第3話 金の狸
新たな任務とヒロイン。
◇
細川指揮官の部屋。部屋の主は威張って座っているが威厳も迫力もない。
(無能なのに偉いんだよな。このお飾り)
滑稽な上官を見て古貞は心の中でバカにして笑っていた。鮎美は指揮官が苦手で少し緊張している。
「細川指揮官。なぜおれ達を呼んだのですか?」
ブルマ男退治を褒める気がなく面倒な仕事を押しつけるような感じだった。
「君達に任務を頼むためだ」
予感が当たり、古貞は冷静で鮎美は驚いた。指揮官直々の任務は珍しい。
「任務とは?」
「盾森で起きた権力争いを鎮圧してくれ」
面倒で複雑な任務で古貞達がやるようなものではない。
「本当は内藤と岸がいく予定だったが、襲撃者にやられて入院してしまったからいくことができない」
二人の代役として呼ばれた。
「あのむかつく二人が入院したのはいい気味だが、そのせいで任務に支障が出てしまった。まったく襲撃者を倒すどころかやられるとは情けない」
嫌いな部下達がいないのをいいことに悪口を言う。部下が部下なら上官も上官と古貞達は呆れた。
「おれ達じゃなくても他にいるでしょ?」
英士と勇奈がいなくても優秀な上級団員がいるので下級団員の二人が呼ばれるのはおかしい。
「内藤と岸が勝てなかった襲撃者を倒した君以外にだれがいる?」
実力だけなら少年は二人どころか、この基地の中では最強なので選ばれたのは当然のことだった。
「それにいくら盾森の名家直々の要請でも権力争いでうちの人材を送るのは少し抵抗があってな。君ならいろんな意味で安心して送ることができる」
面倒なことに自分の部下達を出したくないので優秀な余所者をいかせて取り繕うとしている。
この基地のほとんどは高山奇出身者で伊仙奇出身の問題児である彼は仲間扱いされていないので惜しくない人選だった。
「じゃあ鮎美は?」
古貞は少女を見た。彼女が少年と一緒にいく意味が分からなかった。
「二人、送ると言ってしまってな。だれも君と仕事をしたくないというので仲がよさそうな彼女をいかせることにした」
古貞が嫌われているから彼女が選ばれた。鮎美は無能力の余所者なので指揮官にとってはちょうどよかった。
「任務なのでいきますけど、どのようなことが起きているのか詳しく教えてください」
指揮官の命令と仕事なので断れないが、すぐにいかず情報を集める。
「盾森の名家 花山家の兄妹による跡目争いだ。兄が妹を殺そうとしており、そのために殺し屋ギルド 無頼党を雇った」
面倒そうな表情で説明する。
「無頼党か。そんな連中を雇うとは」
面倒な相手を知り、古貞は嫌な表情を浮かべた。
「無頼党は全国に存在する殺し屋ギルドで荒っぽい力押しが多く、無関係な人達まで傷つけるクズどもだ」
指揮官は無頼党のことを古貞以上に見下していた。
「盾森支部は特に荒っぽく、リーダーは魔王コウモリという危険人物だ」
見下しているが同時に恐ろしさも知っている。
「名めえだけは知ってる」
見たことがない強敵を想像し少年は冷や汗を流した。
「おれ達は妹側について兄を倒すということですね?」
兄につくという考えなどなかった。
「そうだな。こっちとしてはどっちでもいいが、妹が正統な後継者だ。もう教えることはないから、さっさといけ」
いろいろ聞く古貞にいらだっている。
「それではいって参ります」
ある程度、情報を集めたのでいくことにした。
「基地の転送装置を使っていけ。あれなら盾森にすぐ着く」
ここから盾森はかなり遠い。指揮官は二人のためではなく相手がうるさいので早くいけるようにしていた。
「分かりました」
二人は指揮官の部屋を出て、転送装置へ向かう。
◇
「ここが転送装置よ」
基地にきたばかりでほとんど利用していない古貞は鮎美の案内で転送装置に着いた。他の自動ドアと同じものだった。
「指揮官の許可がないと使えない音声入力よ」
「そうか」
彼女の説明で前の基地と同じものと分かり、ドアの前に立つ。
「開け、盾森」
少年の言葉に反応し自動ドアは開いた。不気味に歪む空間が広がっており普通の人間は入る気がなくなるだろう。
「いざ盾森へ」
古貞は堂々と入り、鮎美は少しおびえながら入った。二人が入るとドアは閉まった。少し暗いが、ちゃんと見えており進むことができる。
「あの世へいきそうな感じだな」
「怖いことを言わないで。本当にいきそうで怖いわ」
周りを見ながら進む。この転送装置は盾森につながっており、少し歩けば着く距離になっている。
「出口だ」
同じような自動ドアが見えた。古貞達が近づくとドアは開き、普通の空間が広がっていた。
「基地の中だな」
周りを見ながら二人は歪んだ空間から出た。自動ドアは閉まり、高山奇への道はなくなった。自分達が利用した転送装置と同じだった。
「きたわね」
二人の目の前に少女がおり、腕を組んで高圧的な態度で立っていた。背中に届くほどの長い銀髪で気の強そうなピンクのツリ目。ピンクの口紅がうっすら塗ってある唇と可愛らしい八重歯。スカートタイプで高級感があるマルーンの団員服姿で黒いパンプスを履いていた。
古貞より少し背が高く、全体的にやわらかい体つきだが、美術品のような美貌と気品がある。
「高山奇団のエース 英士と勇奈がくると聞いていたけど、だれ、あんた達?」
少女は二人の後ろを見て、だれもいないことを確認し、そっけない態度になった。
(あのおっさん。代わりがくることを伝えてねえのか?)
相手にちゃんと連絡していない指揮官に呆れてしまった。おそらくなにか言われるのが嫌で連絡しなかったのだろう。
「二人は入院していて、細川指揮官の命令でおれ達がきた」
古貞の話を聞いて怒りがにじみ出ている。
「あのやせっぽっちめ!! エースの上級団員二人じゃなくて無名の下級団員二人を送ってくるなんて!!」
古貞達に不満と怒りをぶつけるように、ここにいない指揮官を非難する。当たっているが目の前で言われると気分が悪い。
「まあ、あんた達でもいないよりはマシね。こき使ってやるわ! それにわたくし相手にタメ口で話す態度、無礼だけど気に入ったわ」
冷静になった彼女は二人を追い返すようなことはせず少し古貞に興味を持った。
「お名前は?」
「岡井 古貞だ」
「篠原 鮎美」
物腰が柔らかくなった彼女に名前を言った。
「わたくしは盾森の名家 花山家の正統な後継者 花山つつじよ!!」
肉付きがいい胸をはって大きな声で自己紹介をした。豪華な音楽が流れ、輝いているように見えた。
「本人かよ」
目の前にいる美少女が守るべき人物と知って古貞達は驚いた。
「ようこそ、盾森へ」
両手を広げて笑顔を浮かべているが、作り笑いだと分かった。
(まあ無名の下級団員じゃ歓迎しねえよな。けどあんまりおれ達を舐めんなよ)
見下している少女を見て少年は心の底で笑った。こうして古貞と鮎美の盾森での生活と任務が始まった。
狸のようなムチムチヒロイン登場。今までの単体から組織が相手になった。
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