第7話 女闘士育成
鮎美とゴブリンマスクのスパーリング回。さゆりの特訓と同じだが、こちらは短時間。
◇
さらわれて一日目の朝。
「んん……?」
拘束状態で眠っていた鮎美は体が少し揺れたことで目を覚ました。両腕と両脚が動かないので首を動かして周りを見ると場所が変わっていた。
筋肉ムキムキのアームに両腕と両脚をつかまれて運ばれている。
「どこへつれていく気!?」
抵抗してもびくともせず叫んでも止まらない。抵抗虚しく終着点が分からないので不安が募る。そして部屋が見え、自動ドアが開き、そこへ運ばれたので恐怖が増し、ひきつった表情を浮かべた。
部屋の中央には金網のリングがあり、ゴブリンマスクが金網に寄りかかっている。四本のアームは鮎美をリングの上まで運び、ゆっくり下ろしていく。
「うっ!!」
背中をリングに押しつけられ、大の字にされた。動くことができない少女はゴブリンマスクを睨むことしかできない。
余裕のゴブリンマスクが金網から離れると四本のアームは彼女をはなし、手を振って戻っていった。
「ここは?」
自由になったので立ちあがって周りを見た。
「ここはスパーリング場だ!!」
男は両手を広げて自慢するように叫んだ。
「スパーリング場!?」
グラディエイキャットのリングとほぼ同じ設備に驚き、かすかな異臭と血痕に気づき、顔をしかめた。
「素人をいきなり闘わせるわけがないだろ。ここでおれが直々に鍛えて選手にしてからグラディエイキャットに出してんだよ」
捕えられた美女達はこの男と闘うという地獄を味わっていた。異臭は恐怖による失禁、嘔吐。血痕は凄惨なスパーリングによって流れたものだろう。
「元格闘家で引退後はコーチをしていたが、やりすぎて有望な若者を何人もやっちまって警察団に追われるようになり地下へ逃げた。けど、おれが鍛えれば、どんな女も優秀な格闘家になるぜ」
自分の経歴と汚点を自慢する。
「まっ! 今もやりすぎて死んじまうやつらがいるけどな!」
軽い感じでリングの外にあるふたつの麻袋を見て笑った。鮎美がくる前に二人がスパーリングで命を落とした。
それを知って鮎美は怒りと恐怖が混ざった。彼女達の仇を討てるか選手になるか分からない。
「お前は団員だから壊れにくくて期待できそうだ」
指を鳴らしてやる気満々。素人を優秀な格闘家にできるので鮎美ならとんでもない格闘家になる可能性が高く、彼のしごきに耐えられるだろう。
(こいつを倒せば、みんなを解放できる。がんばらないと!)
やばい賭け試合の主催者を倒すチャンスなので少女は静かな闘志を燃やす。
「それじゃあ始めようぜ!!」
元格闘家だけあって好戦的でスパーリングは現役時代を思いだし、闘志をむきだしにして筋肉を見せるポーズをとった。
「ここで仕留めてやるわ!!」
少女はスパーリングではなく本気でゴブリンマスクを殺そうとしており構えた。対峙する二人の闘志に反応し自動でゴングが鳴り響いた。
開始と同時に鮎美は走って勢いよく跳び、飛び蹴りを放つ。超低空飛行のようにまっすぐ飛び、ゴブリンマスクのふくよかな腹に直撃した。
「いいキックだ! 今までのやつらとは違うって感じだ!」
しかし、くらった相手はまったくきいておらず、その場から動いていない。飛び蹴りの威力に喜び、彼女への期待が高まっていく。
「かたい!」
足で感じた腹の感触に驚き、慌てて離れた。筋肉のような分厚い贅肉で柔らかさがありつつ頑丈でダメージを吸収し攻撃に耐えることができる。
「さあ!! スパーリングだから、どんどん攻撃してこい!!」
ゴブリンマスクは両手で手招きをして挑発する。
鮎美は攻撃を再開し、相手に近づいて殴りまくる。いくら殴っても肉がへこんで戻るだけでびくともしない。殴りながら下半身を蹴りまくるが余裕の表情。
「このっ!!」
勢いをつけて殴りかかろうとするも腕の一振りをくらって金網までふっとび、うつぶせに倒れた。すかさずゴブリンマスクは跳び、ボディープレスをしかける。鮎美は素早く転がってかわし、ボディープレスは決まらなかった。
そして起きあがれないように背中に乗って殴りまくり、顔をつかんで床にたたきつける。
「いいぞ、いいぞ!!」
それでも彼は余裕でパワーと体格で強引に起きあがり、鮎美をどかした。少女はすぐに立ちあがって構え、ゴブリンマスクは襲いかかる。
そんな相手をすり抜けるような動きでかわして背後に回り、尻を蹴る。方向を変えて向かってきても同じように背後に回って攻撃をくり返す。パワーや取っ組み合いでは勝てないと判断し真っ向勝負を避けて闘う。
「そんな攻撃じゃ、おれは倒せないぞ!!」
