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第6話 お嬢様クッキング

 高山奇の名物はパスタ。盾森の名物はうどん。

 ◇


 基地の特別厨房。普通の厨房と違って調理器具が少なく、大きな機械があって広い。

 古貞と鮎美は席に着いており、つつじは機械の横に立っていた。


「ここは料理が苦手なわたくしのために造られた厨房よ」


 二人に自慢する。


「厨房というより工場みたい」


 鮎美は広い厨房を見て驚いている。


「料理苦手なんか? うどんなんてできるのかよ?」


 古貞は不安になった。お嬢様のつつじは料理経験が少なくて苦手なのは当然だろう。まずくても完食する自信があり二人は覚悟を決めた。


「安心しなさい。わたくしには、この全自動うどん調理機 ぶくぶく茶釜ちゃがまがあるわ」


 腕を組み、職人のように胸をはる。


「ぶくぶく茶釜?」

「製麺機みてえなもんか?」


 鮎美は首を傾げ、古貞は機械を見て、ますます不安になった。


「まあ見てなさい」


 つつじは機械を操作して起動させる。各部が動き、うどん作りが始まる。


「まず上質な小麦粉と水を混ぜる」


 機械から小麦粉が出て水を加えて混ぜ、うどんの生地を作っていく。


「麺の形にして食べやすい長さに切る」


 生地が麺となり、切れて、お湯の中へ入った。ゆで終わると麺を出し、冷水につける。冷水から出して器に入れる。白い宝石のような麺ができ、輝いていた。


「これに上質なカツオとコンブ出汁の冷たいつゆを入れて薬味をのせて完成」


 器に漆黒の冷たいつゆが入り、天カスと刻みネギ、のりを飾るようにのせていく。

 完成したうどんはアームが運び、古貞の前に置いた。


「即席のうどんみてえにはええな!」


 あまりの速さに驚き、鮎美の前にもうどんを置いた。


「これがぶくぶく茶釜よ! 上質な材料で最高のうどんをたくさん速く作ることができる機械! 亡きお父様がわたくしのために造らせた物よ!」


 亡き父親のプレゼントを自慢する。今の彼女は友達に自慢する少女のようで楽しそうだった。


「味はどうかな? いただきます」

「いただきます」


 二人は箸を持って食べる。盛りつけがきれいなうどんを古貞は箸でかき回して、薬味がからまった麺をすする。


「うめえ!」


 うまさが全身を貫いた。麺のコシと喉越しがよく、冷たいつゆが舌と心にしみわたる。

 のりの風味、刻みネギの辛み、天カスの食感がうどんの味を強化していた。麺とつゆだけでなく薬味も上質な物で、かなり金がかかっている一杯だった。

 冷たくて、さっぱりしており、いくらでも入る勢いですする。


「おいしい!」


 鮎美は小川のせせらぎのようにすすって舌鼓をうつ。


「料理が苦手なわたくしでも、これほどのうどんができるのよ!」


 機械で作ったうどんだが、それも自分の力なので得意げに胸をはる。


「おかわり!」


 完食した古貞はおかわりをもらう。


「いくらでも食べて」


 つつじが機械を動かすと新しいうどんを作り、アームがつゆ一滴すらない器を片づけて少年の前に完成したうどんを置いた。かきまぜようとした時、中を見て手を止めた。


「変わった天カスだな」


 箸で小さなネジをつかんで、つつじに見せる。うどんの中に小さな部品がたくさん入っていた。

 食べ終わった鮎美は驚き、つつじは機械を見た。


「ちょっと古いから壊れたのかしら?」


 機械はおかしな動きをしており、煙が出ていた。


「これはまずいわ!!」


 いくら操作しても悪化していき、つつじは慌てている。そして機械はバラバラにふっとんだ。


「だいじょうぶか、つつじ!!」


 機械が飛んでこなかったので古貞と鮎美は無事でつつじの心配をする。


「壊れちゃった」


 彼女も無傷だが、うどんの生地まみれになっていた。

 亡き父のプレゼントが壊れたが、機械は壊れるものと考えており、あまり悲しんでいない。


「髪までベトベト」


 べたつく白い生地が気持ち悪く困っている。


「シャワーでも浴びてこいよ」

「そうするわ」


 シャワーで洗い流すしかないので、べたつく体でなんとか歩く。


「シャワーを浴びてる時に無頼党が襲ってくるかもしれねえ。鮎美、守ってやれ。おれはここを片づける」

「分かったわ」


 古貞の指示に従い、つつじについていく。二人がいなくなり、少年だけになった。機械の残骸とうどんの生地で部屋は汚れており、ひとりで片づけるのは大変だが、つつじが呼んだ使用人達がきてくれた。


「さすが花山家のお嬢様」


 使用人達がほとんどやってくれるので古貞は特別厨房から出た。

 鮎美はシャワールームの前に立っており、つつじは安心してシャワーを浴び、白い汚れを洗い流していた。


 ◇


 その日の夜。ほとんどの者は眠っており、一部の団員は中と外の哨戒をしていた。

 静かで平和な夜だが、怪しい女性団員が廊下を歩いている。哨戒という感じがなく、つつじの部屋の前に止まった。

 自動ドアが開かないので、ゆっくり音をたてずに開けて中へ入り、ドアを閉めた。豪勢な部屋は暗く、つつじはふとんをかぶって眠っており姿が見えない。

 女性団員の姿が一瞬で虹カメレオンに変わり、大きなベッドに近づく。彼女はホルスターからピストルを出して弾を撃ちこむ。三発撃って、やめると自動ドアが開いて明るくなった。


 虹カメレオンは体の色だけでなく姿も変えることができる。

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