第4話 命を狙う者達
敵組織登場回。
「それじゃあ部屋へ案内するわ」
「そこに泊まれってことか?」
「そうよ。二人分の部屋を用意してあるわ。それとも今から宿泊施設を探す?」
つつじは挑発するように笑った。盾森の地には疎く、今から見つけるのは面倒なので泊まることにした。
「泊まるよ。野宿よりはマシだ」
「賢明だわ。今は夏で暑くて野宿はきついわよ。部屋には冷房があって冷蔵庫に冷たい飲み物があるわ。さあ、こちらへ」
二人を案内するために部屋へ向かう。知らない場所なので迷わないように彼女についていく。
周りを見ると高山奇第三基地に負けないほどきれいで立派な建物だった。
「ここはどこの基地だ?」
古貞は歩きながら聞く。
「ここは盾森第一基地よ。花山家が利用する基地で家のようなものよ。だからすべてわたくしの好きにできるわ」
説明するのが面倒ではなく自慢するように話す。団員達は道を開け、彼女に頭を下げており、この基地の支配者だということが分かった。
「兄と権力争いしてんだよな? その兄を倒す手助けをすればいいのか?」
権力争いの鎮圧にきたが具体的なことが分からなかった。
「非道で愚かな兄だけでなく無頼党と叔父様も倒すのよ」
「兄と無頼党は分かるけど叔父様って?」
指揮官が言っていなかった人物が出てきたので聞くことにした。
「今回の権力争いを起こした狸オヤジよ。兄を担ぎ、わたくしを殺して、盾森を乗っ取ろうとしているわ」
いろいろ話してくれるので便利だった。よくある権力争いで叔父がすべての元凶で倒さなければ、この争いは解決しない。
「兄や叔父様がよき統治者なら、わたくしは退くどころか命を捧げるけど、どちらも領民達を苦しめるタイプなので負けるわけにはいかない。兄と叔父様を倒してでも、お父様が治めていたここを守る」
同じ年齢の少女とは思えない真剣な統治者の表情を浮かべた。統治者の重圧がのしかかっているが、彼女の心は強かった。両親の英才教育のおかげだろう。
「任せろ。あんたを守って、やつらを倒してやる」
古貞は若き統治者のために戦う決意をした。任務だからやるだけでなく彼女のために働きたいと思った。つつじには光り輝く黄金のような求心力があった。
「ありがとう、古貞、鮎美」
格下の言葉でもうれしく、彼女は微笑み、統治者から普通の少女の顔になった。その顔を見て二人は笑った。
「着いたわ。ここがあんた達の部屋よ」
話している間に部屋に着いた。目の前にふたつの自動ドアがある。
「どちらも同じ部屋だからケンカをすることはないでしょ?」
二人を案内したつつじは近くにある豪華な自動ドアへ向かう。
「あんたの部屋が近くにあんのか?」
「そうよ。相手は殺し屋ギルドの無頼党。なにかあったら、すぐに駆けつけることができるでしょ?」
つつじは自動ドアを開けて中へ入った。合理的で二人を自分の部屋近くに配置した。
「選んでいいぜ」
「じゃあこっちにするわ」
同じ部屋なのですぐに決まり、指をさした。
「おれはこっちってことだな」
鮎美が選ばなかった部屋の前に立ち、自動ドアを開けて中を見る。
「これはいい部屋だ。おれの部屋に負けてねえ」
自分の部屋と同じくらいの広い豪華な洋室だった。
「わあ! すごい!」
部屋に入った彼女は中を見て驚いた。下級団員には縁のない部屋なので慣れていない。
「あちいから冷房をつけよっと」
少年はリモコンをとって冷房を動かした。心地いい冷たい風が少し暑い部屋を涼しくしていく。
「涼しい。ここは楽園だ」
ゆるんだ表情をし、冷蔵庫を開けて冷えたペットボトルの飲み物を出して、ベッドに腰を下ろした。そして、フタを開けて飲む。
「うめえ。ここはオアシスだ」
冷たい液体で喉を潤してくつろぐ。つつじは自分の部屋でケーキを食べ、鮎美は冷房をつけずに腕立て伏せをしている。
今は快適で天国だが、これから三人は地獄を味わうことになる。
◇
盾森の名家 鶴頭家。花山家に代々仕えている名門貴族で今回の権力争いでは中立だが正統な後継者であるつつじにつこうとしている。
そんな家にガラの悪い連中がいる。黒い革ジャンのような団員服姿で黒い目出し帽を着用しており、マシンガンを持っていた。
