第12話 堕ちた翼
敗北した厳郎達の地獄回。
敗北した厳郎達はドワーフ団の基地から、とにかく離れるように走って逃げる。負けることが許されない戦いで身分が低い連中に負けた面目丸つぶれの敗走だ。
「敵は追ってきていないようだ!! ゆっくり移動しよう!!」
後ろを見た厳郎は部下達に命令した。ドワーフ団の基地が見えなくなり敵の追撃がない。このままのペースで走るのは無理なので、ゆっくり歩く。
部下達は暗い表情で汚れており、名門貴族の部隊には見えない惨めな姿になっていた。
「これからどうするのですか、お父様?」
団員達が話せる空気ではないので礼羽が聞きづらいことを聞く。
「これでは戦うのは無理だ」
厳郎は部隊を見た。胡麻見家の精鋭はおらず傷つき疲れている白鳴家の精鋭が少数だけで戦うのは無理だった。
「獣人団の基地へ向かい、転送装置で第一基地へ戻り、態勢を立て直す。そして今度こそ反逆者どもを一掃する」
ドワーフ団の基地にきたようなトラックがなく第一基地へいくのは無理なので近い獣人団の基地なら歩いていける。
あきらめている団員達がいる中、厳郎はあきらめておらず今度こそ勝てると思っている。礼羽は今回の戦闘で半分あきらめているが父親に従うしかなかった。
「とにかく獣人団の基地へ向かおう」
「はい」
敵の追撃が怖いので厳郎達は後ろを警戒して移動する。今攻撃されたら礼羽しか生き残れないだろう。
◇
厳郎達はかなり歩いたが疲れているので移動が遅く、獣人団の基地にまだ着いていない。
「これ以上、歩くのは無理だな」
情けない部下達を見て余裕がある厳郎は呆れていた。休むと厳郎がうるさいので団員達は疲れていても歩くしかない。
「お父様。敵はまだ追ってこないようなので少し休みましょう」
余裕がある礼羽が言えない団員達に代わって進言する。
「そうだな。あの街で休もう」
近くに街があり厳郎と礼羽が先頭を歩き、団員達はついていく。街で休めると皆は思ったが領民達がおり街に入ることができないので止まった。武器になりそうな物を持っており歓迎していなかった。
「あんたらは」
街の長老のような人が厳郎達を睨んでいる。
「私は白鳴家の厳郎だ。反逆者どもに敗れて獣人団の基地へ向かおうとしているが疲れてしまったので、この街で少し休ませてくれ」
領民達のために戦っているので助けてくれると信じており少し偉そうだった。しかし厳郎は甘かった。
「お断りだ」
長老や領民達は厳郎達を街に入れる気がない。
「なぜだ?」
長老の言ったことが信じられず理解できなかった。父と違い娘は分かっており、休むことができず変なことになっているので団員達は動揺している。
「当然だろ。この街を見ろ。お前達に搾取されて貧乏になってしまった」
街を見るとつぶれた店や汚い建物だらけで人々の服装もひどく苦しい生活をしていた。この街で搾取をしているのは獣人団で幼仲が命令したことなので厳郎は知らない。
「皆の生活が苦しいのに容赦なくむしりとり逆らえば殺す。そんなことをしてきたあんたらを助けるわけがないだろ。助けてもらいたいのはこっちの方だ」
人々の怒りと恨みが深く、幼仲の命令で獣人団はよほどひどいことをしたようだ。
「私達は食糧や金をよこせとは言っていない。ただここで少し休ませてほしいだけだ。それにその問題は幼仲様がちゃんと統治すれば解決する。だからそれまで我慢してほしい」
長老の話を聞いても、なにも感じず信念を貫き、自分の理想を領民達に押しつけるだけだった。自分が命令してやらせたことではないので、どうでもいいと思っており幼仲を真面目にすることしか考えていない。
そんな話を聞いて貧乏生活をしている領民達が理解するわけがなく怒りを増していく。
「バカ当主のために苦しめと。もはや話にならない。それにあんたらは連合団に負けた。こうなった場合、我々を蔑ろにする敗者より連合団に協力した方が得だ」
領民達は連合団のことを応援しており厳郎達を助けて敵と思われたくなかった。
「貴様らも反逆者か!! どいつもこいつも!!」
主に逆らう領民達なので厳郎は怒ったが礼羽と部下達は怒る気になれなかった。
「幼仲様に逆らう者は敵だ!! やつらを殺せ!!」
とんでもない命令をしたので礼羽達は驚いた。
「正気ですか、お父様!? 領民達を殺すなんて!!」
「やつらは領民じゃない!! 反逆者だ!! このような者達がいたら幼仲様の統治の邪魔になる!! 早くやれ!!」
頭に血がのぼっており、邪魔者達を殺すことしか考えていない。厳郎が怖く、礼羽達は命令に従い武器を構える。
「やつらはやる気だ!! どうせこのまま生きていても地獄!! 私達の底力を見せてやろう!!」
「「「おおお!!」」」
