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美女能力者のお腹にある別空間で特訓をして強くなった中途半端な能力者  作者: ライトニング
2章 グラディエイキャット編
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第9話 観戦

 古貞が観客のフリをして賭けをするグラディエイキャット説明回。

 ◇


 ドーム側の観客席。クラウンはなにも知らない古貞に賭け試合を教えている。


「まずはどちらに賭けるか決めろ!」

「決めろって、どいつに賭ければいいのか分からねえよ」


 賭ける相手を選ぶことから始める。対戦表に名前があるが、初めてでどんな人物か分からないので決めにくい。


「それを予想して賭けるのが楽しいんだよ。まっ! 初めてだから対戦相手のことを教えてやるよ!」


 自慢げにウザい感じで説明を行う。古貞はいらつきながら耳を傾ける。


「マーボーカンフーは拳法が得意でキックとヌンチャクが強力だよ。サンバクジャクはルチャリブレとカポエイラが得意で体が大きくて、パワーがありボディープレスで相手を押しつぶすぜ」

「ますます迷うな。ここの連中はどうやって決めてんだ?」


 話だけだとどちらも互角の強さなので迷い、観客達の決め方を参考にする。


「ここの連中は格闘技に詳しいやつより好色なのが多いから顔と体、人気で選んでるな。まあそれぞれ好みで決めてるな」

「競馬か推しメンのような決め方だな」


 格闘技もへったくれもないゲスな決め方に呆れたが参考にし、古貞は巨大モニターに映っている選手の顔を見た。

 マーボーカンフーは長い黒髪のポニーテールで凛とした美女。サンバクジャクは青い覆面をしており顔が見えず長い銀髪しか分からない。


「サンバクジャク、覆面で顔が分からねえな。まっ、こういうのはハマると大変だから適当にマーボーカンフーにしとくか」


 ギャンブルは真剣になりすぎると依存し破滅するので後腐れがない遊び感覚で顔が見える美女を選んだ。


「決まったら売り子ロボットに金を入れて賭ける選手のカードを買って!」

「分かった。おーい! きてくれ!」


 古貞は軽食や飲み物を売るロボットを呼び、財布から千円札を出した。


「千円札だけって、しけてるなあ」


 少ない金を見て、ピエロは笑ってバカにした。


「うるせえな! 初めてのギャンブルで大金なんて払えるか! それにおれからしたら千円は大金だ!」


 怒鳴りながら売り子ロボットに金を入れた。


「悪かったよ。マーボーカンフーは青コーナーだから青のカードを買えばいい。間違えるなよ」

「そうか。マーボーカンフーに賭けるから青のカードをくれ」


 売り子ロボットは青のカードを出し、少年はカードを取った。観客達もあちこちで売り子ロボットからカードを取っている。


「賭けたからには勝ちたいな。千円払って、ゲーセンで百円払って出費ばかりだ」


 青いカードを見て、財布の中身を見て古貞は嘆いた。


「あんた、つぶれた地下ゲーセンからきたの?」


 クラウンはバカを見るような笑みを浮かべた。


「ああ。それがどうした?」


 バカにされているのが分かり睨みつけた。


「あそこは旧式の強引な入り口で荒野のど真ん中に転送されることがあるから、だれも利用してないよ。観客達は安全な入り口を通ってきてるよ」


 他の入り口が多数あり、観客達は古貞が利用した入り口と違って地下闘技場に直接つくものできていた。


「そんなの知らねえよ! 偶然きたようなもんだ」


 ここの観客達と違い、なにも知らないので正規ルートでくることなどできなかった。赤い糸がなかったら見つけられず、荒野のど真ん中に転送されていたら迷っていただろう。自分の幸運に救われたようなものだった。


