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第14話 一人前

 アネモウネとの再戦。

 ◇


 通路を出ると館の中だった。庭園ほどではないが暗くて不気味な植物だらけだった。ここの植物は襲ってこないので難なく奥へ進める。

 広い場所に到着し、そこにはいつもと同じ姿のアネモウネがいた。さらに葉がないのに枯れていない大樹が生えていた。その大樹をよく見ると眠っているような裸体の美女の姿があった。


「なんだ、この世界樹のような樹は? 精霊みたいな女もいる」

「精霊だなんて、うれしいことを言うわね」


 アネモウネは喜び、ポーズをとった。


「てめえじゃねえよ!! 樹の方だ!!」


 古貞はツッコミをいれた。


「冗談よ。あんたほどの相手は母の前で栄養にしてあげるわ」

「母だと? まさか、その女」


 稲子の情報と違い動揺した。


「母のかつら 樹里じゅりだよ」


 艶めかしく大樹の女性部分に抱きつく。


「どうなってんだよ」


 混乱している少年に説明する。


「十年前、父が亡くなって落ちぶれ、母ではどうすることもできずショックと現実逃避で樹になったのよ。それから花園館は植物が繁栄するようになったわ。ガーデニングが趣味だったから樹になったことで植物を成長させる力を発揮したのかな?」


 母親が樹になったことはどうでもいい感じで今を楽しんでおり、笑みを浮かべて樹里の頬を舐めた。


「母親は死んでなかったが同じか」


 おぞましい家族を見て気分が悪くなった。


「母がこんなになって、ベジカラフルは肉食野菜を育てて上馬を支配し家を再興しようとしていたけど、私はそんなことどうでもよくて自分の好きなようにやりたいから仲が悪くなったわ」


