第11話 人間格ゲー
グラディエイキャットでは美女が格ゲーのキャラ。操作するのはゴブリンマスク。
◇
ドーム内にある特別ビップルーム。ホテルのビップルームはセレブ専用でここは特別なゲスト専用で豪華な椅子がひとつとテーブルがあり、両側には拘束された美女達がいる。鮎美が最初にいた部屋でゴブリンマスクの私室でもある。
しかし、部屋の主は堅苦しい礼服姿で緊張しており椅子に座っていない。すると後ろの自動ドアが開き、ゴブリンマスクは慌てて振り向いた。
「ようこそ! お待ちしておりました!」
慣れていない感じで丁寧な言葉遣いと媚びへつらう声で頭を下げ、普段の傍若無人なところがない。
「うん」
そこには黒いローブ姿の不気味な女性がおり、ローブで足が見えず幽霊のような動きで椅子までやってきた。
「ささっ! どうぞ!」
椅子の背もたれを持って座ることを勧めると女性はなにも言わずに当たり前のように腰を下ろした。
「お飲み物をどうぞ!」
ゴブリンマスクは急いでテーブルの上にあるワイングラスにジュースを注いで渡す。
「ご苦労。相変わらず気がきくな」
ワイングラスを優雅に受けとり、フードから見える唇でひとくち飲み、周りの美女達を見て微笑んだ。
「美女を眺めながら飲むジュースは格別だな」
さらに飲んでワイングラスを回した。
「お忙しいのに、きてくださるとは」
ゴブリンマスクは自分のグラスに赤ワインを注ぎ、媚びるように笑った。
「今日は今までとは違う面白いものが観られるのだろう? 忙しい中きたのだ。期待しているぞ」
特別な常連は静かに威圧し不気味に微笑む。
「はい!! それはもう!! 今日の目玉試合はチャンピオン対期待の新人のタイトルマッチです!! おれが鍛えた選手の中でも最強の選手と新鮮で活きがいい実力派の少女団員によるもので今までの素人同士の試合とは違います!!」
自分より小さい相手におびえつつ、グラディエイキャット過去最高で自慢の試合なので猛烈にアピールする。
「だいじょうぶなのか? 相手は戦いのプロだぞ。いくら、お前が鍛えた選手でもしょせん素人。秒殺されるかもしれんぞ」
女性は呆気ない試合になることを心配している。
「たしかに強さでは団員の方が上ですが、ここはまともな試合をするところではないうえにチャンピオンはそのことを最も理解している女ですぐにやられることはありません。見せ場がたくさんあって楽しめますよ」
ここには鮎美の味方がおらず彼女を追いつめる仕掛けがあり、チャンピオンが断然有利な環境なのでゴブリンマスクは自信がある。
「それは楽しみだ。今日の試合が面白ければ、もっと金を出してやろう」
安心した女性は上機嫌になり、ジュースを飲み干した。彼女はスポンサーでセレブ達のように賭けはせず大金を出してグラディエイキャットを支えていた。
「ありがとうございます!! 興行や選手の育成には金がかかるので!!」
ゴブリンマスクは何度も頭を下げ、上機嫌になってワインを一気に飲み干した。
「タイトルマッチはもう少しで始まりますので、それまで前哨戦をお楽しみください!」
主催者はじらすように言い、女性のグラスにジュースを注ぎ、自分のグラスに赤ワインを注いだ。
「そうしよう」
女性はモニターに映っている試合を観て微笑み、舌なめずりをした。リングでは人気選手と新人選手の試合で盛りあがっており、観客達はタイトルマッチへの期待を高めていく。
ゴブリンマスクはスポンサーを飽きさせないように接待を続ける。その情けない姿は地下闘技場の支配者とは思えない。
試合は順調に進み、鮎美の出番は近い。
◇
ホテル内に潜入した古貞は空いている部屋に隠れながら移動していた。
「隠れられる場所がいっぺえあって、ほとんどの客はドームだから怪しまれずに移動できるぜ」
周りを警戒してもだれもいないので挙動不審な少年は楽々ドームへ向かう。筋肉男達もホテル内にいるが隈なく捜すには人数が足りず、大事な試合と接待があるためゴブリンマスクに報告もできないので対策がない。
ドームの出入り口が近くなったところで最も隠れやすい部屋 トイレへ入り、鏡を見て自分の顔と服装を見た。
