第2話 白百合の美女
白い百合のようなヒロイン登場。
◇
朝。基地へ出勤する時間だが、古貞は団員服に着替えただけで部屋から出なかった。彼の部屋は二階にあり、あまり物がなく殺風景で床はフローリングでカーペットが敷いてある。
「昨日の今日でいくのは、やめておこう。あいつらになにをされるか分からねえ」
三人を挑発してしまったのでいきにくい。
「古貞!! 基地へいく時間よ!!」
心配した母親がドアをノックした。
「今日は自宅で仕事をするからいかなくていいんだよ!!」
ドアを開けずに大声で言った。
「そうなの? 私、仕事のこと、よく知らないから。じゃあ昼食の準備をしておくね」
母は部屋から離れていき、階段を下りた。
「今の時代、嫌な職場へいって仕事をする必要はねえ。自宅からでも仕事はできる」
古貞はノートパソコンを動かした。基地のパソコンにつながり、働いている人達が見える。当然、彼の顔も映っているが無視されている。
(自宅で忙しく働いてるやつらを見るのは気分がいいな)
パソコンを操作し周りを見て、かすかに笑っていると、だれかが席についた。
「ヤッホー! 岡ちゃん!」
親しみやすい明るい声と笑顔が画面をふさいだ。ピンクのショートで茶色の瞳の少女。青いレオタードに着脱可能なスカートなどをつけた団員服姿で丈が短い黒のブーツを履いており白い美脚が目立つ。
「稲子」
突然だったので少し驚いたが、声と顔ですぐに分かり素っ気ない表情になった。
「今日は基地にこないの? 自宅で仕事?」
馴れ馴れしく話しかけてくる。
「ああ。昨日あの三人に歯向かって殴られたからな。びびってないけど自分の身を守るために自宅で仕事だ」
殴られたことを思いだし、治っている顔面をさすった。
「岡ちゃんって、ほんと他の人達と違うね。この基地のエース三人に逆らうなんて。バカなの? 秀羽は伊仙奇の名家 華院家の御曹司で重月は第四基地最強の実力者、凪はその二人に取り入る宣伝部長だよ」
彼女の言う通り自分でもバカだと思っている。いくら逆らっても実力の差などがあり意味がない。それでも他の連中のように屈するのは嫌だった。
「稲子だってそうだろ?」
「私は渋香保の商人の娘で、けっこう対等だし岡ちゃんと違って、うまく立ち回ってるからだいじょうぶだよ」
余裕の笑みを浮かべた。商人の娘というだけでなく優秀な友達が多く、人気があり、実力では秀羽達に勝てないが、カースト上位なのは間違いない。
「殴られるのはいつものことだけど、ちょっとかわいそうだね」
稲子はあまり同情していない。他のやつらのように嫌なやつではないが、弱い者が悪いという考えなので積極的に助けたりしない。
「これ見て元気を出して仕事がんばって」
団員服の肩部分をずらして片方の乳房を見せ、からかうように笑い舌を出した。
「またか! 周りに人がいるだろ!」
驚いて目をそらしつつ男の本能には逆らえず乳房を見た。周りにばれないように見せており、古貞にしか見えていない。
「稲子。そんなのと話す価値ないでしょ?」
後ろから同僚の少女団員が声をかけたので稲子は慌てて乳房をしまった。
「仕事で話してるだけだから」
振り向いて微笑む。彼女は分け隔てなく仕事だから、だれとでも気さくに話しているだけ。少年はそんなことなど分かっていた。
「稲子はすごいわね。そんなキモデブと話せるなんて」
同僚の少女団員は汚物を見るような目をパソコンの画面に向けていた。むかついたので睨むとそっぽを向いた。
「それじゃあ岡ちゃん、仕事がんばってね」
立ちあがって笑顔で手を振り同僚とともに離れていった。
(おれと話しても人気が下がらず、むしろ上がる。秀羽達とは違うカースト上位だな。あいつらだと、おれを殴って人気が上がるからな)
