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美女能力者のお腹にある別空間で特訓をして強くなった中途半端な能力者  作者: ライトニング
2章 グラディエイキャット編
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第13話 エキシビションマッチ

 ついに古貞とゴブリンマスクの闘いが始まる。

 ◇


 特別ビップルーム。タイトルマッチが成功し主催者は最初上機嫌だったが、少年の登場でメチャクチャになり一気に不機嫌になった。


「おのれ!! せっかくのタイトルマッチが台無しだ!!」


 ワイングラスを握りつぶし、血のような赤ワインがしたたり落ち、筋肉は膨れて礼服を破った。


「あの少年は何者だ?」


 女性は興ざめせず、古貞に興味を持った。


「高山奇団の岡井 古貞という侵入者です!!」


 怒りのあまり荒々しい声で説明してしまった。しかし女性はまったく気にしていない。


「こうなったら、おれがリングに沈めてやる!!」


 少年を睨みつける目は燃えており、拳で手の平を殴った。


「やつと闘うので席を外しますが、安心してご覧ください」


 ゴブリンマスクは接待をやめ、リングへ向かうために部屋を出た。


「グラディエイキャット主催者ゴブリンマスクと高山奇団の少年団員 岡井古貞の試合か。これは面白くなりそうだ。きてよかった」


 ひとりになった謎の女性はワイングラスにジュースを注ぎ、試合が始まるのを待つ。


 ◇


 その頃、リングはまだ荒れており、周りに物が散乱し、ブーイングの嵐はやまず観客達は物を投げ続けている。そのためゴブリンマスクの手下達は近づけない。


「そろそろ逃げるぞ!」


 騒ぎが大きくなり逃げやすい状況になったので古貞鮎美を支えながら金網を跳び越えようとする。


「そうはさせん!!」


 少年以上の大声が響き、人々は物を投げるのをやめた。するとリングに穴が開き、大男がせりあがってきて二人の壁になった。さらに皆に気づかれないように穴が開き、前チャンピオンの死体を落として閉じた。


「ゴブリンマスク!!」

「こいつがゴブリンマスクか」


 鮎美は驚き、初対面の古貞は自分より大きい男を見上げた。礼服姿の主催者からいつものコスチュームの格闘選手になっており臨戦態勢だが、いきなり襲いかかるようなことはせず二人の顔を交互に見て少年に話しかける。


「そいつをつれていくのは許さん!! 彼女は新チャンピオンでここのスター選手になる娘だ!!」

「てめえが勝手に決めたことだろ!! 鮎美はこんなところで終わる女じゃねえ!!」


 彼女をこんな目にあわせた相手を睨みつけ、荒々しい言葉をぶつけた。


「彼女を置いていけば見逃してやるぞ?」


 少女を指さして交渉する。


「そんなの信用できるかよ! それにお前をやった方が確実だ!」


 クラウンに騙されたこともあり悪党を信用する気はなく好戦的な態度をとった。


「そうか、交渉決裂だな。ならここで殺す!!」


 最初から殺すつもりだったのでゴブリンマスクは少年を指さした。


「私も戦うわ!」


 ボロボロの鮎美は古貞から離れて、よろけつつ自力で立ち敵を睨んだ。少年は心配そうに見るが有利になるので止めなかった。


「その体じゃ無理だろ。治してやる」


 五本の指から銀色の糸を出す。しかし四本の筋肉アームが突然出てきて彼女の両腕と両脚をつかみ、持ちあげた。


「なっ!?」


 古貞は驚き、運ばれていく少女を見ることしかできなかった。ボロボロの鮎美では抵抗が弱く、ナノマシンのせいで動けず逃げられない。

 それと同時に空中に巨大な黄金のチャンピオンベルトが出現した。


「ベルトが飛んでる!?」


 訳が分からず見ているとアームは彼女をチャンピオンベルトに勢いよく大の字に押しつけた。


「あっ!?」


 後頭部をぶつけ、鮎美は気絶した。その後、両手首と両足首を拘束していき、アームは消えた。


「どうだ!? この試合に勝った者が手にするチャンピオンベルトにしてやったぞ!!」


 ゴブリンマスクは美少女の装飾を得て浮かぶチャンピオンベルトを指さして笑った。


(まあ鮎美にはあそこで休憩してもらおう)


