第6話 グラディエイキャット
敵のボス登場回。
◇
「んん……」
毒が薄れ、鮎美は重いまぶたを開ける。日光とは違うまぶしい光が目に差しこみ、苦悶の表情を浮かべた。
「ここは?」
目が慣れて周りを見ると見たことがない場所で彼女は呆然としてしまった。
「あっ」
体を動かそうとするが両腕と両脚を筋肉ムキムキの人間の腕のようなアームがつかんでおり、X字の状態で動けない。
彼女の力ではいくら引っぱってもびくともせず、動けない恐怖で心細くなった。それでも冷静に周りを見て調べる。
「えっ!? 女の人?」
自分と同じように拘束されている女性達を見つけ、ますますどういう状況か分からなくなった。両側と反対側におり、美女ばかりで露出が多く、動きやすい水着のような姿できれいに並んでいた。
「あの、ちょっと」
とりあえず声をかけるが、だれも反応せず寂しさと不安が増した。皆ぐったりしており、疲労がにじみでている表情で汗とよだれがたれている者もいる。
「どうなってるの?」
唯一動く首を動かして、さらに周りを見ると大きくて豪華な椅子があり、だれかが座っていることに気づいた。
「ようこそ、篠原 鮎美ちゃん」
男の声とともに椅子が動き、座っている人物が見えた。緑の覆面を着用していて顔は分からず上半身は裸の肥満体型。下半身は緑のタイツとリングシューズで靴底に針のような突起が無数にある。
「何者!?」
今まで見たことがない醜い怪物のような男に怯みつつも毅然とした態度で言葉をぶつけた。
「おれはゴブリンマスク。グラディエイキャットの主催者だ」
自慢するように堂々と言った。
「グラディエイキャット?」
聞いたことがない言葉に困惑し首を傾げた。
「こういうものだよ」
説明せずに椅子の肘掛けにある操作パネルをいじって巨大モニターに映像を出した。
「これは!?」
鮎美は映像を見て驚き固まった。その映像は二人の美女が逃げ場のない檻のような金網のリングで激しく、華麗にえろく闘っているものだった。
観客達も映っており、迫力がある試合でモニターから熱気が伝わるほどで少女も目を離さない。
「キャットファイト。非合法な見せ物の賭け試合ね」
楽しんで観ておらず冷静に視覚情報を集めて理解した。
「理解するのが早いな。大抵の女はこの状況だと理解するのに時間がかかるが、さすが団員。その通り、ここは美女達をガチで闘わせて金を賭ける闘技場だ」
ゴブリンマスクは理解が早い鮎美を褒めて笑った。褒められてもうれしくないので少女は拳を力強く握って睨んだ。
「お前をつれてきたのは選手として出すためだ」
「ええっ!?」
賭け試合に放りこまれることになり、動けない鮎美は驚くことしかできない。
「毒霧にやられたが、盗賊ギャルを圧倒した強さ。お前ならここのスターになれるぜ」
「くっ!」
クラウンから闘いのことを聞いており笑いながら彼女を評価し、悪党に利用されるので少女は凛とした悔しそうな表情を浮かべ、歯を食いしばった。その姿は囚われの女騎士そのものだった。
◇
同じ頃、古貞の部屋。
「んん……」
鮎美が目覚めたように盗賊ギャルも目覚めた。死にかけていたが、なんの問題もなく生き返ったように顔色がよく体を動かそうとした。
「な、なにこれ!!」
体が動かないことに気づき、見てみると彼女はサンドバッグに縛られていた。能力を封じる丈夫な拘束ワイヤーなので彼女の力では切れず、いくらもがいてもサンドバッグが揺れるだけ。
「う、腕が!? ある、よかったあ……」
片腕があることに気づき、ちゃんと動くので安心した。
「おれが治したからな」
彼女の目の前に現れ、悪そうな笑みを浮かべた。
「あっ、あんただれ!? ここどこ!? これをほどいてよ!?」
命の恩人だが、そんなことなど知らず盗賊ギャルは喚いて体を揺らす。耳障りな声なのでいらつき、笑みは消えた。
「うるせえな!! 静かにしろ!!」
「ひっ!!」
少し怒鳴ったら、びびって静かになった。
「ここは高山奇第三基地だ。死にかけてたおめえをおれが助けて、ここまで運んだんだよ。つまりおれは命の恩人だ。だからおれの質問に答えてもらうぜ」
恩着せがましい冷徹でドスのきいた声で話す。盗賊ギャルは命の恩人と分かっても恐怖で礼が言えない。
「答えなけりゃサンドバッグみてえに殴って吐かせるからな」
「話す! 私が知ってることならなんでも話すから殴らないで!!」
ボクシングのように軽快に拳を動かして脅すと、おびえきった彼女は恥も外聞もなく泣きだし、何回も必死にうなずいた。
「簡単にしゃべるとは」
古貞は拍子抜けし呆れた。
「だって私は被害者だもん」
涙で歪んだ情けない表情はとても警察団員達をたたきのめした少女とは思えない。
「被害者? そういえばお前、行方不明者リストにのってたな。なにもんなんだ?」
リストを詳しく調べれば分かるが本人の口から聞いた方が早いので質問する。