領民達も武器になりそうな物を構えた。武器の性能などが違い、領民達はマシンガンで蜂の巣になっていく。それでも恐れずに向かっていき、団員達を攻撃する。
領民達は怒りや恨みをぶつけるように団員が死ぬまで攻め、数を減らす。攻撃が弱いので団員達は楽に死ねず苦しみながら死ぬという地獄だった。
「私はまだ死ぬわけにはいかない!! 昔のような胡麻見家にするまで!!」
自分の理想のために剣を抜き、向かってくる領民達を斬っていく。礼羽も生きるために心を殺して領民達を斬り、数が多い敵を減らしていく。
「ここから出ていけー!!」
人々は石やそこらへんにある物を投げ始めた。
「全員、逃げるぞ!!」
かなりの数を失い、これ以上ここにいてもしょうがないので逃げることにした。団員達が一目散に逃げたが咎める暇がなかった。
「なぜ領民達は分からないのだ!! こんなことをすれば自分達の生活が苦しくなるだけなのに!!」
厳郎は物を投げ続けている領民達を睨んで逃げる。領民達は今の生活を考えており幼仲が真面目になるのを待っていたら死んでしまうので厳郎の理想など分かるわけがない。
厳郎達は連合団だけでなく領民達にまで敗北した。白鳴家の名が通用するのは幼仲の周りだけだった。
◇
追い返された厳郎達は惨めな気持ちが増し、休むことができず戦闘になったので移動が遅い。中には歩くのをやめて休み、スキを見て逃げる者がいた。
「また逃げた」
礼羽は逃げる団員を止めなかった。
「休む者、逃げる者はどうでもいい! 今は獣人団の基地へいくことが大事だ!」
厳郎は部下達のことなど考えていなかった。そんな彼に従う者はわずかだった。そして獣人団の基地に着かない厳郎達にさらなる絶望が訪れる。
「お父様!! 敵です!!」
後ろから音がしたので礼羽は振り向いた。連合団の部隊が猛スピードで走っている。先頭は雪達で彼が率いる水柿家の団員を中心とした部隊だ。
連合団がドワーフ団の基地を完全に制圧した後、雪達は部隊を率いて敵を追いかけた。領民達がいい時間稼ぎをし、連合団に連絡をしてくれたので追いつくことができた。
「おのれ!! このままでは追いつかれてしまう!! 礼羽!! お前だけでも獣人団の基地へ飛んでいけ!!」
「お父様!!」
もう翼は治っているので飛んでいくができる。幼仲のために娘を生かそうとしている。
「私達も反逆者どもを倒して基地へ向かう!! だが私が死んだら、お前は私の分まで幼仲様のために働くのだ!!」
娘に自分の役目を押しつける。彼女にとっては迷惑だが命をかけている父親に逆らうことはできなかった。
「分かりました!! ご武運を!!」
礼羽は背中から白と黒の翼を出して飛んだ。
「私は死なんぞ!!」
敵がすぐそこまできているので逃げるには倒すしかなく厳郎は剣を抜いた。
「お前は死ななきゃいけない!!」
槍を持った雪達は厳郎に向かっていく。幼仲と同じくらい領民達に恨まれており、忠義の塊なので生かす意味がない。
戦う部下達もいるが数も体力も違い、簡単にやられ、厳郎だけになってしまった。ひとりになっても彼はあきらめず雪達を倒そうと剣を振る。
礼羽の父親だけあって老人とは思えない強さで雪達は苦戦しており、彼の部下達も手を出すことができない。
「幼仲様のために、お前と反逆者どもを倒す!!」
凄まじい執念で雪達の槍を弾きとばす。しかし槍がなくなっても腰にさげている刀を抜いて厳郎を斬った。
致命傷で力が抜けていき、剣を落とす。
「ご先代様、幼仲様……申し訳ありません。礼羽……あとは頼んだぞ」
自分の死が分かり、最期の言葉を吐いて、うつぶせに倒れた。最期まで愚かな当主に尽くす男だった。
「沼束の平和を乱したひとり 厳郎を倒したぞ!!」
雪達が刀を掲げて叫ぶと団員達は歓声をあげた。歓声が少し聞こえ、飛んでいる礼羽は父の死を知った。強い娘なので父の死を受けとめて悠然と飛んでいた。
そして獣人団の基地が見えてきたので地上に着地した。
「幼仲様に報告しないと」
敗北を報告するために進もうとした時、基地から犬の獣人達が出てきて彼女を包囲した。
「な、なに!?」
礼羽は驚き、周りを見る。獣人達はマシンガンを構えており、抵抗すれば撃つ感じなので冷静になって警戒する。
「敗北の責任でお前を連行する!! これは幼仲様のご命令だ!!」
偉そうな獣人の言葉で彼女は絶望しそうになった。獣人達は彼女の両手を拘束ワイヤーで縛って引っぱり、基地へ連行する。
父を失い、ここまで逃げてきた彼女にひどい仕打ちだった。
厳郎の死とともに白鳴家は終わった。次回、礼羽処刑!?
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