 助けにいける高さではないので目の前の敵との闘いに集中する。


「あの娘をかけたエキシビションマッチの始まりだ!!」


 主催者が高らかに宣言するとゴングが鳴った。男同士の賭けなし試合だが主催者自ら闘う珍しい試合なので観客達は興奮し歓声をあげた。

 観客の中には熱狂的なゴブリンマスクのファンなどが多く、彼を応援し少年にはブーイングや罵声を浴びせている。刀を抜くとさらに強くなり耳障りだった。


「うるせえな!」


 鮎美以上に孤立しており観客達を一瞥し刀を構えた。


「刀を使うのか?」


 敵は刀を見てバカにしたように笑う。


「武器を使ってた選手もいたし反則じゃねえだろ?」


 相手が丸腰でも刀で闘う。


「ああ、ここではルール無用! おれが法律だ!」


 両手を腰に当てると無数の赤い宝石が輝く黄金のチャンピオンベルトが出現した。


「またベルトか」


 古貞はただのベルトではないと警戒する。その判断は正しく無数の赤い宝石から同時に光線を発射した。

 素早くかわすと金網に命中し、ふっとんだ。爆発を見て興奮する者達や逃げる者達が出てきた。


「そんなのありかよ!?」


 格闘家とは思えない攻撃を非難した。


「ありだ!!」


 笑いながら光線を撃ちまくる。小柄な体で素早くかわす少年にはなかなか当たらずリング上をふっとばし、観客席までふっとばした。

 これには熱狂的なファン達も逃げだし、試合の時とは違う騒ぎになった。逃げる人々がいなくなり地下闘技場は爆発音だけが鳴り響く。

 だれもいなくなったが姿なき者が観客席へ近づく。


「立って観ていたが貸し切りのようになったな」


 どこも空席なのでクラウンは特等席を見つけて座り、近くにあった食べかけのポップコーンを取ってくつろいだ。


「こんな面白い試合をおれだけが近くで観られるとは」


 贅沢な気分に浸りながらポップコーンを食べて試合を観る。


「タイトルマッチは小娘の勝利。このエキシビションマッチはどっちが勝つかな。おれとしてはゴブリンマスクが勝っても面白くないから古貞に勝ってほしいな」


 ゴブリンマスクに聞こえないようにつぶやいた。クラウンは地下闘技場最大の決闘を観客席で見届ける唯一の証人になった。

 リング上の二人は透明なクラウンに気づくわけがなく闘いに集中していた。

 少年が突っ込んでくるのでゴブリンマスクは両手を広げて捕まえようとするが、すりぬけるようにかわし、背後に回って斬った。


「かてえ!!」


 斬った感触に驚き、敵の背中を見た。皮膚に切り傷がついただけで肉は斬れていない。


「そんなナマクラじゃ、おれの筋肉は斬れないぜ!!」


 刀で斬られたことなど屁とも思っておらず体を古貞の方へ向けた。


「防衛団の通常装備の刀だからナマクラじゃねえよ! てめえの体が頑丈なんだよ!」


 厄介な強敵だが、少年は臆することなく余裕があり刀を構えて挑む。


「フォークロー!!」


 ゴブリンマスクは両手の指を四本立てて突いてきた。鋭くて速い攻撃でかすっただけで団員服は切れ、刀で指を斬ろうとしても弾かれた。

 体以上に指が強靭で二本の槍を相手にしているような感じになっていく。


(目や喉ばかりを狙ってくる!!)


