第16話 母に迫る悪
獣人達が古貞の母親を殺しにきた。懐かしいキャラが登場します。
◇
その日の夜。伊仙奇にある古貞の家に五人の犬獣人が音をたてずに近づいている。
「あの家におれ達に逆らうガキの母親がいるのか?」
この獣人達は陸雄の命令で古貞の家族を殺しにきた者達だ。戦闘が苦手で弱者を殺すのが好きなゲスどもで連合団との戦闘をさけ、喜んでこの任務を受けた。
「ええ。あのむかつく古貞を産んだクソ母親がいるわ」
獣人達の中に凪がいる。陸雄が第四基地に連絡をしたことで彼女が協力者に選ばれた。古貞のことをよく思っていないので彼が悪党になったことを聞いて彼女はいい気味と思い喜んだ。
古貞がいなくなってもグループの仲は最悪で崩壊し他のグループに入ることなく、ひとりで仕事をすることが多くなった。しかし口だけの女なので、ろくに仕事ができず落ちぶれてしまい、すべて古貞のせいにしている。
そのため彼の母親を殺すことに協力し、これは正義の行動なので手柄になり、エースの座に返り咲くこともできる。
「母親の画像を見たが悪くない女だ。楽しんでから殺すことにしよう」
凪は古貞の家族情報を獣人達に提供していた。そういう趣味があって引き受けた者もおり下卑た笑みを浮かべていた。
「もうメチャクチャにしていいわ。母親が死んだら古貞はどんな顔をするかな」
反逆者を産んだ親も同罪と思っており凪は母親の死を楽しんでいる。
古貞が悪党になったことは公になっておらず、そのことを知っているのは名尻指揮官と凪だけで今回の母親殺しも犯罪者がやったことにしようとしている。
相手は素人。夜で人はおらず周りの家は離れており、多少の音が出てもだいじょうぶなのでばれることなく簡単に終わる。
「よし、いくぞ」
弱そうな犬の獣人達が家に近づくと、ひとりの女性が立っていたので止まった。
「何者だ? おれ達は団員で、この家の女性に用があるだけだ。邪魔をするとただじゃすまないぞ」
殺しにきたことをごまかすが女性はどかなかった。
「悪党だから団員に従うわけないでしょ」
「あんたはアネモウネ!!」
凪はその女性を知っているので驚いた。彼女は裏の情報で古貞の母親が危ないことを知って、ここにきていた。
「古貞が倒したと言ってたが、あの無能!」
悪党が死んでいなかったので少年のことを悪く言う。女嫌いのアネモウネは凪の言葉に反応し殺気を放つ。
「やつは何者だ、凪?」
知らない相手なので獣人は少女に聞く。
「アネモウネという男ばかりを殺していた植物の陰キャ痴女だ。ここのエースの秀羽を倒した強敵だ」
悪口のように彼女のことを教える。
「能力封じの花粉と溶解液の蜜、刺さると眠くなるトゲのツルがあるから気をつけた方がいい」
彼女のデータがあり、古貞の勝利が活かされていた。
「なかなかの強敵のようだが、おれ達の敵ではないな」
獣人達は余裕の笑みを浮かべ、凪は彼女の強さを見たことがなく五人の味方がいるので余裕がある。
「古貞の母親には指一本触れさせないわ!!」
アネモウネは胸部の花から花粉を放つ。獣人達は素早い動きでかわし、凪は花粉が届かない安全なところまで離れた。
「おれ達には元々能力がないから花粉をくらっても平気だ!!」
ここにいる獣人達は弱い無能力者で攻撃をかわすのが得意だった。能力封じの花粉でも身体能力は封じることができない。
「なら蜜で動きを封じて溶かせばいい!!」
胸部の花から蜜を出す。しかし花粉と同じようにかわし蜜がかかって溶けている地面から離れた。アネモウネの攻撃も命中しなければ怖くなかった。
「けっこういい女だから母親の前に楽しむか!!」
