第9話 暗闇の死神
無頼党第二の刺客襲撃回。
◇
無頼党が大きく動いている頃、準備を終えた盾森団がアジトへ向かっている。警察団員達が装甲車を囲みながら移動しており、古貞と鮎美もいた。
安全のためにつつじは装甲車に乗っており厳重だった。クラウンは先頭で盾森団の案内をしており、逃げたらいつでも攻撃できるようになっていた。
「クラウン!! どうやってアジトへいくんだ!?」
別空間にあるアジトへどうやっていくのか気になり、古貞は大声で聞く。
「安心しろ! つぶれたゲームセンターを通るようなことはしない! 安全にアジトへ着くよ!」
飄々とした態度で話して歩く。知っているのは彼だけなのでついていくしかない。
(アジトについたら、やつは用済みだな。無頼党をつぶすのが最優先だけど、一緒につぶすか)
少年はクラウンを殺すことも考えていた。ピエロもそれくらい分かっており、案内を終えたらすぐ逃げるだろう。
確実にアジトへ向かっているが、意気揚々と歩いていたクラウンは止まり、後ろの盾森団を止めた。
「どうしたんだ?」
急に止まったので古貞は首を傾げた。
「そう簡単にはいかせてくれないか」
笑いながら冷や汗をかく。黒カマキリが盾森団を通さないように立っていた。
「あれは敵だな!」
敵と判断し少年は刀を抜き、警察団員達も警戒して銃を構えた。
黒カマキリは長い赤マフラーをひるがえして突っ込む。警察団員達は撃ちまくるが、素早い動きで銃弾をかわしながら進んでいる。
「これはやばい!!」
クラウンは姿を消して逃げた。
(クラウンよりつつじを殺さないと)
つつじを殺すのが目的なので消えた相手を無視して進む。そして鎌を使わず小さくて細かい動きで殴って蹴り、警察団員をたたきのめしていく。
急所をつき、致命傷になるほどの威力で骨は折れ、死んでいる。邪魔な団員達だけをけちらして突き進んでおり止まらない。
「いかせないわよ!!」
鮎美が殴りかかってくるが、拳をかわして進む。
「追風乗!!」
古貞は刀の峰から風を放って鋭く振る。しかし黒カマキリはかわし、まっすぐ装甲車へ向かう。
「これをかわすとは!!」
最も速い攻撃をかわされたのでショックを受けた。
「つつじ覚悟!!」
黒カマキリは瞬時に鎌を出して装甲車を斬った。切断されて中が見え、つつじがいた。彼女を殺そうとするが鎌を止めて、よく見る。すると、つつじの姿が消えた。
「立体映像!?」
装甲車につつじはおらず罠だと分かった。
この罠はつつじと古貞が考えてしかけたもの。敵が襲ってくる可能性があり、分かりやすい装甲車にいるほどバカではない。
(虹カメレオンは装甲車につつじがいると言っていたが罠か!)
虹カメレオンの情報は間違っていない。基地を出発する時、つつじは装甲車に乗り、途中で降りて罠をしかけたので彼女が知らないのは当然。
(ここにつつじはいない。どこか安全な場所にいるな)
黒カマキリは瞬時に鎌を消し、つつじを捜すために逃げる。護衛から離れすぎると危険なので遠くにはいないはず。
「逃がすか!!」
強敵が逃げてくれるので警察団員達は動かず古貞と鮎美が同時に攻撃する。
「邪魔だ」
刀と拳をかわして逃げ、盾森団から離れて姿を消した。逃げることに専念していたので二人の相手をしなかった。
「逃げられた!!」
古貞はいらだち、刀を鞘に入れた。敵は罠にかかったが、逃げられてしまい、かなりの警察団員を失ってしまった。
「なんで、やつを止めねえんだよ!?」
見逃すように動かなかった警察団員達を怒鳴る。団員達を代表して無傷の隊長が前に出る。
「我々の任務は無頼党のアジトを攻撃すること。あんな強敵と戦ったら全滅して任務を達成することができなくなるだろう」
もっともらしいことを言った。つつじがいないので士気などが低く、強敵と戦う気がなかった。つつじ側についていても彼女が負ければ兄につくしかないので、あまり命をかけない。
「敵がいなくなったのだからいいだろ。早くつつじ様と合流しないと」
強敵がいなくなって隊長は安心しており、偉そうに言った。
「そうだった!! 黒カマキリを逃がしちまったから、つつじがあぶねえ!!」
彼女の心配をし、古貞は走る。
「私もいくわ!!」
鮎美も走り、少年についていく。二人はつつじがいる場所を知っており、まっすぐ向かう。
「隊長。我々はどうしましょう?」
古貞達がいないので団員は隊長に聞く。
