第1話 強欲なドワーフの商人
紅一天下編の続きです。
義賊生活三日目の朝。秋が近いので、あまり暑くなく、過ごしやすくなっていた。
淫魔団の基地の近くにあるドワーフ団の基地。厳郎達が乗っているトラックの大群が到着した。基地に入らずトラックは停まり、コンテナから団員達が出てきて整列しトラックの助手席から厳郎と礼羽が降りてきた。
「ようこそ、厳郎様、礼羽様」
人相が悪い中年男性のドワーフが媚びた笑みを浮かべて現れた。大きな丸い鼻と顔が隠れるほどの茶髪と茶色のヒゲ、黄金の歯。煌びやかな金色の団員服姿ですべての指に大きな宝石がついた指輪をはめており、団員とは違う高級な黒い革のブーツを履いていた。
「秋内団長」
白鳴親子はドワーフを見て嫌な顔をした。彼がドワーフ団の団長 秋内予吉だ。
「あなた方がいれば、ここは安心。反逆者どもは終わりですね」
心の底では二人のことをよく思っていないが強力な戦力なので揉み手をして媚びへつらう。厳郎達も表面だけの味方だった。
「金のことしか考えないお前では反逆者どもと戦うのは無理だからな」
「まったくそのとおり。私は野蛮な戦闘が苦手です」
自分の弱さを恥と思っていない予吉の態度に厳郎は呆れていた。戦う気がなく白鳴親子にすべてを押しつけようとしている。
「私達ドワーフ団は物資の提供をします」
黄金のように輝く満面の笑みを浮かべて揉み手をする。
「お前達はそれぐらいしかできないからな」
自分ができる安全な仕事しかしない男なので期待していなかった。彼は戦闘ではなく商売をしている。
「それにしても相変わらず悪趣味でひどいところだ」
「本当ですね」
厳郎達は周りを見て顔をしかめた。基地は普通だが周りが普通ではなかった。ドワーフ団の基地がある場所は鉱山や畑があり、近くの街には温泉の宿がある。鉱山では特殊金属が生まれ、畑ではたくさんの野菜が育ち、領民達の生活を豊かにしていた。
しかし今では鉱山は荒れ果て特殊金属はなかなか生まれず、畑には野菜だけでなく不気味な植物が育っていた。
その植物は動き、人間のような形の根が地面から出てきた。弱いが増える植物 雑草兵だ。しかも豚人類がおり、畑仕事をしている領民達を監視している。
雑草兵だけでなく人間の死体が大量に埋まっており、骨になっているものもあった。領民達は死体や骨を気にせずに働いているが、かなり疲れていた。
「そうですか? 私には美しい光景に見えますよ」
予吉は本気で美しいと思っており、狂気の笑みを浮かべている。
「ここには無駄なものや無価値なものはありません。雑草兵という増える労働力。それを育てる領民達。過労や反逆で肥料にもなり野菜を収穫して売る。すべてのものにいろいろな価値があります」
言っていることはすばらしいが、やっていることは最悪だった。畑の肥料になっているのは過労で死んだ者や胡麻見家に逆らった者達で領民達はこうならないようにドワーフ団に従っている。
儲けはすべてドワーフ団が独占し、領民達は安すぎる給料でこき使われており、働いて現実逃避をしているようなものだった。
弱いドワーフ団でも領民には強く、豚人類や雑草兵、五魔獣団がいるので逆らう者はとても少なかった。
「ここは金を生みだす箱庭です」
彼の目は欲にまみれており、すべてのものが金に見えている。厳郎と礼羽は軽蔑と同時に哀れに思った。
二人は予吉のことを知っていた。彼は幼い頃、ひどい貧乏で人間扱いされていなかったため金のことしか考えない男になり悪徳商人になってしまった。
人の心と体を傷つけるあくどい商売をして儲け、逮捕されたが幼仲に賄賂を渡して、ドワーフ団の団長になった。今のドワーフ団は彼と同じ悪徳商人や違法技術者の集まりで土地と人材を得たことで手広く商売をしており、前より人々を苦しめている。