不気味ないやらしい美女に興奮し獣人達はしまりのない顔で舌を出していた。かなりの戦闘だが外に出ないと分からないので人々は気づいていない。
「まさにケダモノ! いいわあ! 私の花びらを舐めさせたい!」
痴女のように興奮しており、股間の花から蜜をたらして地面を少し溶かした。
「でも古貞の方がいいから殺してあげる」
少年のことを思いだして冷静になり胸の谷間に手を突っ込み、なにかを引っぱりだす。出てきたのは人のような顔がある人の形をしたニンジンでアネモウネは頭部分にある葉を持っていた。
「なんだ?」
よく分からないものが出てきたので獣人達はいつでも動けるように警戒している。
「あんなの知らない!」
データにないので凪は動揺している。
「これが私の新たな力!!」
アネモウネは嗜虐的な笑みを浮かべ、ニンジンの脚のような部分を持って折った。ニンジンの顔は苦痛で歪み、悲鳴をあげるように大きな口を開けた。
「このうるさい悲鳴は!!」
なにも聞こえないが獣人達には聞こえており四人は死んで倒れた。
「元姉の肉食野菜の技術を応用したのよ!!」
持っているニンジンはベジカラフルの技術で生みだしたもので、それを攻撃に利用した姉妹の合作のようなものだった。ニンジンに痛みを与えると脳を死滅させる悲鳴をあげるが声がない悲鳴で聞こえる者だけが死ぬので周りに影響はない。
「くっ!! こんなやつがいるなんて!!」
なんとか耐えて生きている獣人がひとりおり、頭を抱えて苦しんでいる。かわすことができない広範囲の音攻撃など弱い獣人ではどうすることもできない。
「た、助けてくれ!」
協力者の凪に助けを求める。獣人達と違って悲鳴が聞こえていないので平気だった。しかし彼女の表情はとても冷たく助ける気などなかった。
「役に立たないやつを送ってきやがって」
凪は生きている獣人に近づいて蹴った。悲鳴のせいで脳が半分死んでおり、彼は起きあがることができなかった。
「なにをする!? おれは胡麻見家の団員だぞ!!」
格下の少女団員に蹴られたので頭の痛みを忘れるほど怒った。
「悪党に負けたやつがなに言ってんの? あとは私がやるから死んで」
「やっ、やめ」
本気と分かり獣人は弱気になったが凪は無慈悲に頭を踏みつぶして殺した。彼女の所業を見てもアネモウネは仲間割れ程度としか思っていない。
「アネモウネを倒して古貞の母親を殺せば、みんな私の手柄! 返り咲くどころか大出世!」
頭を踏みつぶして汚れた足を振ってきれいにし勝利する自信があるように笑っている。
「お前ごときが私に勝てるわけないでしょ」
古貞より弱い身の程知らずの少女なので怒って殺気を放つ。
「古貞でも勝てたんだから私でも勝てる」
古貞のことを嫌っているので、どこまでも過小評価している。
「お前と古貞は違う!!」
本気で怒り、ニンジンの首部分を絞める。悲鳴をあげているが聞こえていないので、なんともない。
「たしかに私の方が強い!! それを見せてやる!!」
自信と余裕がある彼女は笑みを浮かべて、ギザ歯をかんで鳴らす。
「悪口の炎!! キモいニンジン!! 燃えろ!!」
彼女の言葉が炎となって燃え、アネモウネを襲い、ニンジンを燃やす。凪に音攻撃はきかないので、すぐに捨てた。燃えてなくなるまでニンジンは悲鳴をあげている。
「どう? 私が得た能力」
自慢するように悪い笑みを浮かべた。無能力者だった彼女は能力者になっていた。自分の言葉を炎にする遠距離攻撃でアネモウネに近づいて刀で闘うようなことはしない。
凪の能力は炎上がモチーフなので悪口を言えば炎になります。
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