「つつじ様が戻るまで、ここで待機だ。戻らなかったらアジトへの攻撃はやめだ」
「はい」
隊長に従い、団員達は死体を片づける。黒カマキリの襲撃で盾森団は基地から出発した時に比べ、ボロボロになってしまった。
(黒カマキリとの戦闘を見ても意味がないから、ここにいよう)
クラウンは姿を消したまま座ってくつろいでいた。
(つつじを守れるどうか。早く戻ってこい、古貞)
悪い笑みを浮かべて古貞達の無事を祈る。少年達の心配というより自分の楽しみがなくなることを心配している。
◇
黒カマキリの襲撃後。つつじは盾森団から少し離れた安全な場所にいた。宝石をちりばめたシュシュで背中に届くほどの長い銀髪をシニヨンにしており、黄色のレオタード姿で裸足と動きやすい格好だった。
「盾森団がくるまで待てと言ってたけど心細くて退屈だわ」
彼女しかおらず敵に見つからないように雑草がおいしげっている場所でしゃがんでいる。
「黒カマキリ、罠にかかったかしら」
連絡手段が式神端末しかなく、こちらからかけることができないので状況が分からない。
「罠にはかかったが、ここにいるぞ」
声に驚き、彼女は立ちあがった。そこには黒カマキリがいた。
「見つけたぞ、つつじ」
素早い動きで走りまわって、ようやく見つけたので彼は喜んだ。
「逃げるが勝ち!!」
勝てないと判断し逃げる。古貞達がくるまで逃げまわって時間を稼ごうとするが、敵はそれを許さない。
「逃がさん!! 殺死闇!!」
突然、闇が出てきて彼女の体にまとわりつく。
「なにこれ!?」
必死にもがいても逃げることができず闇に包まれて、つつじの体は消えていく。
「これでつつじは終わりだ」
彼女とともに黒カマキリも消えていき、二人の姿は完全に消えた。
「つつじー!!」
古貞と鮎美がきたが遅かった。
「いねえ!!」
どこにもいないので古貞はつつじを捜す。
◇
暗闇に包まれた場所。なにもなく、どこまでも広がる暗闇。
「ここはどこ!?」
つつじは見えにくい恐怖と冷たい恐怖を感じて周りを見た。
「ここは殺死闇だ」
突然、背後に黒カマキリが現れたので慌てて振り向いた。
「殺死闇?」
なにも知らない彼女に冥土のみやげとして説明する。
「殺し屋が使える能力でターゲットを閉じこめて、ゆっくり殺す空間だ。ここには、おれ達しかおらず脱出も味方が助けにくることもできない」
仕事の邪魔をされない別空間に拉致されてしまった。孤立無援になってしまったので虚勢をはって相手を威嚇する。
「というわけで覚悟しろ、つつじ!!」
さっさと殺そうと襲いかかる。
「あんたが死ね!!」
つつじは黒カマキリの股間を蹴った。股間をつぶすキックだが、彼は痛がるどころか笑っていた。
「お前がそういう攻撃をするのは分かっていたから万全だ」
彼女のことを調べており、股間に防具をしこんでいた。
「それなら!!」
彼女は敵から離れ、人差し指を向けて指先から金色に輝く光線を放った。かわしたが下半身に命中し金になって固まった。
「動けない!!」
下半身が金になった黒カマキリは移動できない。
「今のうちに!!」
つつじは逃げる。しかし、ここは別空間で逃げても無駄だった。
「逃がさないぞ!!」
上半身は動き、瞬時に鎌を出し、柄尻から小さな鉄球つきのワイヤーを出した。そのワイヤーを振りまわして、逃げるつつじに狙いをつける。
ワイヤーを投げると鉄球は飛び、彼女の両脚に巻きついた。
「あっ!!」
つつじはうつ伏せに倒れ、両脚を動かすことができないので立てない。
「動ける!」
彼女が倒れたことで能力が解け、下半身が元に戻り動けるようになった。そして、ゆっくり獲物に近づく。
「うっ! くっ!」
這って逃げようとするも黒カマキリが踏んで押さえた。踏まれて痛みと屈辱がある。
「ここまでのようね」
毅然とした態度で覚悟を決める。
「お命ちょうだい!!」
敵が鎌を振りあげた時、つつじの小指に白い糸が巻きついた。
「なに、この糸!?」
彼女は驚いて糸を見た。白い糸は赤くなっていき、暗闇に大きな穴があいた。光が入り、暗闇の空間は少し明るくなった。
そして穴から、ひとりの少年が出てきた。人差し指に赤い糸がある古貞でつつじの小指とつながっていた。
荒っぽい殺し屋 黒カマキリ。鉄球つきワイヤーの鎌と相手を拉致する逃げ場のない空間。
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