方向を変えるとともに腕を振って背後にいる鮎美を狙う。彼女は素早くかわして高くジャンプをした。
「滞空天!!」
両手を広げて回転し、ゴブリンマスクめがけて降下する。
「どおっ!!」
切断とまではいかなかったが、分厚い肉の壁である腹を切り裂いた。ようやく傷をつけるも鮎美は喜ばない。
出血が少ない傷に触れ、手についた血を見た。
「自分の血を見たのは久しぶりだな。現役時代を思いだして、ますます楽しくなって今までのつまらないスパーリングがふっとぶぜ!! やっぱり、お前は最高だ!!」
血で興奮しつつ自分に傷をつけた少女に敬意を払い喜んだ。
「今日は五時間ぶっ続けでやるか!!」
本気を出すように体中から力をあふれさせ、筋肉は膨れあがり、怪物のような白い歯をむきだし狂喜の笑みを浮かべた。
「今度こそ!!」
鮎美は恐れず高く跳んだ。
「滞空脚!!」
両手を広げて回転し、ゴブリンマスクに向かっていき、蹴りを放つ。
「毒霧炎!!」
敵は口から血のような赤い液体を霧状に噴射した。
「ぎゃあー!!」
それを浴びた鮎美は絶叫し回転は止まり、バランスを崩して、うつぶせに倒れた。彼女の体は焼けただれており、こげ臭い煙が立ちのぼっている。
「あつい……!」
なかなか起きあがれず、火であぶられたような熱さに苦しむ。
「火がつくほどの唐辛子を使った特製の毒霧だ。きくだろ?」
怪物が火を吐くような勢いの攻撃的な毒霧で盗賊ギャルの捕獲用とは威力が違う。
「おら、おら!! どうした!?」
ゴブリンマスクは鮎美に近づき、自分の体重をのせた足で踏みつけるように蹴り続ける。軽めなようで威力があり、靴底の突起がくいこむように刺さって痛みを与える。
「ううっ!!」
起きあがろうとしても踏みつけてくるので頭をあげることすら難しい。
「まだ終わりじゃないぞ、鮎美!!」
彼女の髪をつかんで引っぱり無理やり立たせた。
「くう!」
髪どころか頭皮まではがれそうな痛みを感じ、ゴブリンマスクの手をつかみ、爪を突きたてて睨んだ。立たされたおかげで両脚に力をいれて立つことができ、まだ闘える。
「いい目だ!! そうこなきゃな!!」
闘志が衰えない少女の瞳を見て子供のようにはしゃぎ、頭を揺らした。
「あう! くう!」
揺らされたことでさらに痛がり、相手の下半身を無意味に蹴る。
「楽しいな~!!」
ゴブリンマスクは彼女とのスパーリングを楽しんでおり、まだまだ続く。
◇
五時間後。スパーリングの終了を告げるようにゴングが鳴った。
「よく闘った!! たいしたもんだぜ!!」
休憩なしで五時間、殺し合いに近いスパーリングをこなし、なんとか立っている少女を見て拍手をした。
(いくら体力に自信がある私でもやばいわ……)
若さと体力がある鮎美は汗まみれで喉の渇きが凄まじく、闘う体力は尽きた。ゴブリンマスクの方も汗まみれだが、余裕があり、さわやかな感じで立っており現役を退いて落ちぶれた格闘家とは思えない。
「ふう、いい運動になったぜ」
ゴブリンマスクは金網にかけてある派手なタオルを取って汗を拭き、スクイズボトルのスポーツ飲料を飲んだ。
うまそうに水分補給をする姿を見て鮎美は喉を鳴らした。
「よし! 治った!」
飲み終えると鮎美がつけた傷は治り、筋肉と体に活力が戻り、躍動している。彼が飲んだのは回復効果があるもので受けたダメージは回復し、消耗した体力はスパーリング前の状態になった。
「今日は他のやつもやるから、お前はこれで終わりだ」
スパーリングが終わった瞬間、少女は疲労でよろけるが堪えた。そして四本の筋肉アームが伸びてきて、鮎美の両腕と両脚をつかんだ。
「あっ!? なにを!?」
抵抗する力などなく捕われた少女は天井近くまで持ちあげられた。
「きた時と同じように運ぶだけだ。楽でいいだろ?」
見上げているゴブリンマスクの言う通り自分で歩くより楽で力強いアームに体を任せてしまう。
「明日お前を試合に出すから、ゆっくり休んでおけ」
「なっ!? 明日!? 早すぎるでしょ!!」
急すぎるデビュー戦に驚き、鮎美は下を向いて大声を絞りだした。
「もう決めたことだ。それにお前の実力なら当然で今日出したいくらいだったんだぞ」
決定事項で彼に逆らえない状態なので少女は悔しそうに歯を食いしばって睨んだ。そして四本のアームはゆっくり動き、彼女を運んでいく。
「明日が楽しみだぜ」
鮎美のデビュー戦に期待を膨らませて笑い、次の相手がくるのを待つ。
ゴブリンマスクは格闘の知識が豊富で打たれ強い体に炎のような熱い毒霧があり、強力な能力がなく素手の鮎美では勝てない。
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