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第4話 山小屋合宿

 山小屋生活チュートリアル。

 ◇


「暗くなってきたから今日の特訓はこれで終了!!」


 あれから素振りやスライムとの闘いをくり返し、暗くなってきたので今日の特訓は終わり、古貞は周りを見た。


「別の空間なのに夜になるとは」


 空気が冷たく、まさに夜が近づいている感じだった。森の中なので夕暮れとは思えないほどの暗さで木々が不気味に揺れていた。


「この空間には朝と夜があり四季もあるわ。今は春よ」


 さゆりは説明し小屋へ向かう。少年も彼女についていく。


「さあ、どうぞ。自分の家だと思って」

「お邪魔します」


 引き戸を開けて微笑んだので古貞は中へ入る。


(昔の田舎みてえだ)


 囲炉裏がある昔の家という内装で昔に戻ったような気分だった。ブーツを脱いであがると囲炉裏の周りに膳にのった出来たての料理が二人分ある。


「だれが作ったんだ!?」


 少年は驚き、料理に近づいて周りを見る。あまり広くない小屋なので自分達以外いなかった。


「自動だよ。特訓に専念できるよう自動で料理が出てくるわ」


 さゆりは戸を閉め、裸足をきれいに拭いて、あがり説明した。


「すげえ。山奥の旅館みてえだ」


 納得した古貞は料理の前に座った。


「唐揚げじゃねえ。魚だ。これだけか?」


 料理を見て、がっかりする。ご飯とみそ汁、焼き魚、たくあんと量が少なく質素なものだった。


「私が食べたものが出るからね。肉や揚げ物は必要最低限しか食べない、魚と野菜中心の食事が多いわ。旅館だって好きなものがたくさん出るとは限らないでしょ?」


 さゆりは座って料理の説明をした。真逆の食生活で絶望しそうなるも、ないよりはマシと考え、嫌いな物がないので食べることにした。


「いただきます」


 箸を持って家と同じように食べるが、ゆっくり時間をかけ、よく味わってかむ。量が少なく、いつものペースで食べるとすぐになくなってしまうので、いつもより遅く食べて腹を満たす。


「いい食べっぷり。お酒が進むわ」


 少年を肴に酒を飲む。飲み終えるとグラスに一升瓶の清酒を注ぐ。


「酒なんかがあるのですか!?」


 驚くことがありすぎて疲れてしまった。


「食べたものが出るって言ったでしょ? お酒もそのひとつ。私は飲酒の方が多いわ」


 酔ったように気分よく笑っている。


「しかも私は幻だから、いくら飲んでもだいじょうぶ。二日酔いにもならない」


 一升瓶の酒を頭をかけ、浴びるほど飲む。なくなってもおかわりがたくさんある。平凡でつまらない人と思っていたが、酒豪の姿を見て認識が変わった。


「お酒はあげないよ。古貞君は未成年」


 みそ汁を飲みながら見ている少年に気づき、可愛く舌を出して飲み、グラスを空にしていく。


「酒がほしいわけじゃないですよ」


 少年はみそ汁を飲み干した。母親以外との食事は初めてで悪くなかった。


 ◇


 小屋のお風呂。木製の浴槽で見た目は古いが、自動でお湯が湧き、薪をくべて温度を一定に保つ妖術が働いている。


「食べ終えた食器は自動で片づけて、風呂も自動で割った薪が無駄になんねえな」


 古貞がおり、頭を洗っていた。十分洗い、お湯が入っている桶を取り、頭にかけ、泡を流す。


「古貞君」

「えっ!?」


 後ろから、さゆりの声が聞こえたので驚き、目を開けて振り向く。そこには全裸の彼女が立っていた。


「一緒に入ろ」


 酒は飲んだが酔っておらず正気だった。


「は、はい」


 断る理由がなく彼女はもう服を脱いでおり、まだ自分の体を洗っていないので一緒に入ることにした。二人でも余裕がある広さで、さゆりはしゃがんだ。


「体を洗ってあげるわ」

「ありがとうございます」


 さゆりはタオルを泡立て、少年の背中を洗う。女性に洗ってもらったことなどないので変な感じだったが、うれしかった。

 古貞だけでなく自分の体も洗っており、二人は泡まみれになった。股間もまったく気にせずに全身を丁寧に洗っていく。


(なんだかいやらしいな。いや姉が弟を洗うのと同じで健全だな)


 気持ちよくて少年は変なことを考えている。


「流すよ」


 十分洗ったので桶のお湯を優しくかけて、お互いの泡を流していく。古貞の小汚い贅肉だらけの体はきれいになり、さゆりの美しい体はさらにきれいになった。


「さあ入ろ」

「はい」


 手を引かれて浴槽に近づき、少年が先に入り、さゆりも入って、お湯があふれた。少し狭く二人は密着している。


(これじゃ肉風呂だな!)