マシンガンで館を撃ち、窓を割り、壁に穴をあけ、使用人達を殺していく。館の中にも入っており、銃声を響かせて撃ち殺している。
無頼党の襲撃で手下だけではなかった。黒いロングコートのような団員服姿で黒いブーツを履いており、長い赤マフラーを首に巻いていた。
赤いドミノマスクをつけており、鋭い目つきでシャープな顔つき。短い黒髪の若い男性で大きな鎌を持っていた。
男は廊下を走り、鎌を振って邪魔者達を斬って進む。音もあり影もあり、派手に動き、暗殺というより殴りこみに近い。
「ここだ」
自動ドアの前に止まった。しかし開かないので鎌でドアを斬り、入り口を作って部屋へ入る。
高そうな服を着たハゲ頭でヒゲを生やした中年男性が冷や汗を流して立っていた。
「貴様!! 私は鶴頭家当主 鶴頭光海だぞ!! この部屋から出ていけ!!」
恐れているが強気で堂々としており、無礼な男を睨む。男は鎌を肩にのせて、強がっている光海を見て笑う。
「貴様は無頼党の黒カマキリだな!?」
男のことを知っており、死を覚悟した。
「殺し屋が有名なのは、ちょっと問題だな」
満更でもない表情を浮かべ、鎌を軽く回す。
「この襲撃! 私を殺しにきたのか!?」
兄側についている無頼党が邪魔な妹派を殺害するのは当然のこと。
「殺しにきたんじゃない。脅しにきたんだ」
親しみやすい笑みを浮かべて鎌を舐めた。使用人を皆殺しにし、今も殺気があるので信用できず説得力がない。
「雇い主はつつじにつかず中立を保てば殺さないといってる。それにこちらが勝った暁には今までよりいい思いをさせてやるそうだ。同じ花山家だから兄に寝返っても問題はないだろ?」
甘い言葉で光海の忠義が揺れる。家柄だけの彼では勝ち目がなく逃げることもできない。断って殺されるより寝返って家を守る方がいいと判断した。
「分かった。つつじ様につくのをやめる」
寝返ったが、媚びる感じがなかった。
「賢明だ」
黒カマキリは背を向けた。殺気が消えたので光海は安心している。
「さて最後の仕事をしないと」
急に振り返り、光海に近づいて鎌を振る。突然のことにかわすことなどできず体を斬られて倒れた。
寝返ったのに殺されたので訳が分からない死に顔をしていた。
「やつらは助けるといったけど、おれには殺す権利がある。お前は見せしめにちょうどいい」
人殺しが楽しく、黒カマキリは邪悪な笑みを浮かべ、死体を見下ろす。これでつつじの味方は離れ、消極的になるだろう。
「リーダーに連絡だ」
仕事を終えたので式神端末を出した。手下達は金目の物を運び、当主を失った鶴頭家は滅んだ。
◇
無頼党盾森支部のアジト 伍味跋扈。盾森の別空間にあるので盾森団は見つけることができず入ることもできない。
たくさんのゴミがあり、その真ん中には塔のようなゴミ山がある。
「このゴミは銃の部品になりそうだ」
団員達は現実世界から持ってきたゴミや使えそうな部品を探して中へ運ぶ。使えないゴミはアジトの壁などに利用し増築している。
中では使えそうな部品で銃などの武器を量産していた。その銃は自分達が使い、他の犯罪組織に売り、無頼党の収入源で独自の生活と生産を行っていた。
アジトの隣には伍味駄目食堂盾森支店の屋台があり、ゴミの臭いを消すほどのうまそうな匂いが漂い、腹をすかせた者達を誘う。
「どうぞ、うどんです」
ミニスカのウェイトレスがアジトまで料理を運んでおり、男だらけの組織は癒されながら食べる。
「料理もいいけど、あんたを食いたいぜ」
「もっと注文したら考えてあげるわ。でも、あんたのテクは料理よりまずそう」
ここで働いているウェイトレスだけあって強くて慣れており、団員の冗談をなんとも思っていない。団員達は笑い、悪の組織とは思えない感じだった。
「よくやった、黒カマキリ。その調子で妹派を脅せ」
団員達とは違う中年男性が通話を終えて式神端末を切った。短い青の髪と青いヒゲ、鋭い歯がある口。薄汚い黒タキシード姿で胸に赤いバラがあり、ボロボロの赤いマントをつけていた。
くたびれた黒い革靴を履いており、落ちぶれた吸血鬼のような見た目だった。