「そうかい。ここは別の空間だから見つけるのが大変だし、話しても信じない連中が多くてばれることがない知る人ぞ知る賭場だ」


 荒唐無稽な別空間で外部にもらさない周到さがあり、くちコミで信じた者だけがこられる秘密の娯楽施設なので、ここに関する情報はほとんど出回らない。


「警察団でも見つけられねえな。それはそうと試合はそろそろ始まるのか?」


 古貞は警察団を上回る組織力とゴブリンマスクの手腕に感服しつつ、だれもいないリングを見た。


「みんなカードを買ったし、賭けも締め切ったから、そろそろ始まるぜ」


 クラウンは周りを見て、ワクワクしている。観客達は赤と青のカードを持っており、試合が始まるのを待ち、リングに視線が集まる。


「金の方はあまり期待するなよ。オッズとかがない簡単な賭け試合で勝てば賭けた金の二倍がもらえるから大金を賭けて大儲けするやつがいるぜ。あんたは千円だから二千円にしかならない」


 素人でも分かりやすい二者択一の賭け試合で当たれば大きく負ければ金なし。


「二千円でもいいよ」


 金が増えるのなら文句はなく、その説明を聞いていたとしてもギャンブルは好きじゃないので大金を賭けるようなことはしない。観客達と違い、気楽に観る感じで背もたれに寄りかかった。


「おっ! 始まるぞ!」


 見慣れているクラウンは直感で分かり、さらにワクワクする。


『赤コーナー!! 美しく舞う覆面の孔雀 サンバクジャクー!!』


 選手紹介とともに軽快な音楽が流れ、赤コーナー側の床に穴ができ、人がせりあがってきた。

 対戦表と同じ青い覆面と長い銀髪。

 孔雀の羽のような鮮やかで派手なサンバ衣装でたくましい豊満な体つき、青いリングシューズを履いた美女が音楽に合わせて軽快に踊っている。

 観客達は踊りを観て喜び、興奮し指笛を吹いた。まだ試合が始まっていないのに、すごい盛りあがりなので古貞はノリについていけない。

 音楽が止まるとサンバクジャクは踊るのをやめ、仁王立ちをした。


『青コーナー!! 刺激的な赤いヌンチャク龍 マーボーカンフー!!』


 同じような選手紹介だが、音楽はなく青コーナー側の床に穴ができ、地味に人がせりあがってきた。

 背中に届くほどの長い黒髪のポニーテールでモニターより実物の方が美しい。

 赤いチャイナドレス姿でスリットからしなやかな脚が見え、裸足とまさに美脚。手には黒いヌンチャクを持っており、自由自在に振りまわす。

 地味な登場だったが体に当たりそうな速いヌンチャクのパフォーマンスで人々は盛りあがった。

 ポーズを決めてパフォーマンスを終えた彼女は棒立ちになって対戦相手を睨んだ。サンバクジャクも負けずに睨む。


「パフォーマンスは互角!! さすがグラディエイキャットの猛者二人!! 今日はどっちかが死ぬなあ!! どっちだろうなあ!?」


 クラウンは立ちあがって周りを盛りあげるように騒いだ。彼につられて人々は醜い獣のように叫び、下劣な言葉をまき散らし、リングにいる二人にぶつける。

 観客席はよどんだ欲望と熱気に満ちあふれ、狂気の一体感がある空気となり、まともではなかった。


(うるせえな。まるでケダモノの群れだ)


 そんな空気の中でまともなのは古貞だけで隣で騒ぐピエロや周りの観客達を不快に感じ、選手達に集中した。


(サンバクジャクの方がでかくて強そうだ。賭ける相手を間違えたな)


 自分の目で見て実力などの違いが分かり後悔したが、もう遅い。

 闘い慣れている猛者達だけあって観客達の声をあまり気にしておらず、お互い目の前の相手に集中しており、サンバクジャクからは余裕を感じる。

 そして観客達の声に負けないほどのゴングが響き、美しき闘士達は動きだした。


「さあ試合が始まったー!!」

「いよいよか」


 待っていた試合が始まり、クラウンと観客達はさらに沸き、古貞は静かに観戦する。

 マーボーカンフーは一気に近づき、しなやかな脚で蹴りまくる。サンバクジャクは防御せずに耐えており、びくともしない。


(なかなかのキックだが、しょせん見せ物のキックだな)