 攻撃が見えるので少しびびっている。相手の急所を狙う攻撃ばかりで鮎美達とのスパーリングとは違う本気で彼本来の闘い方だった。

 現役時代に匹敵するほどの攻撃をかわしていくうちに後ろへ追いつめられていく。


「やべっ!!」


 金網が背中に当たり、古貞は後ろを見て前を見た。壁のように立つゴブリンマスクは地獄突きを放つ。

 後ろには逃げられないのでよけると四本の指は金網を貫いた。すかさず少年は大男をすりぬけるように移動して離れた。


「おのれ!!」


 金網に突っ込んだ手を強引に抜いて振り向く。


「なっから風!!」


 古貞は刀から突風を放った。


「つめてえ!」


 風をくらったゴブリンマスクは震え、体は凍っていく。完全に凍らず動きが少しぎこちなくなった。

 動きが遅くなったところで一気に近づいて攻める。しかし相手は両腕で刀を防ぎ、皮膚に切り傷をつけることしかできない。


「こんな中途半端な凍結!」


 激しい動きでゴブリンマスクの体は温まっていき、徐々に解けて動きがよくなり押されていく。


「追風乗!!」


 刀の峰から風を放つ。今までとは違う鋭くて速い一振りに驚き、腕で防御するが肉まで届き、切り裂いた。


「このおれにこれほどの傷をつけるとは!!」


 深い傷をつけられたことに怒り、地獄突きを放ち、刀を弾きとばした。そして無防備になったところを四本の指で突きまくる。


「くっ!!」


 とっさに目と喉は守ったが体は穴だらけになり血は流れ、白い団員服を赤くそめた。


「治布!!」


 古貞は五本の指から銀色の糸を出し瞬時に長い布を作り、片腕に巻いた。すると回復エネルギーが全身に回っていき出血を止め、穴は跡形もなくふさがり、血は消え、白い団員服に戻っていく。


「素手同士で第二ラウンドだ!!」


 刀がない相手を見て有利と思ったゴブリンマスクは両手の指四本を立てて構えた。


「剣術の方が得意だけど殴り合いもできるぜ!!」


 少年は武器を拾いにいかず構えた。


「また穴だらけにしてやる!!」


 ゴブリンマスクの連続地獄突きをかわし、両腕で威力を削ぐように防いでいき離れた。


「やるな!! さっきの布といい剣術だけの男じゃないようだな!!」


 古貞の強さに少々あせり、ベルトから光線を発射した。刀ありの時と同じようにかわし、いくら撃っても命中しない。


「扇空波!!」


 手で勢いよく扇ぎ、突風を放った。敵はふきとばされそうになるも重い体と靴底の突起でふんばって耐えた。


「ラリアットルネード!!」


 ゴブリンマスクが竜巻のように回転すると古貞の体が少し動いた。


「体が!?」


 ふんばっても竜巻に引き寄せられ、近づいてしまう。そして敵は回転しながらラリアットを放ち、古貞をぶっとばした。

 しかし、あまりきいておらず踏みとどまった。


「どうなってんだ!? くらったはずなのに!?」


 回転を止めて少年を見たゴブリンマスクは首を傾げた。


(こいつを巻いて正解だったぜ!)


 片腕に巻いてある布をさすった。回復効果がまだあり、強力な攻撃を受けても回復しダメージを軽減してくれる。


「これならどうだ!?」


 少年に突っ込み、前蹴りを放つ。突起だらけのキックが迫るが、難なくかわした。


「布みたいな小僧だ!!」


 ヒラヒラと攻撃をかわし、当たっても手ごたえがないのでいらついた。


(回復効果がなくなるとまずいし、そろそろ決めねえと!!)


 治せるのは傷などで体力は回復できず少しふらつき、少女の方を一瞥し強敵に狙いを定めた。


「この攻撃は当たるようだから、これでいくか。ラリアットルネード!!」


 体力に余裕があるゴブリンマスクは先ほど命中した攻撃を選び、体を回転させた。


(あの攻撃か!!)