「このままの姿でドームにいたら前のように見つかるな。変装するか」
顔はばれており、白い団員服は目立ち、観客の中にいても見つかってしまうので五本の指から灰色の糸を出してローブを作っていく。
完成した地味なローブをまとい、フードをかぶると顔と白い団員服は見えなくなった。
「これでよし!」
鏡で姿を確認しトイレから出て堂々と歩いた。筋肉男達がいたが、少年に気づかず慌てて通りすぎていった。
「ばれてないな……」
内心ではハラハラしており、ばれなかったことに安心し、だれにも聞こえないようにつぶやいた。
ドームへ入ると相変わらずの熱狂ぶりでフードが吹きとびそうになった。リングにはだれもおらず、これから試合が始まるようなので古貞は観やすい席についた。
観客達の中には彼と同じようにマスクやフードで顔を隠している者がおり怪しまれることはなく、観客席をうろつく筋肉男達にもばれなかった。
フードで顔を隠しながら巨大モニターの対戦表を見ると鮎美が映っており、彼女が出ることがことが分かった。
「グッドタイミングだ」
ちょうどいいタイミングにきたことを喜ぶと試合が始まった。
『これから本日のメインイベント タイトルマッチを始めます!!』
前哨戦でじらされていた観客達は爆発したように盛りあがった。
『赤コーナー!! 多彩な技のスパイス!! グラディエイキャットチャンピオン!! カレーターバンー!!』
赤コーナー側の床に穴ができ、チャンピオンがせりあがって登場した。
褐色の肌で頭に白いターバンを巻き、フェイスベールをつけており分かりにくいが、銀髪のショートの美女。
健康的な肌と体を晒す踊り子のような白いビキニ姿で裸足。片手を腰に当て、体をくねらせてエキゾチックに立ち、チャンピオンの余裕を感じる。
「どんな選手か分からねえけど鮎美が負けるような相手じゃねえな」
クラウンがいないのでどんな選手か分からないが、見た感じでは鮎美より少し背が高いぐらいで素人選手の中では最強で苦戦するような相手ではない。
『青コーナー!! さらってきたばかりの活きがいい期待の新人!! 沼束の竜胆!! 篠原鮎美ー!!』
知り合いの名前が出たので古貞は青コーナー側を見た。同じように穴ができ、レオタード姿の少女がせりあがってきた。
(鮎美!!)
名前を叫ぶのを我慢し彼女の無事な姿を見て安心した。リング上に立たされた少女は下劣な観客達の不躾な視線と歓声におびえ、不快な表情を浮かべて周りを見ている。
「あんたが期待の新人ね。悪いけど私が生きのびるために死んでもらうわ! 今までそうしてチャンピオンになったから!」
新人が気に入らないカレーターバンは威嚇し睨んだ。軽い威嚇なので鮎美は動じていない。
「あなたと闘う気はないから逃げるわ」
上が開いているのでジャンプをしようとしたが、いきなり脚が動かなくなり鮎美は驚いた。
「だったら!!」
金網を破ろうと殴りかかるも腕が動かなくなった。
「どうして!?」
わけが分からず自分の両手と両足を見て動くことを確認した。カレーターバンはおめでたいバカを見て笑った。
「当たり前でしょ。私達は逆らえないように特殊なナノマシンが体に入っていて逃げることや試合を放棄することはできないのよ」
「私の体にそんなものが」
自分の体に得体の知れないものが入っていることを知って鮎美は真っ青になった。
「私も最初はあんたと同じだったけど今じゃ平気でチャンピオンよ! チャンピオンだと他の選手と違って特権があるからやめられないわ!」
少女はここでの生活で感覚がおかしくなった性悪女を哀れに思った。
「やるしかないようね」
逃げることができないので目の前の敵を倒すことにし構えた。
「あんたのことはボスから聞いてるわ!! 無能力者で闘い方も分かってるわ!!」
チャンピオンの背後にはゴブリンマスクがいるので鮎美の情報は知っており、有利で自信満々。鮎美にはカレーターバンに関する情報などないので雲を殴るような闘いだった。
スポンサーである謎の女登場。
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