他と比べると稲子に悪い印象はなく、ある意味特別だった。彼女がいなくなった後、古貞はパソコンを動かして周りを見た。無視しており、だれも話しかけてこないので仕事ができる感じではなかった。
(稲子がいねえとスムーズに仕事ができねえな)
彼は弱いが戦闘タイプなので、できる仕事が少ない。
「哨戒にいこう」
パソコンを消し、腰に刀をさげて部屋を出た。階段を下りて玄関へ向かう途中、母が現れた。
「どうしたの? 部屋で仕事をするんじゃなかったの?」
「哨戒にいくんだよ。部屋というより自宅で仕事。職場にいかねえから、なにも間違ってねえよ」
できる仕事がないとは言えなかった。
「そう。気をつけてね」
「お昼ぐらいにけえってくるよ」
古貞は玄関でブーツを履き、外へ出た。哨戒は慣れており、街や畑などを回っていき、公園のベンチに座り水分補給をして時間を潰す。
◇
伊仙奇第四基地。害虫退治を終えた秀羽達が意気揚々と戻ってきた。重月と凪だけでなく取り巻きもおり、エース率いるカースト上位部隊だった。
秀羽が皆を引っぱるように先頭を歩き、重月は両手に二人の少女を抱いており、凪は楽しそうに友達と話していた。
「エースのご帰還だ」
稲子は秀羽がきたことに気づき、受付の席へ移動した。
「また大活躍したようね」
「ああ。おれが率いるグループは無敵だ」
笑顔で応対すると秀羽は眼鏡を光らせて自慢する。彼が細かく報告し取り巻きが証言するの、くり返しで盤石な地位を築いていた。
さらに凪達が活躍を拡散するので秀羽グループは皆から尊敬されており、この基地の最大勢力になっている。
「そういえば今日なにか物足りないと思ったら古貞がいなかったな」
後ろで女の子達と戯れていた重月が皆に話しかけた。
「たしかにあのデブの無様な姿を見てないわ」
凪達は昨日だけでなく今までの古貞の醜態を思いだして笑った。
「昨日の今日だ。基地にきたくてもこれないだろう。まあいてもいなくてもいいやつだ」
古貞のことをどうでもいいと思っており眼鏡に手を添える。
「でも、あいつはいい肉のサンドバッグだぜ。殴らないと、おれのストレスがたまって困っちまう」
重月は指を鳴らし、殴る動作をした。
「重月、かっこいいー!!」
黄色い声援で上機嫌になり、近くにいた陰キャの少年を軽く殴った。
「痛いなあ。なんで殴るんだよ?」
少年は殴られた顔を押さえて弱々しく重月を睨んだ。
「古貞の代わりだ。文句あるのか?」
「ないよ」
ドスのきいた声で逆らう気がなくなり顔を背けた。彼は勝ち馬に乗る陰キャで、この中では立場が低い。
「岡ちゃん、基地にきてないけど遠隔で仕事をしてるよ」
少年の味方というわけでもないので話した。
「姑息だが考えたな」
秀羽は貶すと同時に褒めた。
「それだと古貞がこなくなるかもしれないな」
殴ることができなくなるので重月は残念そうな顔をした。
「それはない。やつはザコだが戦闘タイプ。基地にこなければ仕事にならないから、いずれくる」
「そうか!」
冷静な分析を聞いて重月は安心した。
「そういえば繭林から偉大な先輩がきたそうだね」
古貞のことはどうでもよく話を変えた。
「うん、朱鷺世へ異動する先輩。今はどこかへいってていないよ」
基地にいた稲子は知っており秀羽に教えた。
「いないのか。おれ達の勇姿を見せられないのが残念だ。おれ達がいれば上馬は安泰だ。だろう、みんな!!」
自慢のグループを見て声をかける。
「おう!! もちろん!!」
自信満々の重月は叫び、他の連中も自信に満ちた表情を浮かべた。
(この基地でこいつらに勝てる人なんていないから増長するのはしょうがないね。こいつらより上の人は伊仙奇の外にたくさんいる)
稲子は秀羽達を見て呆れているが、自分の立場が悪くなるようなことは言わない。周りの団員達は尊敬する者や妬む者、稲子のようによく思っていない者や甘い汁を吸いたい者などがおり、エース達を見ている。
(それにしてもどこへいったんだろう?)