 また竜巻のような回転に引き寄せられる。回復効果があっても痛みは感じるうえに無限ではない。


「こい!! おれの刀!!」


 抵抗して耐える少年は五本の指から白い糸を出して落ちている愛刀に巻きつけて引き寄せる。刀を手に入れ、糸でしっかり固定し抵抗をやめて向かっていく。


「追風乗!!」


 敵のラリアットと同時に刀の峰から風を放ち、鋭い一振りでその腕を切断した。


「毒霧炎!!」


 ゴブリンマスクは回転を止め、口から赤い液体を炎のように噴射した。


「どわあっ!!」


 まともにくらってしまい、肌と団員服はこげ、目と喉は焼けるような痛みを感じ、肺を刺激する。

 片腕に巻いた銀色の布は焼けて切れ、回復効果を失い、治すことができない。


「タイタンクロー!!」


 不意打ちがうまくいき、ゴブリンマスクは大きな手で古貞の頭をつかみ持ちあげた。指がくいこむような痛みが頭に響く。


「ほれほれ!」


 少年をゆらして遊ぶ。足が届かず、すごい力でつかんでおり、刀で腕を何度も刺しても皮膚に傷がつくだけでびくともしない。


「このまま握りつぶしてやる!!」


 一気に力をいれると頭が歪むような痛みを感じ、歯をくいしばった。


「なっから風!!」


 逆転を狙い古貞は刀から冷たい風を放ち、敵を凍らせていく。少し凍り、力が入りにくくなったので強引に脱出した。


「覚悟しな!!」


 片腕を失い、動きが鈍くなった相手は無防備で体を斬った。皮膚に傷をつけただけだが攻撃は終わらない。


「追風乗!!」


 本命の追加攻撃を放ち、ゴブリンマスクの首をはねとばした。首を失った体はぶっ倒れ、リングは揺れた。

 首が落ちてきて転がり、試合終了のゴングが鳴り響く。勝ち名乗りがなくても古貞の勝利は一目瞭然。


「勝ったぜ……」


 勝利の喜びは少なく、試合の疲れとダメージが体を襲う。


「こいつの顔ってどんなのかな?」


 ゴブリンマスクの首を見て素顔が気になったので近づいて拾った。食いついてこないか警戒し、死んでいることを確認する。


「さすがに首をはねられて生きてるやつはいないか。それじゃあ悪逆覆面格闘家の素顔を拝むか」


 安心した少年は強引に覆面を脱がす。覆面を取ると凄まじい形相の中年男性で死しても迫力がある。


「負けたのが信じられない顔だな。お前は負けたんだよ」


 無造作に首と覆面を捨てた。


「おっと! 鮎美を助けねえと!」


 彼女のことを思いだし、上を向いた。すると巨大なベルトは少年の方へゆっくり落ちてくる。


「跳んで助ける手間が省けたぜ。オーライ、オーライ!」


 ベルトを受けとめるように両手をあげた。自分の体より大きいが、あまり重くなく潰れることはなかった。

 勝者を称えるように落ちてきた美少女付きベルトを持っている少年の姿は地下闘技場の新しいチャンピオンのようだった。

 その勇姿を見たクラウンは聞こえないように拍手をしている。


「まさか緑豚を倒すとは……面白いものが観られて楽しかったぜ。また面白いことを見つけないと」


 満足した表情を浮かべており席を立って出口へ向かう。


 ◇


 地下闘技場最大の決闘を見届けていた証人はクラウンだけでなく特別ビップルームにもいた。


「ゴブリンマスクは死んだか……これでグラディエイキャットは終わりか。残念だ」


 主催者の死より賭け試合がなくなることを悲しんでいた。


「まあ最後に面白いものが観られた」


 女性は満足しており邪悪な笑みを浮かべて、ゆっくり立ちあがった。拘束されていた美女達は空間の主の死とともに元の世界へ戻ったので部屋には彼女しかいない。

 ゴブリンマスクの死を知り、観客は逃げ、選手達は解放され、創られた手下達は動かなくなり建物の一部が消滅し地下闘技場の崩壊が始まっていた。


「私も逃げるとしよう」


 幽霊のように移動し自動ドアへ向かう。部屋を出る前にモニターに映っている少年を美しい瞳で見た。


「岡井 古貞か。ゴブリンマスクを倒したが私の脅威にはならないだろう」


 少年のことを心の片隅に刻み、自動ドアを開けて部屋を出た。


 ◇


 クラウンと謎の女性がいなくなった後、リング上の古貞はベルトを置き、歪んでいく周りを見た。


「ゴブリンマスクが死んだから、ここも消えるようだな」


 周りが消えても落ち着いており、ベルトをはなさないようにしっかり持っている。歪みがなくなり、地下闘技場は消え、地下のつぶれたゲームセンターへと変わった。


「戻ってこれた」


 見覚えがある光景を見て安心した。空間とともにベルトは消えており、鮎美は目の前に倒れていた。


「火傷がひどいな。早く治さねえと。雪だる繭!!」


 痛々しい火傷を見て自分より鮎美を優先し五本の指から白い糸を出し続け、彼女を優しく包み、雪だるまのような繭にした。回復効果があるので試合で疲れ、傷ついた体を癒すことができる。


「どっか安全な場所へ運んで休ませよう」


 小さな体で大きな繭を背負い、外へ出る。


「夕陽が目にしみるぜえ」


 外は夕方で空は赤く、闘いで疲れ、傷ついた体を照らす。大きな繭を運ぶ古貞を見て人々は気味悪がっているが、仲間を助けることができたので満足しており、視線を気にせずに堂々と歩く。




 

 


 




 ゴブリンマスクの空間能力は試合ができる場所を創るもの。格闘家なので試合ができる場所は必要。それを応用して地下闘技場を創った。

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