 素人にしてはかなりの威力だが、きれいな脚を魅せるような蹴り方でチャイナドレスのスリットも見えそうで見えないチラリズムで観客達は興奮している。

 キック攻撃がきかないことに焦り、ヌンチャクで叩きまくる。パフォーマンスの時と違い、単純な鈍器のような使い方で華麗さがない実戦向きの動きだ。


「武器の使用って反則じゃねえのか?」


 丸腰のサンバクジャクと格闘技なのに当たり前のように武器を使うマーボーカンフーを見て反則と思った。

 しかし、だれもそのことを責めず、それどころか観て楽しむ連中がいる。騒ぐだけ騒いだクラウンは席について隣の少年に説明する。


「リングに審判なんていないだろ? ここでの試合はルール無用で勝てばいいんだよ」


 リングに反則を止める審判もいなければ正々堂々という言葉もない無法地帯でこれが当たり前だった。


「それに武器を使ってもサンバクジャクにダメージを与えていないよ」


 クラウンはリングの方を指さした。ヌンチャクをものともしない相手に焦り、マーボーカンフーは必死になって叩いている。

 うっとうしくなったサンバクジャクはチョップでヌンチャクを切断するように破壊した。破壊された勢いで彼女は後ろへふっとび、仰向けに倒れた。すかさずサンバクジャクは何度も踏みつける。

 武器を失ったマーボーカンフーは体を丸めて耐えるが、体重がのっていて威力があり、ダメージを受けていく。

 そして、サンバクジャクは彼女の髪をつかんで無理やり立たせ観客達の方を向き、手を高くあげ、人差し指を立てた。

 それを見て観客達は騒ぎ、興奮した。


「おっ! 始まるぞ、サンバクジャクの十八番おはこ エロ技フルコースだ!」

「エロ技フルコース!?」


 聞き慣れない言葉に古貞は驚き、周りの熱狂ぶりでいやらしいことと理解した。

 サンバクジャクは瞬時にマーボーカンフーの両腕をつかみ、自分の両足で相手の両脚を固定し、そのまま後ろに倒れて持ちあげた。


「エロメロスペシャル!!」

「ああ!!」


 両腕と両脚を締めあげられ、体が弓なりに曲がっていき苦しんだ。しかもそれだけでなく観客達に見えるような大股開きになっており見えそうで見えない状態だった。

 観客達の視線はチャイナドレスで隠れている股間に集中しており、その視線を感じた彼女は苦悶の表情だけでなく羞恥で赤くなった。

 別方向の観客達はよく見えないので移動し、モニターを観て、彼女の恥じらう苦悶の表情を堪能する者達がいる。

 サンバクジャクも楽しんでおり十分見せつけたので素早く技を解き、次の技をかける。


「サービス恥ずかし固め!!」

「くっ!!」


 恥ずかし固めをかけられ、先ほどよりも惨めな姿になり、マーボーカンフーの顔はさらに赤くなり涙をにじませ、自分の痴態と観客達を見ないように顔を背けた。


「……技はともかく魅せるのがうまいな。お互い素人の動きじゃない実戦的かつ華がある強さで体つきも魅せて闘うには理想的だ」


 エロ技の連続で大興奮の観客達の中で古貞は呆れながら冷静に観戦し両選手の特徴を分析した。


「そりゃあそうだよ。ここの選手達はゴブリンマスクに技や魅せ方をたたきこまれたからね。彼はあらゆる格闘技に詳しくて、無駄な筋肉をつけずに女性らしさを保った強い選手を育成することができるよ」


 クラウンは誇らしげに胸をはり、自慢した。


(彼女達の技と攻撃はゴブリンマスクのものか。素人をここまで強くする知識と強さ。まだまだ健在か)