「鶴頭家は滅びましたよ」
笑みを浮かべて近くにいる若い男性に報告する。
「いいぞ、魔王コウモリ! おれに逆らうやつは殺してしまえ!」
男は手を叩いて喜び、はしゃいだ。ボサボサの金髪で野性的なイケメンだが、両目にクマのような黒い模様がある。金のエポーレットがある深紅の団員服姿で黒いブーツを履いていた。
「これでつつじ派につく者は少なくなります、牙炎殿」
魔王コウモリが媚びへつらっている相手はつつじの兄 花山牙炎だ。
「亡き両親が決めた遺言など正しくない! 嫡男のおれではなく妹が後継者など間違っている! 妹を殺して、おれが跡を継ぐべきなのだ!」
牙炎は自分こそが正統な後継者と主張している。
「まったくその通りです、牙炎殿」
ご機嫌をとるように軽く拍手をする。
(こんなのが嫡男では妹を後継者にするのは当然のこと。亡き両親は聡明で正しいな)
魔王コウモリは心の中では彼のことをバカにしていた。
(まあ、おれ達としてはこういうバカの方がいい。なんの考えもなく金を払ってくれる。あの娘は無頼党を撲滅しようとしているから仕事がやりにくい)
牙炎と同じで彼女が目障りなので協力的だった。彼が跡を継げば無頼党の撲滅がなくなるどころか働きやすくなる。
「早く生意気な妹を殺してくれ、魔王コウモリ。おれが花山家の当主になったら、いくらでも報酬を払うぞ」
「黒カマキリは別任務でいけませんが、他の連中をいかせていますので、うまくすれば今日つつじを殺せるかもしれません」
彼女を殺す部隊を送っていた。鶴頭家が滅び、黒カマキリが邪魔者を脅しているので、つつじを守る者は少なく、殺すチャンスがある。
「それはどうでしょうか?」
「だれだ!?」
突然の声に驚き、魔王コウモリ達は周りを見る。すると目の前に不気味なピエロが現れた。
「クラウンか。つつじ派の刺客かと思った」
姿が見えたので安心した。
「何度かきてるのに声を覚えていないのですか?」
聞き慣れた声でも姿を消して声を出せば、だれでも驚くだろう。
「なにしにきた?」
呼んだ覚えがない相手がきたので、ぶっきらぼうな態度だった。
「いい情報を持ってきました。宅配ピザのように熱々です」
悪い笑みを浮かべて自分の仕事をする。
「どんな情報だ?」
彼の情報はいろいろと役に立つので聞くことにした。
「花山家当主 つつじを殺そうとしているんですよね? 気をつけた方がいいですよ。岡井 古貞がここにきて彼女の近くにいます」
面白いことに敏感で権力争いや古貞がきたことを知っていた。
「岡井 古貞か」
魔王コウモリは名前に反応した。
「やつのことをご存じなのですか?」
クラウンは首を傾げる。
「悪党の間じゃ少し有名だ」
彼の活躍は耳に入っていた。
「だが恐れることはない。やつはひとりでこちらは組織だ。我々無頼党の邪魔をするのなら殺すだけだ」
古貞のことを侮っている。面白そうなのでクラウンは忠告しなかった。
「頼もしいな」
モニターから男性の声がし三人は驚いて見た。モニターの映りが悪く、だれだか分からない。
「叔父上!!」
「これは銅欲様」
牙炎は平伏し魔王コウモリは優雅に頭を下げる。
(黒幕の花山 銅欲。牙炎を擁立して花山家を乗っ取るか)
クラウンは傘下ではないので、なにも言わずに消えた。
「叔父上と無頼党が味方の時点でおれの勝利は確実だ!」
「その通りだ、牙炎。つつじを殺し、ともに贅沢な生活を送ろう」
銅欲と魔王コウモリは牙炎を利用しているだけで彼はそれに気づかず信頼して喜んでいた。
(無頼党と銅欲。さすがの古貞でも今回は苦戦するかもな。面白そうだ)
姿が見えないのをいいことにクラウンは楽しそうに邪悪な笑みを浮かべて去る。
(今回の仕事がうまくいけば大金が手に入り、邪魔者が消えて、おれ達の仕事がやりやすくなる。その日はすぐそこだな。なにしろ送ったやつは黒カマキリより優れている暗殺者だ。失敗するわけがない)
魔王コウモリは笑って吉報を待つ。
無頼党は各地にある。伍味駄目食堂も各地に支店がある。
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