ぜんぜん時間が経っていないんですね」


 時計や窓の外を見ると彼女に吸いこまれた時と同じだった。


「そうだよ。一時間どころか一秒も経ってないよ。それでこれからどうするの?」

「基地へいきます」


 基地へいくのを嫌がり、遠隔で仕事をしていた少年とは思えないことを言った。


「折れた刀を交換しないと」


 鞘から少し抜き、折れた刀を見せた。


「それではいってきます」

「いってらっしゃい。少し休んだら私もいくわ」


 さゆりは手を振り、古貞は部屋を出て階段を下り、玄関へ向かう。


「古貞、どこへいくの?」


 母親は別人のようにやせた息子に普段と変わらない感じで声をかけた。


「基地だよ。母さん、おれがいきなりやせたことに驚かねえのか?」

「どんな姿になっても、あんたは私の息子。驚かないわよ」


 細かいことは気にせずに微笑む。


「そうか。それじゃあいってくるよ」


 古貞は照れて玄関へ向かい、ブーツを履いて外へ出た。体と心が軽く、まっすぐ基地へ向かう。


 ◇


 伊仙奇第四基地。古貞は基地へ入り、受付に向かっている。見た目が違うので、だれも彼だと気づいていない。

 だれもが振り向く美貌ではない中性的で冴えない見た目のその他大勢になったようなものなので嫌なグループが近くにいても絡んでこない。


「刀が折れたので交換してくれ」


 受付の席には稲子が座っていた。


「あれ? 岡ちゃん。基地にきたの?」


 稲子は古貞だと分かっており普段通りだが、周りは驚いた。秀羽達も驚いており、先ほどまで空気だった少年に視線が集まる。


「よくおれだって分かったな」

「声で大体分かったし人を見る目があるのよ」


 自信満々に自分の目を指さす。


「でも短時間でこんなにやせるなんて。心の中で少し驚いていたわ。それで刀の交換?」

「ああ。これじゃあ使えねえから交換してくれ」


 鞘から折れた刀を抜いて見せる。


「新品同様だったのに、なにがあったの?」

「ちょっといろいろあってな。だからこんなにやせたんだよ。早く刀をくれよ」


 さゆりとの特訓は話さず刀を鞘に入れて彼女の前に置いた。


「はい、すぐに」


 稲子が笑顔で刀を取ろうとした時、秀羽のグループが近づいてきた。


「お前、本当に古貞か?」


 重月は疑うように睨んでいる。


「やせているが声と身長、顔の感じ。間違いないな」


 秀羽は眼鏡を光らせて古貞の顔と体をすみずみまで見ていた。


「キモデブはやせてもキモいのよ!」


 ダイエットに成功した少年が気に入らない凪は彼の体を見て悔しがる。古貞と分かると取り巻きは見下す表情になった。野次馬ができ、巻きこまれないように逃げる者もいた。


「なんでそんなにやせたのかは分からないが、お前なのは変わらない。なにしにきたんだよ?」


 たくましい胸板を張って脅す。それを見て、取り巻きと野次馬は笑い、稲子も面白がっている。


「刀が折れたから交換しにきたんだよ」


 いつものように決して恐れずに堂々と向き合う。


「たしかに少し見たぜ。けど芋虫を倒せないようなお前に刀は必要ないだろ。これからは素手で戦えよ。その方がお似合いだぜ」


 重月はバカにし邪悪な笑みを浮かべた。


「おめえが決めることじゃねえだろ。おれは刀がほしいんだよ。ねえと仕事になんねえんだよ」


 時間の無駄なので稲子の方を向く。彼はひきつった笑みを浮かべ、頭の血管が浮き出ている。


「そうだね。武器の交換は本人と私が決めること。そして、この刀は交換しないとダメだね

 古貞の味方というより仕事としての判断なので少女は刀を持つ。


「そんなやつに刀はもったいない! おれが刀を持てない体にしてやるから必要ない!」


 ムチャクチャなことを言ったのに、だれも彼を止めようとせず取り巻きは面白がっていた。


「うるせえな。もう、お前をぶっ倒して黙らせてやる」


 さすがの古貞も怒り、重月の方を向いた。とんでもないことを言ったので周りは理解するのに時間がかかり、固まってしまった。




 




 古貞、大暴れ。新たに得た能力と強さを披露。

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