基地にいない先輩のことが気になっていた。
◇
「今日は平和だ」
哨戒を終えた古貞は昼食をとり、自分の部屋でベッドに座ってマンガを読んでいる。パソコンは切ってあり、今の姿を基地の連中に見られることはない。
彼は秀羽達が通らないルートを哨戒していたので無事に街を回ることができた。
「今のところ哨戒くらいしかできないな」
マンガを読んでいたが、頭に内容は入っておらず少し深刻な表情を浮かべている。
「あいつらなんか怖くねえけど、また仕事ができないことを責められるのはな」
古貞はマンガを閉じ、ベッドに置いて考える。その時、ノックをする音が聞こえたのでドアを見た。
「母さん?」
「お母さんじゃないよ」
母親だと思ったが、まったく違う女性の声だったので警戒する。
「だれだ!? 母さんはどうした!?」
知らない女性を恐れずに立ちあがって刀を取り、ドアに向かって叫ぶ。
「お母さんが快く入れてくれたわ。だから怪しい者じゃないよ」
少年は油断せずに警戒を緩める。
「どうぞ」
「お邪魔します」
女性は礼儀正しく、お茶目な感じでドアを開けて中へ入った。若い女性で紺碧のシニヨン、黒い瞳とあまり目立たない淡白な美貌。黒いレオタードに着脱可能なスカートなどをつけた団員服姿で腰に刀があり裸足だった。
「だれだ、あんた?」
母の知り合いにしては若く、知らない女性なので睨み刀に手をかける。自分より強い相手なのは分かっており、いつでも抜けるようにしていた。
「私の名前は船津 さゆり。繭林団の元指揮官よ。これが身分証明書」
刀のことなど気にせずに微笑んで自己紹介をし、身分証明書を出して見せた。敵意をまったく感じず偽造ではないので手を刀からはなした。
「そんな大物がなんでおれんちにいるのですか?」
年齢と階級が上なので敬語で話すが、態度が少し悪い。
「私は朱鷺世へ異動するんだけど、まだ時間があるから伊仙奇第四基地に寄ったのよ。そして名尻指揮官から遠隔で仕事をしてる落ちこぼれがひとりいると聞いて、ここへきたのよ」
彼女の目は蔑むものではなく慈愛に満ちつつ、お茶目な感じの軽さがある。相手にプレッシャーをかけず信頼させる目だった。
「それでなにをしにきたのですか、船津指揮官?」
名尻指揮官とは正反対で意図が分からない。
「さゆりって呼んで。ちゃんづけだともっとうれしいわ」
本気で言っているので白けそうになった。
「では、さゆりさん。なにをしにきたのですか? 見ての通り、ここは落ちこぼれ団員の部屋であなたがくるようなところではありません」
古貞は両手を広げて部屋をアピールする。彼女はまっすぐ少年だけを見ていた。
「ひとりだけ遠隔で仕事をしてるのが気になって話をしにきたんだよ」
まっすぐな瞳と彼女の姿がまぶしかった。
「いくら払えばいいのですか?」
「タダだよ。お金を取るわけないでしょ」
さゆりは少し不機嫌になった。
「さゆりさんのような美女がタダでおれと話してくれるんですか?」
「そうだよ」
年上の余裕があるが少し照れて笑っていた。
「さあ座って話しましょう」
自分の部屋のように少年を座らせる。古貞は座布団に座り、さゆりは座布団を取り、置いて座った。
「さて名尻指揮官の話だと君はあまり職場でうまくいってないそうだね」
彼を落ちこぼれ扱いする指揮官の話で大体分かっていた。
「まあ仕事ができない落ちこぼれなのは本当ですよ。あの基地で害虫を倒せないのは、おれぐらいで周りにバカにされてもしょうがないです」
古貞は落ちこぼれなのを認めており、気にしていなかった。
「さゆりさんはそんな基地へいって仕事をした方がいいというタイプですか?」
彼女を試すように鋭い目つきで睨む。
「今の時代、自宅で仕事をする人だっているから、そんなことは言わないよ。でも限界があるから、このままではいけないと思うわ」
さゆりが言うことも正しい。
「今より強くなれば基地で仕事ができるのですが。そう簡単に強くなれるわけがない」
自分のたるんだ体を見て笑う。心では秀羽達に屈していないが、弱いのが問題なので強くなれば戦闘で役に立ち解決する。
「簡単じゃないけど強くなれるよ。しかも時間がかからない」
ウソを言っている感じではなかった。
「本当ですか? 本当なら、おれを強くしてくださいよ」
夢のような話なので、あまり信じておらず軽い気持ちで言ってしまった。
「それじゃあ私のお腹に触って」
立ちあがって、お腹をアピールする。
「お腹に手? なぜです?」
古貞は首を傾げた。
「いいから」
さゆりは理由を言わずに無駄な脂肪がないお腹を近づける。
「分かりました」
おそるおそる手を伸ばして触れる。しかし、お腹に穴があき、彼の手は入ってしまった。
「な、なんだ!?」
少年は驚いて手を抜こうとするが、穴に吸いこまれており抜けなかった。
「うっ! ん!! ううっ!!」
彼女は顔を赤くし白目をむきながら苦しんでいる。手は吸いこまれ、穴は広がり古貞の体は入っていく。抵抗しても意味がなく少年の体はすべて入り、同時に穴は消えた。
「ふう」
汗を流した真っ赤な顔で倒れるように座布団に座った。
「がんばってね、古貞君」
慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、お腹をなでる。
次は主人公強化チュートリアル。
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