「私の名前は友坂 楓。朱鷺世の高校生で今は盗賊ギャルっていうリングネームで呼ばれているわ」
殴られるのが嫌なので必死の形相で包み隠さず分かりやすく話した。
「リングネーム? 格闘家かなにかなのか?」
予想外の言葉が出たので首を傾げた。
「私はグラディエイキャットの選手だったわ」
少年の脅しとは違う恐怖を思いだし真っ青になったが、口を止めない。
「グラなんとかの選手ってなんだ?」
分からない言葉が出てきたので、そこを聞くことにした。
「伊仙奇の地下闘技場でやってる美女同士の非合法賭け試合だよ。私はそこの選手で毎日辛い試合をしていたわ」
悲痛な彼女の説明を聞いて、さすがの古貞も驚いた。
「おれの故郷に、んなもんがあるとは」
自分の故郷で非合法な賭け試合が行われていることなど初耳だった。高山奇にくる前は伊仙奇にいたが、そんな情報などなかった。
「どういうところか教えろ」
この調子なら全部話しそうなのでグラディエイキャットについて吐かせる。
「主催者はゴブリンマスクっていうやつで皇東各地の美女をさらって試合に出して稼いでいるわ」
今までの恐怖やストレスをぶちまけるように洗いざらい話す。
「美女達の神隠しはそういうことか」
盗賊ギャルの説明ですべてがつながり、真実が分かって納得した。
「親とケンカして家出した私もさらわれて選手として鍛えられて何度も死にそうになり試合も過激でガチで生き残るために相手を殺したりして本当の地獄だったわ」
凄惨なところだということは彼女の説明と表情で伝わった。
「じゃあなんで、ここで暴れたんだ?」
地下闘技場で稼ぐのが彼女の仕事なのに本拠地ではない高山奇にいる理由が分からないので聞く。
「実力不足で人を殺すのに耐えられなくなって試合で使えなくなったから捕獲要員にされたのよ」
ヘタレの彼女では稼げるほど強くなれないが、一般人よりは強いので美女を生け捕りにすることはできる。
「なるほど」
古貞は人の使い分けがうまい敵に感心してしまった。
「もっと役に立たない女は記憶を消されて、どこかに捨てられるわ。グラビアアイドルをこのへんに捨てたから、その代わりになる美女を捕えるためにここにいたのよ」
記憶を消して証拠もなにも残さない周到さ。ますます侮れない相手で昨日のグラビアアイドルを一瞬思いだし、鮎美の顔が浮かんだ。
「それじゃあ鮎美は」
「別の捕獲要員が地下闘技場へつれていったわ。グラディエイキャットの選手にするために」
他の美女達と同じように捕まり、利用されようとしている。
(彼女なら耐えられそうだが、そんなところに置いとくわけにはいかねえな。伊仙奇は故郷でそんなに遠くねえし助けにいくか)
少年はあまり心配していないが、放置するわけにもいかないので助けにいくことにした。
「地下闘技場はどこにあるんだ?」
場所が分からないので元選手に聞く。
「私は伊仙奇の出身じゃないから詳しい場所は分からないけど伊仙奇の地下だよ」
元選手でも場所はあまり詳しくなく、当たり前のことを言った。
「地下か」
漠然としているが、縄張りのように知っている故郷なので、いけば見つけられるかもしれない。
「じゃあ、これが最後の質問だ。ゴブリンマスクとその仲間のことを教えろ」
聞いたことがない敵なので対策のために知る必要がある。
「とにかくやばいよ! 私達を鍛えて格闘技を教えた覆面野郎で強いよ! 仲間ってほどじゃないけどクラウンっていうクソピエロと私みたいにゴブリンマスクに協力的な女達がいるわ!」
自分をこんな目にあわせた連中を売るように情報をぶちまけた。内容は薄く、とにかくやばい相手だということは伝わった。
「おお、ありがとう」
その剣幕に押され、古貞は情報提供に感謝し質問をやめて離れた。
「ねえ私はどうなるの?」
殴られなかったことに安心しつつ盗賊ギャルは媚びるように笑い、自分の処遇を聞く。裏切り者は殺される。どこの世界でもある常識で、このままでは殺されるだろう。
「安心しろ。お前は警察団に引き渡すから安全だ」
「えっ!? なんで警察団に!? 私ちゃんと話したよ!!」
情報を提供したのに警察団送りにされるのでうろたえて喚き、体を必死に揺らした。
「ゴブリンマスクを恐れてしかたなく従っていたとはいえ悪党に協力して美女をさらい、殺したんだから罪を償え」
十分情報を聞き、面倒になったので彼女の処遇は警察団に任せることにし鮎美救出に専念する。
「そんな」
いい待遇を期待していたのに犯罪者扱いなので絶望した。
「嫌なんか?」
冷徹でドスのきいた声とともにパンチを打つ動きを見せて脅す。
「……いえ」
少女はおびえ、殺されるよりはマシと考え、うつむいて静かになった。
(待ってろよ、鮎美!!)
仲間を助けるための冒険が始まった。
今回のボスキャラ ゴブリンマスク。どれほどの実力か。
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