 古貞は現役を退いた悪党の手腕に感服し、改めて強敵と認識し恐れた。

 試合の方はサービスタイムが終わり、サンバクジャクは技を解いてマーボーカンフーを投げ捨てた。

 いやらしい連続技で肉体面と精神面が消耗し、ぐったりしており立つこともできたい状態。


「サンバクジャクの勝ちで賭けは負けだな」


 賭けた選手はボロボロで対戦相手は無傷と断然有利なので勝負は決まった。少年は千円しか賭けていないので悔しがっておらず彼女に大金を賭けた観客達は負傷者に鞭を打つように罵倒している。


「とどめのボディープレス!!」


 鳥が飛ぶように高くジャンプしマーボーカンフーめがけて落ちていく。落ちた瞬間、リング上に衝撃が響き、大きく揺れた。


「あれをくらったら終わりだあ!! 体はペシャンコにつぶれて内臓と血をぶちまける!!」


 人が死ぬのがうれしいのでクラウンは手を叩いて喜んだ。


「ごめんなさいね。でも死にたくないから」


 サンバクジャクは謝り上半身を起こして下を見たが、死体がないことに気づき驚いた。


「えっ!? どこ!?」


 いつもの凄惨な光景ではないので試合での余裕が薄れ、動揺していく。観客達もわけが分からず勝負の結果を待つ。

 すると彼女の背後にマーボーカンフーが現れた。


「あれ!? 生きてる!! なんで!?」


 クラウンと観客達は突然現れた女性を見て驚いた。


(姿を消すほどのスピードでかわして背後に回るとは、スピードでは彼女の方が上だったな)


 古貞は彼女の動きが見えていたので冷静だった。

 サンバクジャクは背後に立っている対戦相手に気づき、立ちあがって振り向こうとしたが彼女のキックが速かった。


丸焼まるやキック!!」


 燃える脚の爪先で貫くようなキックでサンバクジャクの腹部をぶち抜いた。今までの魅せるキックとは違う渾身の切り札。


「あれ?」


 痛みを感じ、貫通した脚を見て、すっとんきょうな声を出し、マヌケ面になった。そして脚の炎が体に燃え移る。


「ぎゃあー!!」


 絶叫をあげ、彼女の体は丸コゲになり消滅した。マーボーカンフーは炎が消えた脚を下ろして握り拳をあげた。


『勝者 マーボーカンフー!!』


 勝者の名が響き、観客達は叫んだ。やられっぱなしだったマーボーカンフーが無傷のサンバクジャクを一撃で倒した大逆転劇で終わった。

 マーボーカンフーに賭けた人々は喜び拍手をし、サンバクジャクに賭けた人々は彼女の死を悼む者はおらず悔しがり勝者を罵倒する。


「勝ったけど、どうやって金が二倍になるんだ?」


 古貞が周りを見ると青いカードが光り、自分のカードも光っていることに気づいた。


「おっ!? これは!?」


 青いカードは二枚の千円札になり、周りのカードは札束になっていく。


「試合終了後、賭けに勝った人のカードは二倍の現金になるんだよ。本物だから、なんの心配もないよ」

「たしかに本物のようだ」


 悪党の言うことは信用できないが、見たところニセ札ではない。


「ちなみに負けたカードは消えるから、イカサマはできないよ」


 周りを見ると赤いカードは消えていき、消える前に破いて捨てる者もいる。


「これがグラディエイキャットか」


 初めての賭け試合で勝利と恐ろしさを味わい、二枚の千円札で扇いだ。


「もう分かったから、ひとりで楽しめるだろ? おれはちょっと用事があるからいくぜ」


 十分説明したクラウンは立ちあがった。


「ああ、ありがとよ」


 悪党だが、彼の説明で大体分かったので、お礼を言った。ピエロは去り、少年は残って賭けを続ける。

 クラウンは出入り口のあたりで古貞を見て不気味に笑い、透明になって姿を消した。

 



 主催者があまり儲からない賭け試合だが、ゴブリンマスクにとっては趣味であり、別の利益がある。

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