豪地や夢馬を超えるほどの醜悪な存在だ。
予吉の考えについていけない二人は彼の後ろにいる凱矢に気づいた。
「凱矢殿」
「凱矢」
嫌なものからいいものを見たので厳郎は気分がよくなり、礼羽は頬を少し赤くし、しおらしい態度になった。
「凱矢殿は秋内団長の護衛か?」
彼が話そうとした時、予吉が自慢するように笑って話す。
「そうです。これから用事があるので護衛として幼仲様からお借りしました」
嫌なやつが邪魔をしたので二人の機嫌は悪くなった。多くの領民が助かるほどの金を幼仲に渡して彼を護衛にした。
「一緒に戦ってほしいな。君がいれば反逆者どもを早く片づけることができるのに」
早く戦闘を終わらせたい厳郎にとって優秀な戦力の凱矢は魅力的だった。
「それは無理です。あなた方の戦闘と違って、こちらの方が重要です。それとも凱矢がいないと勝てないのですか?」
「失礼な!! そんなことはない!!」
嫌っている予吉の挑発で厳郎は感情的になった。
「こちらには白鳴家と胡麻見家の精鋭がいる!! 私達だけでも反逆者どもを倒せる!!」
厳郎は怒鳴り、そんな父が恥ずかしい礼羽は整列している団員達を見た。ちゃんと整列している者達の中にだらけている者達がいた。
だらけているのは胡麻見家の精鋭だ。幼仲の悪政とともに、まともな人材は処刑され、逃げたりして、バカ当主にゴマをする違う意味の精鋭ばかりなってしまった。
白鳴家も厳郎についていけず逃げる者が多く、最近の人材は質が悪く昔のような強さがない。ここにいるのは名家に所属しているだけの精鋭で礼羽は不安を感じていた。
「それでは、なんの心配もありませんね。私達はいきますので基地のことをよろしくお願いします」
予吉と凱矢は頭をさげた。
「言われなくても、この基地は守る!!」
厳郎は連合団を倒すためにきたので、ここでこき使われている領民達を救う気などなかった。畑仕事をしている領民達は助けてくれない厳郎達を睨んでいる。
重大な使命で周りが見えていない厳郎と違い、礼羽は気づいており、美しい肌に刺さるような冷たい視線で心を痛めていた。
予吉と凱矢は基地へ向かい、厳郎と礼羽は戦闘の準備をする。
「お父様。このまま淫魔団の基地へ向かうのですか?」
「いや。ここで反逆者どもを迎撃する。基地から離れたら守ることができない」
厳郎の考えは基地から離れず迎撃することだった。自分達の縄張りならドワーフ達は安全に物資を届けることができる。
「それと反逆者どもに降伏勧告をしろ。私の情けだ」
「はい」
父の指示に従い、娘は敵に連絡する。戦闘をせずに敵が降伏して終わることが一番いい。
「高山奇第三基地にも刺客を送った。これで沼束は昔のようになる」
古貞や聖華のような裏切り者を送った高山奇第三基地への報復も忘れていなかった。すべて平和のためとバカ当主とは違う意味で独善的だった。
そのため、この戦闘は負けるわけにはいかなかった。しかし一部の団員がひどく、ちゃんと働いているのは礼羽と一部の白鳴家の団員で勝てるかどうか不安がある。
◇
ドワーフ団の基地の中。厳郎達が外で戦闘の準備をしている時、予吉と凱矢は廊下を歩いていた。
「まったく、あのジジイはむかつくな!!」
笑顔だった予吉は不機嫌な顔をしている。強くて偉い者の前では媚びへつらうが陰では悪口を言っていた。
「それでどんな用事なのですか?」
呆れている凱矢は仕事の話をした。
「淫魔団の基地で手に入れたエルフの女達と他の女達を売りにいく。エルフは捕まえるのが難しいから高く売れるはず。それとバカ当主のために新しい美女を買う」
用事は人身売買だった。商売上手の予吉はハーレムの女を買う仕事もしており豪地や夢馬と同じでバカ当主を利用し忠臣のフリをしている。
「少し治安が悪いところだから、お前のような護衛が必要で他にも護衛がいる」