 笑いながら話し、母親から離れた。二人が組んでいたら、やばかったかもしれないので恐怖を感じた。


「これ以上、好きにはさせねえ。ここで倒す!!」


 自分の不幸を楽しみ、好き勝手に命を奪った彼女に同情の余地はないので古貞は刀を抜いた。


「いいわあ!! 興奮してきた!!」


 アネモウネは恍惚の表情を浮かべ、両方の花から蜜をたらした。


「いくぜ、アネモウネ!!」

「きなさい!!」


 片手をチュパカズラのツルに変えて、向かってくる少年を攻撃する。ツルの不規則な動きは読みにくく、かわしにくいので、くらってしまう。


「いい!! もっと苦痛に歪む顔を見せてー!!」


 叩く感触に酔い、痛がっている顔を見て興奮し、ツルを振り続ける。なす術なく叩かれているが、耐えており目力が強い。


「その屈していない目もいいけど、これで終わりよ!!」


 ツルから無数のトゲを出して振る。少年の体に当たり、トゲが刺さった。


「えっ!?」


 無防備でまったくよけなかったのでアネモウネは驚いた。古貞は痛みに耐えて笑っている。


「眠らないなんて!!」


 当たったのに平然と立っているのを見て、さらに驚く。


「その毒はきかねえよ!!」


 聖女の雫があるのでダメージを受けても毒はすぐに消え、眠ることはない。


「その胸にあるのは聖女の雫!! 毒がきかないのは、それのせいか!!」


 胸についている聖女の雫に気づいた。


「それをとれば!!」


 ツルを振り、聖女の雫を狙うが、簡単につかんだ。トゲが刺さっても痛みを我慢して引っぱり、アネモウネの体勢を崩し、ツルを斬った。


「やるじゃない!!」


 斬られたことを喜び、ツルを再生させた。


「だったら、これならどう!?」


 胸部の花から能力を封じる花粉を放つ。


「そいつもきかねえよ!! なっから風!!」


 古貞は刀から冷たい風を放ち、花粉を凍らせて、ふきとばした。花粉は凍って無力になり外に漏れることもない。


「風で花粉を!!」


 凍って煌めきながら散る花粉を見て驚いた。


「能力を封じる花粉なんて浴びる前にふきとばせばいい!!」


 彼女の能力をつぶしていき、追いつめていく。


「いいわ!! いいわ!!」


 アネモウネは動揺しながら楽しんでおり、胸部の花から蜜を出した。前と違って少年は万全の状態なのでかわした。

 彼女は蜜をまき散らし、古貞はかわしていくが、急に片足が動かなくなった。


「蜜で足が!!」


 粘り気がある蜜によってブーツが少し溶け、片足がくっついていた。すかさずアネモウネは少年の首にツルを巻きつけた。トゲが刺さってくいこみ、外すことができない。

 力をいれて引っぱり彼を振りまわして引きずり、たたきつける。聖女の雫もダメージでひびがはいり、限界が近い。壊れたら解毒ができなくなる。


「この!!」


 古貞はツルを斬って脱出し敵に近づき、胸部と股間の花を斬り落とした。


「残念!!」


 花を失ったのに彼女は邪悪な笑みを浮かべて抱きついた。


「こいつ!! はなせ!!」


 抵抗しようにも両腕を封じて抱きついており、刀は使えず体が彼女の体にくっついているので逃げることができない。


「食虫植物は近づいてきた昆虫を捕まえて食べる。このまま栄養にしてあげるわ」


 囁いて少年の頬を舐める。生温かい舌は気持ち悪く、顔をしかめた。


「いい!! いい!! すごくいい!!」


 アネモウネは少年の味に興奮し、両腕に力をいれ、さらに密着する。


「溶けてる!?」


 団員服が少し溶けていることに気づき、痛みを感じた。聖女の雫も溶けかかっており、いつ壊れてもおかしくない。

 体がくっついており、無理に離れると皮膚がはがれそうな痛みを感じたので動くのをやめた。


「あきらめたの? それがいいわ。あんたはよくやった。私の能力に対抗して、ここまで闘ったのは、あんただけよ」


 今までと違い、優しく微笑み、ゆっくり溶かして栄養を吸う。しかし少年はあきらめていなかった。


「能力を封じていたら、お前の勝ちだった!! 鬼曼珠!!」


 古貞は刀に炎をまとい、アネモウネにその炎を浴びせる。


「ぎゃあー!!」


 彼女は燃え、少年をはなした。同時に聖女の雫が砕け散った。


「やってくれるじゃない!!」


 苦しみながら不気味に笑っている。


「とどめだ!!」


 刀を振り、燃えているアネモウネの首を斬った。落ちた首はまだ笑っており不気味だったが、体とともに燃えて消滅した。


「なんとか倒した」


 倒した時の彼女の笑顔が目に焼きついてしまい恐怖を感じ、勝利を喜ぶことができなかった。それでも強敵を倒したのは事実。


「さて母親をどうするか?」


 樹里に近づいて舐めるように裸体を見る。樹なので、いくら見ても逃げず隠したりしない。


「この樹がある限り、ここの植物どもは成長し増えていく。彼女は娘達と違って悪人じゃねえが、悪いことをしてる。このままにはしておけねえ」


 樹を処分しようと斬りかかる。しかし頑丈で刀が通らない。


「やっぱり、ただの樹みてえには斬れねえか。鬼曼珠!!」


 攻め方を変えて刀にまとった炎を放った。頑丈なだけでなくバリアがあり、あまり燃えず炎を消したが、バリアは弱っている。


「追風乗!!」


 刀の峰から風を放ち鋭く振る。バリアを破り、刀が通って、そのまま切断した。樹が倒れると光り、女性の姿になっていき、人間の樹里に戻った。

 二人の子供を産んだとは思えない若々しい美女で大樹のような母性を感じる。


「植物が!?」


 周りの植物が枯れて消えていく。樹里が元に戻った影響だろう。


「こいつを運んで、ここから出よう。ゆきだるまゆ!!」


 全裸の女性をそのまま運ぶわけにはいかないので五本の指から白い糸を出して巻いていき、雪だるまのような繭にした。


「これでよし」


 小さな体で大きな繭を背負って移動する。イバラもなくなっており、体で扉を開けて館から出た。庭園の植物も消えており歩きやすくなっていた。

 花園館は古貞によって植物が生えていない荒れ果てた洋館になった。


 ◇


 アネモウネを倒した日の夜。古貞とさゆりは外にいた。


「すごいわ、古貞君。私でも勝てなかったアネモウネに勝つなんて。もう私が教えることはなにもないわね」


 彼の活躍を知っており喜んでいるが、同時に寂しげな表情を浮かべていた。


「勝てたのは、さゆりさんのおかげですよ。さゆりさんと出会っていなければ今のおれは存在しません。本当にありがとうございました」


 人生を変えてくれた彼女に感謝し深く頭を下げた。なにもかも強くなった少年を見て、さゆりは微笑む。


「もうだいじょうぶそうだし、そろそろ朱鷺世へいくわ」

「そうですか。さゆりさんなら朱鷺世でもやっていけますよ」


 別の空間で一年ほどともに生活したので、いなくなっても、あまり寂しくない。


「上馬も今宵限りね。ここが好きで一生懸命働き、友達もいて、可愛い弟子の君と離れるのは辛いけど仕事だからしょうがない」


 周りの景色を見て彼女はしんみりした。


「上馬のことを頼むわね」

「はい。さゆりさんから教わった力で守っていきます」


 頼りになる少年を見て微笑み、涙を浮かべた。


「さゆりさん、涙」


 古貞が涙に気づいたので彼女は指で拭った。


「それじゃあ古貞君!」

「がんばってください、さゆりさん」


 さゆりは手を振って移動し古貞も手を振った。どんどん離れていき、彼女の後ろ姿が見えなくなっていく。


「いっちまった」


 完全に姿が消えても彼は動かない。


「朱鷺世へいくことがあったら会いにいくかな」


 永遠の別れではないので頭をかいて笑う。この日、上馬からさゆりはいなくなったが彼女の力と意志は古貞に受け継がれた。



 




 さゆり、一旦退場。

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