 お湯が少なくなり、古貞の背中とさゆりの乳房などが密着し、二人の体温で熱くなり、粘り気がある汗をかく。


「一緒に風呂に入るなんて。さゆりさんはおれが気持ち悪くないのですか? 基地の連中はみんなそう思ってバカにしてるのに」


 今までの人達と違って嫌悪感なく接しており、今も少年を膝にのせているような状態なので彼女の本音を聞く。


「だれがどう思おうと、なんと言おうと私は君のことを気持ち悪いだなんて思わないよ。みんながどうしてそう思うのか私には理解できないわ」


 慈愛に満ち、子供っぽい無邪気な笑みを浮かべ、両腕で包みこむように抱きしめる。まっすぐな優しさに思わず感動し涙を浮かべるが、汗とお湯で分からない。


「ありがとうございます、さゆりさん」


 顔を見せずに感謝する。お湯だけでなく、お互いの温もりで体と心が気持ちよくなっていき、幸福だった。


 ◇


 ひとつの布団が敷いてある部屋。外は完全に暗く、パジャマに着替えた古貞は布団へ近づく。


「さゆりさん。どうしたんですか?」


 浴衣姿のさゆりが布団の上で正座をしている。平凡な女性だが、浴衣によって清楚な色気が出て、風呂あがりの美女になっていた。


「寝る前にスパーリングをしましょう。これが今日、最後の特訓だよ」

「スパーリング? 風呂に入ったのに汗をかくことをするのですか?」


 特訓で疲れており、寝ようと思っていたので、あまりやる気がない。


「だいじょうぶだよ。今の古貞君じゃ私に負けて、すぐに終わるから汗をそんなにかかないよ」

「そう言われるとちょっと。やりましょう」


 彼女の悪意のない言葉で少し怒り、やる気を出した。


「どんなスパーリングですか?」


 勝つつもりでいるのでルールを聞く。


「この布団の上で行う素手のスパーリングで倒れるか、布団から出たら負けで終わりの簡単なものよ」


 さゆりはルールを説明して立ちあがる。


(布団が土俵の相撲みてえなもんか)


 すぐに理解でき、布団の上にのって向き合う。背では彼女の方が高いが、横では少年の方が大きい。


「さあ好きなように攻撃して。私は幻だから遠慮なく殺すつもりできなさい」


 侮っている感じはなく無防備に両手を広げた。


(布団はそんなに広くないから攻撃をかわすのは難しい。パンチやキックは苦手だから、この太った体を利用した体当たりで押し倒そう)

「それじゃあ、いきますよ!!」


 攻撃が決まり、さゆりに向かっていく。前よりも速く、軽い体で体当たりを行う。しかし、さゆりはジャンプをして上へ逃げた。さらに古貞の体にのり、押しつぶした。

 布団の上でうつぶせに倒れ、彼女がのっているので起きあがることができない。


「よく考えた攻撃のようだったけど考えすぎて視野が狭くなったのはいけないね。限られた場所にも無限で自由な活路がある。例えば上とか」


 アドバイスをし、上を指さす。


(勝てなかったか。まあ今日の特訓くらいで勝てる相手じゃねえな)


 負けることに慣れているので、あまり悔しくなく、素直に敗北を認め、勝者を見た。


「私の勝ちで今日の特訓はこれで終わり。このスパーリングは毎日、就寝前にやるから私を押し倒せるように強くなりなさい」


 体重を少しかける。あまり重くないのに、はねのけることができない。


「はい」

(幻とはいえ優秀な女性と毎日スパーリングができるのは、いいことで強くなれるな)


 先ほどのスパーリングでは成長できなかったが、手ごたえはあり、次に活かすことができる。


「明日も特訓だから早く寝なさい」

「じゃあ下りてください。それにスパーリングで少し目が冴えてしまったので、すぐに寝つくのは無理ですよ」


 まぶたを閉じても開いてしまう。


「それならだいじょうぶ。マッサージをして眠らせてあげる」


 さゆりは指圧をするように構える。


「そんなこともできるのですか?」


 マッサージを受けるしかないので、おとなしくしている。


「私はいろいろなサポートができるわ。というわけでこれがすぐ眠るマッサージ」


 指で頭を押し刺激した瞬間、少年は眠った。


「これでよし。眠ってる間に疲労は消えるから明日の特訓に支障はないわ」


 寝顔を見て安心し、彼女はどいた。特訓によって古貞の贅肉は少し減り、縮んでいる。


「強くなりなさい、古貞君。だれよりも、だれよりも」


 彼の頭を優しくなで、横になった。少年を優しく包むように抱きしめて眠った。




 次で特訓終了。

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