凱矢以外にも護衛がいる。予吉は大金で護衛などを雇って自分を守り、荒っぽいことをやらせている。
「護衛が必要ということはあそこですね」
彼の護衛をすることが多い凱矢はなんとなく分かった。
「そうだ。売るところはアマゾポリスだ」
予吉は笑い、凱矢の予想は当たった。そして部下達や雇った護衛は商品の準備をしていた。
◇
淫魔団の基地の中。予吉達が商売の準備をしている頃、古貞達は大きなテントの中に集まっていた。
「ドワーフ団の基地に厳郎と礼羽がきた」
礼羽の連絡でドワーフ団の基地にいる敵が分かり、絵亜郎は皆に伝えた。二人を知っている者達は驚き、知らない古貞は反応が薄い。
「白鳴親子が出てきたか。他の貴族どもよりはマシだと思っていたが、しょせんバカ当主の忠臣か」
緋恋は恐れており怒りを感じていた。
「すまねえが厳郎と礼羽のことを教えてくれ」
なにも知らない古貞によって皆の緊張はほぐれ、笑う者が出た。
「胡麻見家を支えてきた沼束の名家 白鳴家の親子だよ」
沼束出身の鮎美が教えた。
「私も聞いたことがあります。父の厳郎は戦略の天才で娘の礼羽はたおやかな美女ですが一騎当千の実力者で白い戦乙女と呼ばれています」
少年の役に立とうと聖華は微笑みながら二人の情報を話した。沼束出身ではない彼女でも知っている恐ろしい二人だということが分かった。
「白鳴家は攻めてくる気はなく降伏勧告をしてきた」
絵亜郎は厳郎が考えて礼羽が伝えた降伏勧告の内容を話す。
「内容は紅一天下の頭 緋恋と裏切り者 古貞が自決をすることで羽矢雲家と水柿家、聖華と今回の反乱に関わった者達を許すというものだ」
上流階級を殺せば問題になるので下級貴族と聖華を生かし、庶民の古貞と緋恋に責任をとらせて、なんの問題もなく戦闘を終わらせる考えだろう。
「私はお断りだ。ここで死ねば、すべてが無駄になり、あのバカ当主が領民達を苦しめる未来になってしまう」
緋恋は死ぬ気などなかった。
「私も降伏はしない。厳郎が許しても幼仲が許すとは思えない」
今の胡麻見家は信用できず幼仲に復讐することが目的なので絵亜郎と雪達も降伏しない。
「古貞君を死なせることなんてできない」
「そんなこと認められません」
鮎美と聖華は怒っており、少年を死なせる気などなかった。
「人気者だね、岡井」
「からかうな、宮ちゃん」
怒ってくれる二人を見て古貞はうれしかった。宮も彼女達と同じ気持ちだが少年は気づいていなかった。
「降伏しないのなら、このまま攻めるのか?」
絵亜郎は首を横に振った。
「その前にやることがある」
「やることってなんだよ?」
「木琳の話でドワーフ団の団長 秋内予吉がエルフの女達をある場所へ売りにいくということが分かった」
捕まっていた木琳は予吉の話を聞いていた。そして、そのことを絵亜郎に伝えた。
「基地を攻める前に彼女達を救出し、できれば予吉を倒したい」
やることはエルフの女達の救出とドワーフ団の団長の殺害だった。
「予吉を倒せば基地は混乱し厳郎との戦闘も有利になる。今のドワーフ団は悪徳商人と違法技術者の集まりで戦闘はまったくダメだ。団長が死ねば厳郎達への支援どころじゃないだろう。うまくいけば基地を奪える」
戦略の天才といっても厳郎は感情的なところがある脳筋で礼羽は強さでゴリ押しするタイプなので繊細な頭脳戦には弱い。
「それでどこなんだよ? ここから遠いのか? 近いのか?」
木琳から場所を聞いているので絵亜郎は答えることができる。
「すぐいける場所で別空間のアマゾポリスだ」
「アマゾポリスだと!?」
厳郎と礼羽の時と違い、今度は古貞も知っていた。
予吉の名前は預金。
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