第15話 滑稽な罠
茶釜屋敷のふざけているようで恐ろしい罠。
地面に正方形の浅いプールができて落ちてしまった。
「なんだ!? このネバネバは!?」
黄みがかった白い液体が入っており、少年の体にまとわりつく。多少粘り気があるも液体なので移動でき、プールから出た。
「毒でもなんでもねえな。なんの罠だ? 嫌がらせか?」
体についている液体を見る。害がなく動きにも影響はないが、べたついていて気持ちが悪い。
「とにかく進もう」
歩こうとした時、地面に大きな穴ができ、落ちてしまった。
「また落ちるのか!!」
浅いプールと違い、今度は深い穴でまっすぐ落ちていく。そして下には巨大な天ぷら鍋があり油が煮えたぎっていた。
「やべえ!! なっから風!!」
刀から冷たい風を放ち、煮えたぎる油の表面を少し凍らせて着地し跳んで鍋から出た。その後、表面は一瞬で溶け、再び熱くなる。
「このネバネバは天ぷら粉か? 危うく天ぷらになるところだったぜ」
べたつく液体と鍋を見た。古貞は侵入者を天ぷらにする罠を突破した。
「ここは地下室か?」
周りを見ると洞窟のような石造りの広い部屋だった。道がひとつしかないので、そこを進む。
「早くこのネバネバを洗い流したいぜ」
不快に思いながら歩いていると上に穴ができ、少年を吸いこむ。
「うお!?」
驚いてふんばるが、吸いこまれて体が浮いた。
「下の次は上か!!」
穴に入り、上も下も分からないほど移動し、どこかの天井に穴があき落ちた。
「うわっ!? あつ!!」
黄金の大浴場でお湯に落ち、おぼれそうになった。あまり深くなく足がついたので周りを見る。
「ここは風呂か!?」
すべて偽物の金で艶めかしく光り輝き、黄金の狸像があり口からきれいなお湯が出ていた。
「服のままだから変な感じだ」
白い液体が落ちてきれいになったが、服が濡れていて気持ちが悪い。
「さっさと出よう」
湯から出ようとした時、湯気が濃くなり、生き物のように動き、少年にまとわりつく。
「なんだ、この湯気は!?」
周りが見えなくなり、手で払う。しかし湯気は消えず水着姿の美しい女性達が現れた。
「鮎美につつじ!?」
女性達の中に鮎美とつつじがいたので驚いた。他の女性と同じ過激な水着姿で妖艶な笑みを浮かべていた。
女性達は古貞にまとわりつき、胸などを押しつけて動きを封じる。
「な、なんだか気持ちいいな」
温かくて柔らかい感触が心地よく、とろけて抵抗できない。脱力していき、足がついていても沈んでいく。女達は嗜虐的な笑みを浮かべ、少年を沈めようとしている。
「このままじゃやべえ!」
おぼれてしまうことに気づき、なんとか腕を動かす。
「扇空波!!」
偽者なのは分かっていたので手で勢いよくあおぎ、風を起こした。女性達はふきとび、湯気となって散っていく。体が動くようになり立ちあがった。
彼女達は消え、湯気も薄くなった。
「湯気の幻か」
過激な水着姿の女性達は湯気が作りだした幻だった。この罠は幻の女性で侵入者を風呂に沈めるもの。侵入者の好みの女性を見せ、幻とは思えないほどの色気で男が抗うには難しい。
「風呂で水着の美女達の色仕掛けでおぼれる。男が喜ぶ罠だな」
罠だが、いい思いができたので笑い、湯から出た。
「濡れてるけど、きれいになったし動いていれば乾くだろ」
古貞は濡れたまま歩く。少しのぼせており、ふらついていた。
「それにしても鮎美とつつじの幻を見るとは」
照れながら歩き、大浴場を出て、廊下を濡らしながら移動する。風呂で見た幻はなにか意味がありそうだった。
◇
その頃、銅欲と魔王コウモリは台所で食事をしながらテレビで古貞を見ていた。料理はうどんと寿司でカラクリ人形の使用人達が作っている。
ネタは金魚で切り身ではなく、そのままシャリの上にのっていた。
「天ぷらにならず風呂でおぼれないとは、なんてやつだ」
銅欲はいらだち、ウナギの出汁をとったつゆに冷たいうどんを入れてすすった。
「他の罠も突破して進んでいますね」
テレビには罠を突破している古貞が映っていた。傷ついても回復し罠を壊しながら進んでいる。
「このままだと庭に出ますね。どうやら、おれの出番だな」
食事を終えた魔王コウモリは立ちあがった。
「いってこい、魔王コウモリ。わしは食べ終わってからいく」
銅欲は箸で寿司をとり、醤油をつけて食べた。食事が終わるまで動かない感じでうどんや寿司を食べて大きなお腹をさらに大きくしていく。
(醜い狸オヤジが)
食べる姿が汚い銅欲に呆れ、ゴミを見るような目で睨んだ。狸オヤジに期待していないので、ひとりで闘う方が気楽だった。
(岡井 古貞!! 無頼党をつぶしたお前を殺してやる!!)
組織をつぶされた恨みもあり、少年の命を奪うために無頼党のリーダーが動きだす。
◇
魔王コウモリが移動している時、数々の罠を突破した古貞は外に出ていた。
「つつじはどこにいるんだ!?」
つつじを捜しながら進み庭の方へ向かう。
「つつじ!!」
彼女を見つけたが巨大な鉄板の上で大の字に拘束されており、あまり無事ではなかった。両手両足を金属の拘束具が固定しており彼女の力では外すことができず燃えて外れることもない。
「古貞!!」
少女は声に反応し、なんとか首を動かして少年の方を向いた。
「助けにきたぜ!!」
つつじを助けるために近づく。
「きちゃダメ!! 敵はあんたを狙ってるわ!!」
少年を止め、自力で脱出しようと体をくねらせる。しかし拘束具はびくともしない。
「敵がおれの命を狙ってようが関係ねえ!! ぜってえ助ける!!」
自分の命を顧みずに助けようとする少年の姿と精神に心を撃ちぬかれ、体が熱くなっていく。その瞬間、鉄板の下に火がついた。
「火が!?」
火に驚き、古貞は止まった。まだ熱くなっていないが、少女はおびえている。
「彼女を助けるのは不可能だ!!」
「魔王コウモリ!!」
マントを広げた魔王コウモリが現れた。
「なんなんだ!? あのもんじゃ焼きみてえなのは!?」
敵より鉄板の方が気になっていた。
「銅欲様が考えた人間焼き肉だ。うまそうだろ?」
魔王コウモリはつつじを見て匂いを嗅いだ。
「あっ! あー!!」
鉄板が熱くなってきたので両腕両脚と背中が焼けていき、体をくねらせて悶えている。
「カルビは好きだが、つつじの焼き肉は遠慮するぜ!!」
(古貞になら食べられたいわ!)
熱さに耐え、少し気持ちよくなっており余裕があった。
「なっから風!!」
少年は刀から冷たい風を放った。風は火を消していき、鉄板を冷やす。
「ふにゃう!」
ちょうどいい温度になり、つつじは安心した。
「まあ、お前を殺した後、彼女を殺せばいい。覚悟しろ!!」
つつじより古貞を狙う。
「おれは死なねえし、つつじも死なせねえ!!」
古貞は刀を構え、魔王コウモリはマントを広げた。助かったつつじは闘いを見ることしかできない。
つつじの処刑を止めたが、危機は去っていない。
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